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――RRRRRR、RRRRRR……
「おぅ、どうした?」
その日の夜、小雪から電話があった。
『えっと、あのね……、近いうちに会えないかなー? って……』
「あぁ、いいけど?」
また何かあったのかな?
休み明けに出社したらいきなり元彼に出くわして何か言われたとか?
「小雪の都合に合わせるよ」
『じゃあ、明日は?』
「OK」
この時、僕はまだ気付いていなかった。
過去に二度も同じ様な事があった事を。
――翌日。
小雪がメールで指定してきたのは複合商業施設に程近いイタリアンの店だった。
(ん? いつもの居酒屋じゃないのか?)
僕はてっきり例の居酒屋で飲むもんだと思っていた。
しかし、考えてみればあそこは数日前にも行ったばかりだ。
たまには別の店でゆっくり美味しい物でも食べたいと思ったのだろう。
午後七時十五分――、
「悪い、遅くなって……て、あれ?」
なんとか仕事を切り上げて小雪が待っているイタリアンレストランに行くと
よく複合商業施設の中で見かけるコンシェルジュの女性が小雪の隣に座っていた。
「京介、こちら私の同僚の伊東千晶さん」
「こ、こんばんは」
小雪に紹介された女性は少し緊張した様子で挨拶をした。
「どうも……橋本京介です」
僕は嫌な予感がした。
……と、同時に過去の記憶が蘇った。
それは僕が高校一年生の時だった。
小雪に話があると言われ、学校の帰りにファーストフードで待ち合わせをした。
すると、何故か小雪と同じクラスの女の子も一緒に現れた。
そして今と同じ様に女の子を紹介されたのだ。
この時、僕は小雪の気持ちを思い知らされた気がした。
“小雪は僕の事なんてなんとも思っていない”
だから僕に女の子を紹介したんだ。
こんな風に笑顔で。
あの日以来――、
僕は小雪への思いを胸に封じ込めた。
封じ込めてその女の子と付き合う事にした。
彼女とは結局、すぐに別れてしまったけれど、本当の気持ちは今も胸にしまったままだ――。
三人で食事をした後、小雪はやっぱり先に帰った。
「じゃあ、私はちょっと用事があるからお先に失礼するね。
後は二人でごゆっくりー」
実を言うとこうなる事はわかっていた。
あの時も、そして大学二年生の頃にも確か同じような事があったからだ。
“後は二人でごゆっくりー”
小雪があんな事を言い残して帰ったもんだから伊東さんはすっかりこの後も
一緒に飲みに行く気になっていた。
しかし、僕は全然乗り気じゃない。
彼女が小雪の同僚じゃなかったら僕も何か理由をつけて帰っているところだ。
「どこか、バーにでも入ろうか」
それでも一応、無下には出来ない。
小雪が早々に帰ってしまったから時間だってまだ九時前だ。
「はい」
少しだけ飲んだら帰ろう――。
僕と伊東さんは目の前にあった小さなバーに入った。
カウンターに座り、ちらりと腕時計に目をやるとまだ十分も経っていなかった。
(はぁ……)
「橋本さんはよくこのお店に来るんですか?」
思わず心の中で溜め息をついていると伊東さんが僕の顔を覗きこんでいた。
「え? えーと、あー、いやー……まぁー……」
「……」
「……」
「……」
「……」
……会話が続かなかった。
(やっぱり僕も小雪と一緒に帰ればよかったかな?)
そう思った。
そして、必死で頭をフル回転させて何を話そうか考えていると僕の携帯が鳴った。
……RR、RR、RR……RR、RR、RR……、
着信表示を見ると会社の後輩からだった。
(助かった……)




