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 週明け、ようやく学園に登校できたわたくしは、一緒に馬車に乗ってきていたお兄さまにそのまま王族用のサロンに連れていかれ、殿下をはじめひさしぶりに皆さまに囲まれてお会いすることになりました。


「ティアちゃーん!ひさしぶり!会いたかった!」


 セーラ様とはスコルピオーネ領へ出立されて以来になりますから、半月以上お顔を合わせておりませんでしたわね。

 出会い頭、大胆にもわたくしをひしっと抱きしめ、元気になって嬉しいと喜びを表してくださいました。


「まあ、わたくしもセーラ様にひさびさにお会いできてうれしく存じます」


 控えめに抱きしめ返していると、その後ろで殿下たちがそわそわとしているのが目に入りました。

 完全にセーラ様に機先を制されてしまったようで、わたくしへ差し伸べられるはずだったであろう手が、行き場をなくして彷徨っております。


 セーラ様越しに目が合うと、それでも殿下は素直に目元を綻ばせ、ひさしぶりに見た夕焼けのようなその瞳は、いつもより甘さを多く含んでわたくしを見つめておりました。


「本当に、君の体調が良くなってよかった。

 ルクレツィアに会えないままビランチャ領へ発つことになっていたら、次の星の探索は気もそぞろになってしまうところだった」


 セーラ様に抱きつかれたままのわたくしのすぐ側により、存在を確かめるように顔を覗き込まれます。

 その目だけは、殿下自身がわたくしを抱きしめているかのような熱っぽさで、なんとお言葉を返せばいいのか、わたくしは目を伏せてその視線から逃れることしかできませんでした。

 いつもならさりげなく受け流せますのに、病み上がりだからでしょうか。

 それともわたくしの心境が変わっているせい?

 誰かに恋い焦がれる想いを簡単に無碍にしてしまいたくないような、今までのような知らないフリが、もううまくできそうにありません。


「エンディミオン様、ティアちゃんが困っちゃうから……って、うわ、ティアちゃん、ほそっ、ほんとにもう大丈夫?ちゃんと食べれてる?」


 殿下への反応に戸惑っていると、セーラ様が気が付いて庇うように腰を抱き寄せてくれましたが、その触り心地がどうにも衝撃だったようで、掴むように両脇から腰のラインを確かめられてしまいました。


「っ、……セーラ様、くすぐったいですわっ」

「だって、この細さやばっ」


 貴族令嬢同士だったなら決して起こり得ないことですが、相手は距離感がバグっていることに定評のある異世界の女子高生セーラ様です。

 強くも拒めず、腰回りを撫でさするくすぐったさに体を震わせていると、


「巫女……!」


 シルヴィオ様が鋭く呼び咎めてくれましたが、首をとんでもない角度に曲げて顔はぜんぜんこちらを向いておりません。


「せーらちゃん、ほら、いろいろと、目の毒だから……」


 軟派キャラが何を言っているのでしょうか。

 フェリックス様までちょっと目が泳いでおります。


「…………」


 ラガロ様は無言で金の眼を眇めてこちらを見ているだけで怖いですし、


「……巫女、少し、はれんちだと思う」


 エンディミオン殿下も、顔を赤らめて下を向いてしまいました。


(はれんち)


 爽やかさが売りの王太子殿下の口から聞くと、なんだかとりわけいけない言葉のようですわね。


「セーラ様、女性同士でも過剰に触れ合うのははしたくなくてよ」


 冷静にセーラ様を止めてくれたのはスカーレット様です。

 すっかり仲良くなったお二人は、おそろいのセーラー服風ドレスを身に纏っております。

 セーラ様のために作ったドレスは、どうやら学園のご令嬢たちの興味を引いていたようで、セーラ様とおそろいになるようにスカーレット様が着出したことで、爆発的に流行っていったようです。ここへ連れてこられる間に、多くの女生徒が似たようなドレスを着用しているのが目に入りました。

