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妖刀迅譚  作者: 梯広 興
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妖刀迅譚

どうも、梯広興です。妖刀迅譚、第二話となります。TwitterでRTしてくださった方々の作品を読ませていただき、とても勉強になりました。引き続き参考にさせて頂きたいです。

 「立てるか?」

 「あっ、ありがとうございます…」


 と惣一郎は呆気にとられつつも男の手を掴みつつ立ち上がる。


 バケモノは袈裟斬りにされ、泣き別れになった下半身から徐々に炭化してボロボロに崩れていく。


 「大変だったな、手当するから傷を見せてくれないか」

 折れた刀を一瞥しつつ男は声をかける。しかし、若者は直立したまま動けなかった。


 異形と相対してからここまでたったの五分程、その間に彼は会敵、命の危機、謎の男の救援・・・


 張り詰めていた糸が切られたように、先程まで自分の首に掛かっていた死の恐怖が今になってようやく押し寄せてくる。


 「おい、大丈夫か?震えてるぞ」

 眼の前で手を振りながらも渋くも艶のある声で男は若者に声をかける。


(ーーーっ!)

 惣一郎は我に帰り男に傷を見せる。

 「家は近いのか?」

 男は慣れた手付きで布を腕の切り傷に巻きながら尋ねる。


 「はい、峠を越えたところに…」

 「そうか、丁度明日、都に用事があるからな。俺が運ぶよ」


 処置を終えた男はそう言うなり立ち上がり、背を向ける。

 「乗りな」


 ・・・大の大人になって誰かに背負われるのは恥ずかしいし、気が引ける。しかし、夜更けも近い。負傷と恐怖、疲労。この足枷を付けながら家路に着こうものなら今度こそ野盗か熊の餌食になるのは火を見るより明らかである。


「…お願いします。」

 やはり人間は本能には抗えなかった。


 「行くぞ、落ちるなよ!」

 男は山の中をあたかも怪我人を乗せる速度では無いほどの俊足で山を駆け抜ける。


 惣一郎は子供の頃、村に数匹しかいなかった馬に乗せてもらったことを思い出しながらあまりの速さに歯を食いしばりつつも峠を越えていった。


 現在、逢坂関から数里先にある山里に惨状を生き延びた子供たちと住んでいる、いや、間借りしていると言った方が良いのかもしれない。


 この里は関から数里の位置にあるにも拘わらず関側に険しい斜面があることからあまり警戒されないため、「関所破りの隠れ里」というとんでもない称号をその手の者から付けられているが、そんなことがあってか余所者には比較的寛容であり、惣一郎達一行は里の外れにある空き家を借り、かれこれ五年程生活している。


「着いたよ」


 男は峠一つを飛ぶように駆け抜け、普通に歩けば1時間は掛かる道を30分足らずで里に辿り着いた。


「惣にぃお帰り!!」


 男が惣一郎を降ろすとほぼ同時に家から元気な声とともに男の子が飛び出してくる。それと同時に数人の同じくらいの子供も飛び出してきた。


弥助(やすけ)、ただいま」


「弥助、ふみの言うこと聞けてたか?」

 大の大人が背負われて帰ってきたという家族の危機が発覚せずに済んだことに胸を撫で降ろしつつ、惣一郎は元気にこちらに向かってきた少年、弥助の頭を撫でる。


 「惣!!その怪我どうしたの?」


 子どもたちに男共々囲まれていると、玄関から悲鳴にも近いような声がした。声の主は土間から惣一郎の傷を見ながら心配そうに見つめる。


 「あぁ…、帰り道で色々あってな・・・」


 「いろいろ…?」

 声の主、|鹿山(かやま)ふみは惣一郎の一言に怪訝な表情を浮かべた。何と説明すればいいかわからない、まさか「帰り道にバケモノに襲われてさぁ・・・」なんて言ったところで正気を疑われるのがオチだ。


