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妖刀迅譚  作者: 梯広 興
邂逅編
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2/13

妖刀迅譚

どうも、梯広興です。妖刀迅譚、第二話となります。TwitterでRTしてくださった方々の作品を読ませていただき、とても勉強になりました。引き続き参考にさせて頂きたいです。

 「立てるか?」


 「あっ、ありがとうございます…」


 惣一郎は呆気にとられつつも男の手を掴みつつ立ち上がる。


 つい先ほどまで惣一郎を喰わんとしていたバケモノは袈裟斬りにされ、泣き別れになった下半身は徐々に炭化してボロボロに崩れていく。


 「大変だったな、手当するから傷を見せてくれないか」


 折れた刀を一目見て、状況を察したのだろう、男は眼の前の青年に声をかける。しかし、若者は直立したまま動けずにいた。


 異形と相対してからここまでたったの五分程、その間に彼は会敵、命の危機、謎の男の救援・・・。


 張り詰めていた糸が切られたように、先程まで自分の首に掛かっていた死の恐怖が今になってようやく押し寄せてくる。


 「大丈夫か?震えてるぞ?」


 眼の前で手を振りながらも、渋くも艶のある声で男は若者に声をかける。


 思考回路がようやく繋がった惣一郎は、我に帰り男に傷を見せる。


 「家は近いのか?」


 男は慣れた手付きで布を腕の切り傷に巻きながら尋ねる。


 「はい、峠を越えたところに…」


 処置を終えた男は惣一郎の言葉を受け、立ち上がり、背を向ける。


 「乗りな」


 ・・・大の大人になって誰かに背負われるのは恥ずかしいし、気が引ける。


 しかし、夜更けも近い。負傷と恐怖、疲労。この足枷を付けながら家路に着こうものなら今度こそ野盗か熊の餌食になるのは火を見るより明らかである。


 「…お願いします。」


 やはり人間は本能には抗えなかった。


 「行くぞ、落ちるなよ!」


 男は山の中を、あたかも怪我人を乗せる速度では無いほどの俊足で山を駆け抜ける。


 子供の頃、村に数匹しかいなかった馬に乗せてもらったことを思い出しながら、あまりの速さに歯を食いしばる。


 「着いたぞ」


 背中に負われつつ、揺られること暫く、小規模な集落に到着する。


 現在、逢坂関から数里先にある山里に惨状を生き延びた子供たちと住んでいる、いや、間借りしていると言った方が良いのかもしれない。


 この里は関から数里の位置にあるにも拘わらず、関側に険しい斜面があることからあまり警戒されないため、「関所破りの隠れ里」というとんでもない称号をその手の者から付けられている。