 わたくしが学園に来られない間、いろいろなことが起こっていたようですけれど、それにしてもおそろいのドレスを着るくらいにヒロインと悪役令嬢が仲を深めていることに驚きです。

 一人、普通の令嬢ドレスを着ているわたくしだけ、なんだか疎外感。


「ルクレツィア様、お体が快癒なさって、本当にようございましたわね」


 わたくしの快復を喜んでいるはずですのに、セーラ様とおそろいのドレスについて何か言うことはありませんの?と催促しているようなドヤ感がスカーレット様のそのお顔には現れております。

 まさかヒロインとの親密度について悪役令嬢にマウントをとられるとは!


「さあ、授業もはじまりますから、そろそろ妹を開放していただけますか。

 お約束通り、朝から顔を見られたのですから十分でしょう。

 巫女様、スカーレット嬢、すみませんが妹を教室までよろしくお願いいたします」

「アンジェロ、それなら私も、」


 殿下が言い差したところで、何やら不穏なほどお兄さまの笑顔が輝きました。


「殿下と、それからフェリックスたちも、妹をどんな目で見ているか少しお話をする必要がありますから、残ってくださいね」


 最後の言葉に有無を言わせぬ圧が込められ、殿下たちの顔が引きつったのがわかりました。

 どうやらわたくしを「はれんち」な目で見ていたことにお兄さまはご立腹のよう。


「ティア、お昼には迎えに行くからね。ランチはリチェとマリレーナ嬢も誘っているよ」


 わたくしにはこれでもかと慈しみの微笑みを見せて、ここにはいらっしゃらず、学年の違うベアトリーチェお姉さまとマリレーナ様ともお顔を合わせる時間までセッティングしてくださっておりました。

 ここへ来て、お兄さまのお父さま度が爆上がりしておりません?

 一瞬、本当にお父さまがそこにいらっしゃるのかと思いました。

 たぶん、そのランチに殿下たちは参加できないような気がいたします。


(ジョバンニ様と、……ファウストもおりませんでしたわね)


 縋るような目でこちらを見ていた殿下たちを置いてサロンを辞するとき、結局現れなかった二人のことに思い馳せました。

 室内に入るまで、もしかしたらいるかもしれないと少しばかり緊張をしておりましたのに……。


(魔法の研究が忙しいのね……)


 最近では、ジョバンニ様、というかカンクロ家の特例がファウストにも適用されているそうで、学園の授業はほとんど免除、自分たちの研究にその時間は割り当てられています。

 二人は昼夜問わず研究に没頭していて、日にちの感覚もマヒしがちになり、気づくと二、三日時が過ぎているということはよくあることと双子のピオが話しておりました。

 きっと今日も、今が何日かも気にしていないまま、わたくしが学園に久々に登校する日だとしてもわざわざその手を止めるほどのことでもないのでしょう。

 ファウストとはあの夜から会っておりませんから、ほっとしたような、がっかりしたような、自分でもどうにも形容しがたい感情に陥ってしまいます。

 遅れてでもいいから、わたくしのために顔を見せに来てくれないものかしらとワガママな願望だけはどんと胸の真ん中に居座っていて、横暴な姉としては百点満点な気もいたしますけれど、どうしてそんなことを強く望んでしまうのかを考えるには、まだ躊躇しているというのが正直なところ。

 サジッタリオ家のご令嬢との婚約話も悩みの種に加わって、さらに難しい問題になってしまいました。

 わたくしが勝手に思い悩んで難しがっているだけのことですけれど、どうすればこの気持ちが晴れるのか、いっそ誰かに打ち明けて相談に乗ってもらおうか、わたくしと並んでゆっくり歩いてくださっているセーラ様とスカーレット様のお顔を窺ってみましたけれど、お二人に聞いてもらうにはまだまだわたくしの勇気が足りないようで、喉の奥からも、この話を切り出す言葉は出て来ようとしませんでした。

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