 「そして、その時にこの人に助けてもらったんだ。」


 惣一郎は男を見ながら答える。男は元気盛りの子どもたちに囲まれて少し困惑しつつもふみを見て軽く会釈をした。

 男とふみはお互いに軽く挨拶を交わした。


 「そうだったんですか… 惣を助けていただきありがとうございました。」


 「いえいえ、これくらいは・・・」


「よろしければこちらで御礼も兼ねて夕食はいかがですか?」


 「いえいえ、さすがに申し訳ないですよ…」

 男は申し訳無さそうに答えるが、命の恩人を何の礼もせずに終わるのは流石に二人としても憚れるところがある。男に群がる子供たちを引き剥がしつつ最後の一押しを加える。


 「是非助けて頂いたお礼に、俺からもお願いします。」


 「何があったかについてもお聞かせ願えないでしょうか?」


「…分かった、そうであればお言葉に甘えて…」

 なおも男は申し訳無さそうに言いながら、ふみに案内されて家の中に入っていった。


「狭い家ですが…」

「ここにこの人数で住んでるのか…?」


 この家は元々空き家だったが、惣一郎達が辿り着いた時に里長の好意によって貸してもらっている。しかし、六畳二間であるこの家に計十二人が住むには少々に手狭に感じてしまう。心配そうに見つめる男を察して家主は答える。


 「里長の好意で貸してもらってますし、何よりあまり贅沢をしなければなんとか生活はできてます。」

 「そうか…」


 そんな会話はふみが上げた膳によって一旦切り離された。日頃の食卓にはまず上がらない白米と家の裏で採れた大根などの煮物、近所の猟師からもらった牡丹肉の焼き物という豪盛な夕食である。


 子供たちは滅多に無いご馳走に各々歓声をあげながら箸を進める。


 惣一郎もご馳走に舌鼓を打ちつつ、

「そういえばまだお名前を伺ってませんでしたね…、自分は牧野惣一郎といいます。こちらは紫村ふみです。」

 そう紹介するとふみは恭しくお辞儀をした。


 「申し遅れた、秋月尚久(あきつきたかひさ)という。」


 「改めて、家の惣一郎がありがとうございました。もしよろしければ今日あったことについて教えていただけませんか?」


 ふみの言葉に頷いた惣一郎と謎の侍改め、尚久は今日起こった()()()について話した。当然、ふみは「そんなこと…」とあり得ないという反応を見せるも切られた傷や折られてしまった刀を見て納得したようだ。


 「なるほど… 惣一郎がご迷惑をおかけしました。そして、助けてくださりありがとうございました。」


 そういうなり、ふみは恭しく頭を下げる。それに倣い惣一郎も頭を下げる。


 「いえいえ、俺はこれが生業なんで…」


 「生業?」


 「ああ、俺は霊迅衆(れいじんしゅう)という組織で(あやかし)の討伐をしているんだ。」


 れいじんしゅう?妖?惣一郎は幾つか出てきた疑問を更に謎が増した眼の前の侍にぶつけた。


 「妖の討伐…ですか…?」


  「妖怪退治って言えば解りやすいかな、聞いたことがあるじゃないか?源頼光の酒呑童子退治や化け狐退治の話を。」


 幼い頃母から聞かせてもらった事がある。『昔、山城には酒呑童子という鬼がいたけれど源頼光という強いお侍さんに退治された。惣一郎も頼光さんみたいに強い男になりなさい』と…


 しかし、妖怪とは想像上の産物であり御伽であるとつい先刻までは思っていたのだが、あのバケモノの人外ぶりを目の辺りにすると信じざるを得まい…


「妖ってそんなに沢山いるものなんですか?」


 惣一郎の問いに侍は苦い表情をしながら答える。


「あぁ、いる。神隠しや原因不明の行方不明、村や町の壊滅が妖の仕業だと言われてる。」

「…」


 彼の言葉に対して惣一郎は突然の情報に呆気にとられ、言葉にすることが出来なかった。


「それにどうして夜にも拘わらずあんな山奥にいたんですか?」


 今夜惣一郎が通ってきた道は、めったに人が通らない道である。現にここ半年、帰り道に出くわすのは専らイノシシか鹿の類であり、人と会うことなど一度もなかったバケモノ、妖の類などなおさらである。ようやく振り絞った問いに男は答える。


