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僕と小雪は複合商業施設と小雪のマンションのちょうど中間地点にある居酒屋に入った。
僕と小雪が飲む時はだいたいここだ。
「昨日ね、フラれちゃった……」
そして、一通りオーダーした物が揃ったところで小雪が口を開いた。
「なんだ、上手くいってたんじゃなかったの?」
小雪とその彼は僕の記憶が確かなら一年くらい付き合っていたはずだ。
ケンカをしたという話も聞かなかったし、彼氏の愚痴も言ってなかったのに。
「実はね、最近全然会ってなかったの。それが……昨日突然、仕事が終わった後に
『話がある』って言われて……」
「それで?」
「『飽きたからもう別れよう』って……私と付き合っててもね、
全然面白くなかったんだって」
「はぁ~?」
「いつもそうなんだよね……前の彼もその前の彼の時もそうだった。
一年くらいで『もう飽きた』って言われて……付き合ってて楽しくなくなるみたい」
「……」
小雪は顔もスタイルもいい。
性格だって全然悪くないのに。
「ねぇ、京介はどうして私を誘ってくれるの?」
「どうしてって……楽しいからだけど?」
「それってたまに会うからじゃないの?」
「たまにだとしても、僕達もう十五年も顔を合わせてるんだぜ?
でも僕は飽きてないし、一緒に居て楽しいと思う」
その言葉を聞いた小雪は無言になった。
そして、しばらくして「会社、辞めようかな……」と呟くように言った。
「どうして?」
「別れた彼氏、実は同じ会社の人なんだよね……だからちょっと居辛いかも」
「でも 今の仕事好きなんだろ?」
「好きだけど……」
小雪は就職が決まって希望していた今の部署に配属が決まった時、とても喜んでいた。
それが元彼が居るからといって辞めてしまうのは……
「小雪、今度休みっていつ?」
「明後日だけど?」
「じゃあ、僕もその日に休み取るから、一緒にドライブ行こう」
「え? うん」
僕が小雪をドライブに誘うのは実はこれが初めてだったりする。
だから小雪も少し驚いたような顔で返事をした。
――約束の明後日。
午前十時、車で小雪を迎えに行き、約二時間のドライブ。
「ねぇ、どこへ行くの?」
高速に乗り、しばらく走ったところで小雪が僕の方に顔を向けた。
「着いてからのお楽しみ」
でも、行き先はまだ告げない。
「???」
小首を傾げながら再び前方へと視線を戻す小雪。
そうして、何度か休憩を取りながらようやく目的の場所に着いた。
「ここって……河口湖?」
車を降りて目の前に広がる景色に小雪は少し圧倒されていた。
「うん、そう」
「へぇー、初めて来た」
「それと、僕が生まれた町。小学生の時に引っ越す前に住んでた町だよ」
僕は河口湖があるこの町で生まれた。
「この場所、ガキの頃からよく落ち込んだ時とかに来てたんだ」
「えー、全然知らなかった」
「ふふん、そりゃそうだよ。ここは僕の秘密の場所だもん」
僕は今までこの場所を誰にも教えた事がない。
友達や恋人にも、親にだって言った事はなかった。
もちろん、小雪にも。
「でも、“彼女”はよく連れて来てたんでしょ?」
「いや、ここにはいつも一人で来てるよ」
「えー、ウソー?」
「ホントだってば。ここに来てこの場所から見える富士山とか、
湖面を見つめてるとなんか自然と心の中が落ち着いてきて元気になれるんだ」
そしてまた頑張ろうって気になれる。
だから今日、小雪にもこの景色を見せたかったんだ。
「京介がなんでいつも笑ってるのか、わかった気がする」
「ん?」
「ここでいろいろリセットしてるから、いつも笑っていられるんだね」
「うん、そうだよ」
僕は小さく笑みを返した。
「今まで付き合ってきた男が言った事なんて気にすることないよ」
「……」
「小雪は、そのままでいい」
「……うん、ありがと」




