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――翌日。
「橋本君」
放課後、彼女が正門の前で僕を待っていた。
「あれ? 喜多嶋さん、どうしたの?」
「今日は一人で帰れそう?」
「あ、うん」
「そっか、ならよかった」
彼女はそう言うとにっこり笑った。
まだ慣れていない僕を心配して待ってくれていたみたいだ。
「途中まで一緒に帰ろうよ」
「うんっ」
僕と彼女はこの時から仲良くなった。
そして、僕の長い長い片想いが始まったのもこの日からだった――。
――あれから、十五年。
僕と小雪は二十五歳になった。
小雪は都内でも一二を争う大手の複合商業施設をプロデュースしている会社に就職した。
そこでコンシェルジュの仕事をしている。
聞いただけだと小難しい感じの職種だが、平たく言うと『案内係』。
途轍もなく広い複合商業施設の中をお客様の目的に沿うように案内する仕事だ。
そして僕はその複合商業施設のすぐ近くにある会社に就職し、小雪との腐れ縁は今も続いていた。
中学も高校も大学もずっと一緒でさすがに昔ほど頻繁に会わなくなったけれど
たまに会って食事をしたり、飲みに行ったりしている。
しかし、別に付き合っているわけじゃない。
現に小雪には今付き合っている彼氏がいるし。
僕はというと、ここ二年くらい彼女がいない。
でも今日は同僚の女の子と会社帰りに二人で食事をする事になっている。
なんでも、相談に乗って欲しいことがあるらしい。
「「「いらっしゃいませ」」」
複合商業施設の中に入るとすぐに数人のコンシェルジュが爽やかな笑顔で迎えてくれた。
僕はそのコンシェルジュ達をちらりと横目で見た。
(小雪、いないな)
なんとなくホッとした。
特に深い意味はないけれど。
僕は今日みたいに小雪以外の女の子と二人で歩く時は、なるべくこの複合商業施設を
避けるようにしている。
しかし、今日は相手の女の子の希望でこの中にあるダイニングバーに行く事になったから
ちょっと冷や冷やしながらコンシェルジュ達がいるカウンターの前を通り過ぎた。
――数日後。
仕事が終わって会社を出ると、ちょうど小雪も仕事が終わって帰る時間じゃないかと思い、
僕は複合商業施設の社員専用出口の前で待っていた。
すると僕の勘は見事に当たり、十分程待ったところで私服姿の小雪が出てきた。
「小雪」
「あれ? 京介、どうしたの?」
「たまには一緒にメシでもどうかと思って」
「うん、いいけど、私が遅番だったらどうするつもりだったの?
先に電話くれればいいのに」
「そうなんだけど、なんか小雪の場合、電話しなくてもちゃんと会える気がして」
「あはは、もぉー、いっつもそんな事言って」
「でも、ホントに毎回ちゃんと会えてるしさ」
僕の勘はだいたい当たる。
但し、それは小雪に関する事だけ。
「何が食べたい?」
「んー、京介が決めていいよ? 私がこの間の女の子と行ったお店に行きたいって
言っちゃうとマズいでしょ?」
小雪がちらりと僕の顔を横目で見る。
「え……気付いてたんだ?」
てっきり見られなかったと思って安心していたのに、小雪はどこからか僕と
同僚の女の子が二人で歩いていたのを見ていたらしい。
「なかなか可愛い子だったね。彼女?」
「まさか。会社の同僚だよ」
「でも、デートだったんでしょ?」
「いや、そんなんじゃないって。ただ僕が彼女の相談に乗ってあげただけ」
「ふーん、そうなんだー」
小雪はこの手の話題はいつも突っ込んでくる。
だからあまり見られたくなかったのに。
別に疚しい事をしている訳じゃないけど、小雪に誤解されたくないから。
「てか、今日は飲みたい気分かな……」
「どうした? なんか嫌な事でもあったのか?」
実は小雪が社員通用口から出てきた時からなんとなく元気がなさそうな顔をしていたのは
気付いていた。
だから、もしかして何かあったのかな? と思っていた。
「んー……ちょっと」
ホラ、また勘が当たった。