「任務で都に向かう道中の村でこの近辺に人を喰らう獣がいるという噂を聞いて、もしやと思い捜索していたら惣一郎君があの妖に追い詰められているのを見かけてな。」


「情けないものを見せてしまい、すいません…」

 惣一郎は尚久に顔から火が出る思いになりながら深く頭を下げる。


「いや、普通の人であれば妖は見えるものでもない、ましてや触れるような存在ではない。第一、威列(いれつ)が低い妖ですら人が太刀打ちできるものではないからな…」

「言っただろう、よく頑張ったなと。」


「…あっ!」


 惣一郎は先刻尚久に言われたことを思い出し、思わず口に出していた。あの言葉にはそのような意味も含まれていたのかと…


 惣一郎が納得したように下を向いていると、侍は彼より更に下を向いてなにか考えているようである。その顔には眉間に深く皺を作って一寸たりとも動かないでいる。


「…どうしました?」


 惣一郎が恐る恐る尋ねる。不動を貫いていた尚久ははっと気付いて少しの逡巡の末、遠慮がちな声色で惣一郎を見つめて言う。


「惣一郎君、話は逸れてしまうがもし良ければこれまでのことについて話してはもらえないだろうか・・・?」


「これまで、ですか…?」


「そうだ。君たちは兄弟ではないんだろう、何か事情があるんじゃないか…?」


「わかりました…」


 惣一郎は七年前に起きた出来事を話した。

 自分たちの村のこと、村に起きた災厄のこと…


 一通り話し終えると男は深々と頭を下げつつ言った。

「…辛いことを思い出させてしまってすまない。」


「いえ、いいんです。あなたに助けてもらったお陰でこの子達もこれからも生きていけるんですから。」


「そう言ってもらえて助かる、というとその脇差も…」


「はい、父の形見です。」

 惣一郎は傍らに置いた刀を撫でながらこれまで野盗や獣などの脅威から身を守ってくれた愛刀に想いを馳せながら視線を落とす。しかし今日、その役目を終わらせてしまったことに今際の際に刀を託してくれた父に申し訳が立たない…

「…そうか」


 尚久は下を向きながら何かを考えているようである。

「どうしました?」

「!!、ああ、すまない、 惣一郎君、提案なんだが霊迅衆にはいらないか?」 


「えっ…」

 突然の尚久の誘いにキョトンとしているとさらに話を続ける。


「君は妖を見ることができる。且つ一戦を交えられるほど妖相手に対する力を持っている。これは素晴らしい素質だ。」


「君は鍛練を積めば奴らと渡り合える存在にもなれるだろう。俺達と共に霊迅衆で人々の為に戦ってはくれないか?」


「勿論、タダでとは言わない。この先、君の家族も一緒に来てもらっ

 て我々霊迅衆で面倒を見よう。生活に困ることはない、十分な教育を受けさせることとできる。」

 これまで惣一郎は七年間連れ立ってきた仲間達(家族)の幸せや安寧を望み、それのみを求めて生きてきた。しかし、自分にできることは高が知れており、彼らは並の食事を摂ることもできていない。自分が霊迅衆に入ったことにより彼らが安定した生活を送れることは願ってもないことだ。


「しかし、危険も存在する。まず、君はこれから幾千もの死線を乗り越えなければならない。勿論、命の保証はない。」

 尚久のこの一言に子供たちの生活が保証されたことに安堵していたふみの顔が急激に曇っていく。七年間、苦楽をともにした年の近い数少ない故郷の者をまたも失うことになる可能性が今よりも格段に上がるのだから当然である。それは向側に座っている惣一郎にも見えていた。


「どうだろうか?出来れば明日の京での任を見てもらいたいのだが…」

 尚久はそう言うが、向かいのふみの表情から察するに今直ぐに決めることは出来そうにない。


「…すいません、しばらく考える時間をください…」

「…そうだな、性急だったな。」

 尚久は目を伏せつつ続けた。


「三日後にまたここに来る、それまでに結論を出してくれると助かる。」


「御馳走様。ふみさん、心よりのもてなしありがとう。」

 そう言うと手早く荷物を整えた侍は家を出て行った。


 惣一郎とふみは立ち去った男を追ったがその姿は夜の闇に吞まれて見えなくなってしまった。

やっぱり台詞の掛け合いは難しい!!

もっと作品をよみこんで勉強しなければ…

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