 それ故か、余所者には比較的寛容であり、惣一郎一行は里の外れにある空き家を借り、かれこれ五年程生活している。


 「惣にぃお帰り!!」


 男が惣一郎を降ろすとほぼ同時に家から元気な声とともに男の子が飛び出してくる。それと同時に数人の同じくらいの子供も飛び出してきた。


 「弥助(やすけ)、ただいま」


 「弥助、ふみの言うこと聞けてたか?」


 大の大人が背負われて帰ってきたという、ある意味の危機が発覚せずに済んだことに胸を撫で降ろしつつ、惣一郎は元気にこちらに向かってきた少年、弥助の頭を撫でる。


 「惣!!その怪我どうしたの?」


 子どもたちに男共々囲まれていると、玄関から悲鳴にも近いような声がした。声の主は土間から惣一郎の傷を見止め、心配そうな面持ちをしている。


 「あぁ…、帰り道で色々あってな・・・」


 「いろいろ…?」


 声の主、|鹿山(かやま)ふみは惣一郎の答えに、怪訝な表情を浮かべる。


 しかし、彼にもどのように説明すればいいかわからない、まさか「帰り道にバケモノに襲われてさぁ・・・」なんて言ったところで正気を疑われるのがオチだ。


 「そして、その時にこの人に助けてもらったんだ。」


 惣一郎は男を見ながら答える。男は元気盛りの子どもたちに囲まれて少し困惑しつつも、ふみを見て軽く会釈をする。


 「そうだったんですか…。家の惣一郎を助けていただきありがとうございました。」


 「いえいえ、これくらいは・・・」


 ふみが深々と頭を下げ、命の恩人()も頭を下げる。


 「よろしければこちらで御礼も兼ねて夕食はいかがですか?」


 「いえいえ、さすがに申し訳ないですよ…」


 ふみの申し出に、男は申し訳無さそうに遠慮する。


 しかし、命の恩人を何の礼もせずに終わるのは、流石に憚れるところがある。男に群がる子供たちを引き剥がしつつ、最後の一押しを加える。


 「助けて頂いたお礼に、俺からも是非、お願いします」


 「それに、何があったかについてもお聞かせ願えないでしょうか?」


 「…分かりました、そうであればお言葉に甘えて…」


 なおも男は申し訳無さそうに言いながら、ふみに案内されて家の中に入っていく。


 「狭い家ですが…」


 「ここにこの人数で住んでるのか…?」


 この家は元々空き家だったが、惣一郎達が辿り着いた時に里長の好意によって貸してもらっている。しかし、六畳二間であるこの家に計十二人が住むには少々に手狭に感じてしまう。心配そうに見つめる男を察して家主は答える。


 「里長の好意で貸してもらってますし、何よりあまり贅沢をしなければなんとか生活はできてます。」


 「そうか…」


 そんなどこか探るような会話は、ふみが上げた膳によって一旦切り離された。日頃の食卓にはまず上がらない白米と家の裏で採れた大根などの煮物、近所の猟師からもらった牡丹肉の焼き物という豪盛な夕食である。


 子供たちは滅多に無いご馳走に各々歓声をあげながら箸を進める。


 惣一郎自身も箸の手を止め、男に向き直る。


 「そういえばまだお名前を伺ってませんでしたね…、自分は惣一郎といいます。こちらは鹿山ふみです。」


そう紹介するとふみは恭しくお辞儀をする。


 「申し遅れた、秋月尚久(あきつきたかひさ)という。」


 「改めて、家の惣一郎がありがとうございました。もしよろしければ今日あったことについて教えていただけませんか?」


 ふみの言葉に頷いた惣一郎と謎の侍改め、尚久は今日起こった()()()について話した。


 当然、ふみは「そんなこと…」とあり得ないという反応を見せるも、裂かれた傷や折られてしまった刀を見て納得したようだ。


 「なるほど… 惣一郎がご迷惑をおかけしました。そして、助けてくださりありがとうございました。」


 そういうなり、ふみは恭しく頭を下げる。それに倣い惣一郎も頭を下げる。


 「いえいえ、私はこれが生業なので…」


 「生業?」


 「ああ、私は霊迅衆(れいじんしゅう)という組織で(あやかし)の討伐をしています」


 れいじんしゅう?妖?惣一郎は、幾つか出てきた疑問を更に謎が増していく、眼の前の侍にぶつける。


 「妖の討伐…ですか…?」


  「妖怪退治って言えば解りやすいかな、聞いたことがあるじゃないかな?源頼光の酒呑童子退治や化け狐退治の話を。」


 幼い頃、母から昔話として聞かせてもらった事がある。『昔、山城には酒呑童子という鬼がいたけれど源頼光という強いお侍さんに退治された。惣一郎も頼光さんみたいに強い男になりなさい』と…。


 しかし、妖怪とは想像上の産物であり御伽話などのであるとつい先刻までは思っていたのだが、あのバケモノの人外ぶりを目の辺りにすると信じざるを得ないだろう。


 「妖ってそんなに沢山いるものなんですか?」


 惣一郎の問いに侍は、ゆっくりと答える。


 「あぁ、いる。神隠しや原因不明の行方不明、村や町の壊滅が妖の仕業とされているものも多い」


 彼の言葉に対して、青年は突然の情報に呆気にとられ、言葉にすることが出来なかった。


 「それにどうして夜にも拘わらずあんな山奥にいたんですか?」


 今夜惣一郎が通ってきた道は、めったに人が通らない道である。現にここ半年、帰り道に出くわすのは専らイノシシか鹿の類であり、人と会うことなど一度もなかったバケモノ、妖の類などなおさらである。ようやく振り絞った問いに男は答える。


