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――“ドラ息子”の一件から数日後。
「やっぱり、ここにいた」
一人で飲んでいると小雪に見つかった。
「バレたか」
別に隠れていたわけじゃないけれど。
今夜は一人で飲みたかったからいつも二人で行く居酒屋じゃなくてバーで飲んでいたのに。
といっても小雪も何度か連れて来たことがあるからここで飲んでいるのがバレても
全然不思議ではない。
「携帯鳴らした?」
マナーモードにしていたから、もしかして気が付かなかったのかとも思った。
「ううん、今日はなんとなくここで飲んでるじゃないかと思って直接来ちゃった」
「鋭いな」
「私達、何年の付き合いだと思ってるの?」
「……うん」
もう十五年。
初めて出会った日から十五年の付き合いだ。
しかし、僕はこの十五年の付き合いにピリオドを打とうとしていた。
先日、小雪から伊東さんを紹介されて、これからもずっと僕が小雪の傍にいる限り、
こうしてまた他の女性を紹介されるのかと思ったら胸が苦しくなった。
“小雪に僕の想いが届くことはない”
それなら、もういっその事、小雪から離れてしまおう。
どうしてもっと早くそうしなかったのか自分でも不思議だけど、
そう思って距離を取ろうとしていた時、あの“バカ息子”の一件があった。
そしてそれも解決した今、また小雪との距離を取ろうと一人で飲んでいたのに。
「あー、そういえば今日、例の社長がわざわざうちの会社に来て、
コレをおまえに渡してくれって……」
「例の社長ってー、あの“バカ息子”のお父さん?」
「そそ。なんか直接おまえに渡そうとも思ったらしいんだけど、
僕から渡した方がすんなり受け取って貰えるだろうからって」
「?」
小雪は不思議そうな顔をしながら僕から白い封筒を受け取り、
中に入っていた手紙を読み始めた。
「あの“バカ息子”、海外に飛ばされちゃったみたい」
手紙を読みながら小雪が苦笑いした。
「うん、僕も今日、社長から聞いたよ。肩書きも平に戻してガラパゴス諸島に飛ばしたってさ。
最低でも五年、更に向こうで実績上げるまではこっちに戻すつもりないって」
「そ、そこまで?」
「社長曰く、今まで甘やかせ過ぎたって。だから今回は何かあっても
すぐに泣きついて帰って来られないようなトコにしたんだって」
「そっか、それでガラパゴス諸島に……て、それより今回のお詫びにって
これも一緒に入ってたんだけど?」
「ん?」
封筒の中には手紙と一緒にチケットのようなものも入っていた。
「宿泊券?」
それは社長の会社が経営している沖縄の高級リゾートホテルの宿泊券だった。
三泊四日、しかも往復の航空チケットまで同封されていた。
「京介、お休み取れそう?」
「え、なんで僕? 女友達と行って来いよ」
「だって、社長からの手紙には『“婚約者”とどうぞ』って書いてあるよ?」
そう言うと小雪は僕に手紙を見せた。
(た、確かに……書いてある)
「てか、この“婚約者”って……」
「もちろん京介の事に決まってるじゃない。
『僕は小雪の“婚約者”です』って、この間ハッキリそう言ったよね?」
「いや、だって、あれは……っ」
「それに、社長が用意してくれた部屋ってロイヤルスイートだよ?」
「え……」
小雪からホテルのパンフレットを見せられた僕は絶句した。
室内の写真にはキングサイズのベッドが一台しか写っていなかった。
「……まぁ、ツインに変えて貰えばいいか」
「あ、それは無理みたい」
「はぁ? なんで?」
「スイートならツインに変える事も出来るけど、ロイヤルスイートのベッドは
変更出来ませんて書いてあるよ」
「……じゃ、じゃあ、やっぱ、おまえ女友達と行けよ。
僕はどうしても休みが取れなかったって事にするから」
「えー、私、そんなに寝相悪くないよー?」
「ば、ばかっ、そーゆー事じゃなくて……」
「じゃあ、どういう事?」
「そ、それはー……その……、僕だって一応、“男”なんだぞ?」
「そんな事、今さら改めて言われなくても十五年前からわかってるって」
「だからっ……男と女が、同じベッドで寝てたら……どういう事になるか……、
おまえだってもう子供じゃないんだから、ここまで言えばわかるだろ?」
「どういう事になるの?」
小雪は左手で頬杖をつくと、悪戯っぽい顔をしてちょっと上目遣いになった。
僕をからかっているのか?




