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案内人  作者: 式部雪花々
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- 7 -

「やっぱり、君か」


翌日、約束の場所に現れた京介に彼は口の端を吊り上げながら言った。




(……? この人、京介の事を知っているの?)




「まさか、この橋本京介君と付き合ってるとか言わないよな?」


そう言って私に鋭い視線を移す彼。


しかし、私はまだ京介の事を紹介していない。


そして京介も名乗ってはいない。




「「……」」


私と京介はお互いどういう事だ? と横目で視線を絡ませた。




「喜多嶋小雪さん、君の事は全て調べさせて貰っているんだよ。


 確かに君はつい最近まで付き合っていた男性がいた。だが、もう別れている。


 交友関係からして幼馴染みの橋本京介君をここに連れてくるんじゃないかと予想はしていたよ」


どうやら彼は私の身辺を調査していたらしい。




「……」




「……」


私と京介はどう答えればいいのかわからず黙っていた。




「橋本君、君が今、このまま何も言わずに立ち去るなら俺も君には何もしない。


 だが、君がどうしても喜多嶋さんと交際していると言い張るなら考えがある」




「それはどういう意味ですか?」




「君の会社は確かうちの取引先だったよね?」




「僕の会社との取引を断ち切るとでもおっしゃるんですか?」




「俺にはそれだけの力もあるって事」


彼は私だけでなく、京介の事も調べ上げていた。




(なんて人なの……)




「それは脅しと受け取れますが?」




「だとしたら?」




「例えそうだとしても、僕は小雪の“婚約者”です」


しかし、京介はそんな脅しなど関係ないといった様子で言った。




「ふーん、そう」


すると、彼はフッと鼻で笑い「じゃあ、仕方がないね」と携帯を取り出した。


そして彼がどこかに電話を掛けようとしていると、


「待ちなさい」


彼の後ろのテーブルに座っていた中年の男性が立ち上がった。




「っ!?」


彼はその男性の顔を見るなり顔色が変わった。


それとは対照的に落ち着いた様子で立ち上がり、男性に一礼する京介。




(京介の知り合いの人?)




「親父……こいつと知り合いなのか?」


そう言いながら中年男性の顔を見上げた彼は青ざめていた。


“親父”と呼んでいるという事は彼の父親なのだろう。




「橋本君は私の大事なゴルフ仲間だ」




「え……」




「話は全て後ろで聞いていた。まったく、おまえという奴は……」


男性は溜め息混じりに言うと、彼の隣に腰を下ろした。




「ろくに仕事も出来ないくせに肩書きだけを振りかざして女性をどうにかしようなんて、


 呆れ果てて情けなくて涙も出んわ。やはり、おまえを役付きにさせるんじゃなかった。


 役付きにすれば少しは会社を背負っているという自覚が芽生えると思っていたのに……、


 私利私欲の為に会社の名前を利用した罰はしっかり受けて貰うからな」


店内と言うこともあり、あまり声を張り上げていないものの、


その口調は明らかに怒り心頭の様子だった。




「……」


彼は頭を垂れ、先程までの高飛車な態度とは打って変わってすっかり大人しくなった。




「喜多嶋さん、うちのバカ息子が大変申し訳ない事をしました。


 もう二度とあなたの前に現れる事のないよう致しますので、どうか許してやって下さい」


そう言って彼の後頭部を押し付け、無理矢理頭を下げさせながら


その男性も一緒に頭を下げた。




「は、はい……」


私はそう答えるのが精一杯だった。




「社長、お忙しいところをわざわざご足労頂いてありがとうございました」


隣では京介が至って普通に話していた。




「いや、こちらこそ橋本君にも迷惑を掛けてしまって申し訳ない。


 これに懲りずにまたゴルフ一緒に頼むよ」




「はい、是非」


京介がそう言うと“バカ息子”は社長に連行されて帰って行った。






「ふぅ~、一件落着」


そして、社長と“バカ息子”の姿が見えなくなると、京介は溜め息をついて


すっかり冷めてしまったコーヒーを口にした。




「あのー……きょ、京介……?」




「ん?」




「どういう事?」




「あぁ、実は昨夜、小雪から彼の名刺を見せて貰った時に社名と名前ですぐに


 あの社長の息子さんだって気が付いたんだ。


 それで、今朝社長に電話で相談したらここに来てくれる事になってさ」




「なんか“ゴルフ仲間”とか言ってたけど?」




「うん、あの社長とはよく一緒にゴルフに行くんだよ。


 最初は接待だったんだけど、社長が僕の事を気に入ってくれてさ、


 それでよく誘ってくれるんだ。


 あの息子の事もしょっちゅう“ドラ息子”だって愚痴ってた」




「……そ、そうだったんだ」




「まぁ、もしもの時の事を考えて会話も全部録ってたんだけどね」


そして京介はニッと笑って、小さなボイスレコーダーを出した。




「社長が来られなくなった時の為に」




私はそんな事までまったく気が回っていなかった。




やっぱり、京介に相談してよかった――。

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