 「任務で都に向かう道中の村でこの近辺に人を喰らう獣がいるという噂を聞いて、もしやと思い捜索していたら、惣一郎君があの妖に追い詰められているのを見かけてな」


 「情けないものを見せてしまい、すいません…」


 惣一郎は尚久に救われた状況を思い出し、顔から火が出る思いになりながらも深く頭を下げる。


 「いや、普通の人であれば妖は見えるものでもない、ましてや触れるような存在ではない。第一、威列(いれつ)が低い妖ですら人が太刀打ちできるものではないからな…」


 「言っただろう、よく頑張ったなと」


 (そういうことだったのか・・・)


 惣一郎が合点がいったように下を向いていると、侍は彼より更に下を向いてなにか考えているようである。その顔には眉間に深く皺を作って一寸たりとも動かないでいる。


 「・・・どうしました?」


 惣一郎が恐る恐る尋ねる。不動を貫いていた尚久ははっと気付いて少しの逡巡の末、遠慮がちな声色で惣一郎を見つめて言う。


 「惣一郎君、話は逸れてしまうが、もし良ければ君のこれまでのことについて話してはもらえないだろうか?」


 「これまで、ですか…?」


 「そうだ。もちろん、無理にとは言わない。しかし、君たちは兄弟ではないんだろう、何か事情があったんじゃないか…?」


 「わかりました…」


 惣一郎は七年前に起きた出来事を話した。自分たちの村のこと、村に起きた災厄のこと…。


 それから各所を流れ流れながら、この場に腰を落ち着けることになったということ。


 一通り話し終えると男は深々と頭を下げつつ言った。


 「…辛いことを思い出させてしまってすまない」


 「いえ、いいんです。あなたに助けてもらったお陰でこの子達もこれからも生きていけるんですから」


 「そう言ってもらえて助かる、というとその脇差も…」


 「はい、父の形見です。」


 惣一郎は傍らに置いた刀を撫でる。


 これまで、野盗や獣などの脅威から身を守ってくれた愛刀に想いを馳せながら視線を落とす。しかし今日、その役目を終わらせてしまったことに、今際の際に、刀を託してくれた父に申し訳が立たない。


 「…そうか」


 尚久は下を向きながら何かを考えているようである。


 「どうしました?」


 「!!、ああ、すまない、それでなんだが、惣一郎君、提案なんだが霊迅衆に入らないか?」 


 「えっ…」


 突然の尚久の誘いにキョトンとしているとさらに話を続ける。


 「君は妖を見ることができる。且つ一戦を交えられるほど妖相手に対する力を持っている。これは素晴らしい素質だ。」


 「君は鍛練を積めば奴らと渡り合える存在にもなれるだろう。俺達と共に霊迅衆で人々の為に戦ってはくれないか?」


 「勿論、タダでとは言わない。この先、君の家族も一緒に来てもらって、我々霊迅衆で面倒を見よう。そうすれば生活に困ることはない、十分な教育を受けさせることとできる」


 提示された条件を聞き、目を見開く。


 これまで惣一郎は七年間連れ立ってきた仲間達(家族)の幸せや安寧を望み、それのみを求めて生きてきた。しかし、自分にできることは高が知れており、彼らは並の食事を摂ることもできていない。自分が霊迅衆に入ったことにより彼らが安定した生活を送れることは願ってもないことだ。


 「しかし、危険も存在する。まず、君はこれから幾千もの死線を乗り越えなければならない。勿論、命の保証はない。」


 尚久のこの一言に子供たちの生活が保証されたことに安堵していたふみの顔が急激に曇っていく。七年間、苦楽をともにした年の近い数少ない故郷の者を、またも失うことになる可能性が今よりも格段に上がるのだから当然である。それは向側に座っている惣一郎にも見えていた。


 「どうだろうか?出来れば明日の京での任を見てもらいたいのだが…」


 尚久はそう言うが、向かいのふみの表情から察するに今直ぐに決めることは出来そうにない。


 「…すいません、少し考える時間をいただいてもよろしいでしょうか・・・?」


 「…そうだな、性急だったな」


 尚久は目を伏せつつ続けた。


 「三日後にまたここに来る、それまでに結論を出してくれると助かる。」


 「御馳走様。ふみさん、心からのもてなしありがとう。」


 そう言うと手早く荷物を整えた侍は家を出て行く。


 慌てた惣一郎とふみは、せめて見送りをと、立ち去った男を追ったが、その姿は夜の闇に吞まれて見えなくなってしまっていたのだった。

やっぱり台詞の掛け合いは難しい!!

もっと作品をよみこんで勉強しなければ…

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