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true177の短編小説10作詰め合わせ【2】

自傷少女を変えたあの夜。

作者: true177

 文房具にも、凶器となり得るものがある。コンパスの針は、失明させるには十分。鉛筆も同様だ。


 なによりカッターは、包丁と分類が同じ刃物である。耐久性に問題があるにしろ、先端が鋭利であることに変わりはない。下手を打てば、命にも関わる。


「……充希みつき、もうあの日から一年なんだな」

「……うん」


 修哉しゅうやと充希は、幅広の河川にかかっている橋で二人並んで立っている。雲に隠れることなく、満月が二人を照らす。水面に、影が落ちていた。


 充希が、おもむろにカッターを取り出した。刃先はカバーに入ったままだ。


「これ……だよね……。私が、頼っちゃってたもの」


 刃を一段、二段とせり出していく。鮮血の塊に、銀色が浸食されていた。


 充希の左腕には、細長く平行に何本も傷跡が残っている。一年も経っていると言うのに、痕はくっきりとついているままだ。


「一年前も、こうやって夜の橋でこうやってたっけ」


 そう言って、腕に切り傷を付ける仕草をした。


「……あの時、修哉と会えてなかったら……。どうなっちゃってたのかな……」


 闇夜に一人女の子が立っていて、銀に光るものが見えたその瞬間から、修哉の体は動き出していた。


「カッターを払い落としてくれて、淡々と傷口の手当をしてくれて……」


 リストカットをするくらい、精神が追い詰められているのだ。感情的に言い合っても、何の解決にもならない。状態が悪化でもすれば、本末転倒になってしまう恐れがあった。


「『知らない人でも、こんな私に生きる価値があるって言ってくれてる』。そう思うだけで、バカらしくなってきた」


 修哉と充希は、別々の高校に通っていた。それでもお互いの電話番号を交換し、細々とやりとりをしていたのである。


「……ええい、こんなの!」


 勢いそのままに、充希がカバーをかけたカッターを橋の上から投げ捨てた。河川敷の岩にぶつかり、真っ二つに砕け散った。


 因縁をきれいさっぱり消し去った彼女の顔は、どこか晴れやかだった。憑き物が落ちたようで、爽やかな笑顔がこぼれている。


「……修哉。私と……付き合ってください」


 充希が、頭を下げた。手には、ハートのシールで留められた恋文が握られていた。


 落とさないようにと慎重に手に取った修哉は、心が飛び跳ねるのを隠してテープを外した。


『こういう形で伝えるのも恥ずかしいけど、私は修哉のことが好きだよ。『あのとき助けてくれたから』とかじゃなくて、修哉の優しいところが好き。付き合ってください』


 思わず、涙が流れてきた。充希は、そこまでして修哉を想ってくれていたのだ。


「よろしくお願いします」


 自殺願望がはやった少女と、ただ自己を大切にして欲しかった少年。一年という歳月をかけて、二人の絆は深まっていった。


 今夜は、生涯で一番心躍る夜となった。

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