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サジッタリオ領の星を得てからしばらく、わたくしの周りはなぜだかとても静かな日々でございます。
というのも、休み時間毎にいらっしゃっていたフェリックス様、シルヴィオ様、ラガロ様が姿を見せなくなり、王子殿下もわたくしへの接触が仲のいいクラスメイトの範囲の当たり障りないものだけになり、あとは学内にある王子殿下用サロンに皆さまでお集まりになって、次の星探しのご相談をされるようになったからです。
もちろんそこにはセーラ様もお兄さまも参加しているのですけれど、わたくしは呼ばれておらず、もしかして仲間はずれにされてしまったのでしょうか。
(いよいよシナリオの強制力というものの足音が聞こえてきたということでしょうか……)
顔を合わせれば、皆さま親しくごあいさつしてくださいますけれど、今までのような積極性はなくなりました。
節度を保った、どこか空々しいまでの態度なのです。
ようやく皆さまに向き合おうとした矢先のコレなので、わたくし少々気落ちしております。
そしてそんな気持ちのときに寄り添ってくれるはずのファウストとも距離を置かなくてはならなくなり、わたくし、本当にどうしたらいいのでしょう。
ファウストは星探しのメンバーとも距離を置いているようで、お兄さまの要請でお手伝いをすることはあっても、やはり最初の星の力を得てしまったせいか、ほとんど正規メンバーの扱いだったはずが、それも外されてしまったようです。
ファウストが移ったガラッシア家の別邸というのは、貴族街の一等地にある本邸とは別に王城の程近くにある小さめのお屋敷です。
小さめと言っても、本邸に比べてというだけで、前のガラッシア公爵──お祖父様が公務でご多忙の際に寝泊まりに使用していたものですので、公爵家の威容は保ったそこそこの規模のものです。
お父さまは基本的にどんなことがあろうとお母さまのいらっしゃる本邸に帰る、という信念がおありのようなのでほとんどお使いになってはいませんでしたが、もともと常駐していた召使いに加え、ファウストに付いていた少数精鋭の侍女や従者を伴っていきましたから、身の回りのことに困ることはないとは思うのですけれど。
(元気に過ごしていますかしら……)
学園でも、学年が違えば会う努力をしなければ偶然に顔を合わせるということもあまりありませんから、入学から少しの間だけ、一緒に登下校していたことがもう懐かしくなってしまいました。
遠目にでは、あの人形のような無表情の下でムリをしていないか確認もできませんわ。
何かの研究や物作りに没頭してしまうと、わたくしが様子を見て一緒に休憩を取らせないと寝食も忘れてしまうのですもの、セルジオに言って、別邸でもきちんと管理してもらわないといけないかしら。
(……そんなことしたら、弟離れができていないと思われるのかしら?)
姉離れ、弟離れができたというのは、お父さまはどのように判断されるのか、今ひとつ基準がわかりません。
家族として健康を気遣うことは許容範囲だとは思うのですけれど、余計なことをしてファウストの立場がさらに悪くなるようなことは避けたい事態です。
唯一、ジョバンニ様だけが変わらないスタンスで安心するのですけれど、ジョバンニ様は、ファウストと星から得た「転移」の魔法を研究することに夢中のようで、こちらもあまり顔を合わせる機会が減りましたわね。
いつもわたくしを取り巻いている方々がいらっしゃらなくなり、わたくしの周りは自然と裏寂しい雰囲気になっております。
クラスメイトの皆さまも何か感じることがあるのか、ソワソワと遠巻きにわたくしとエンディミオン殿下を見るばかり。
その側には必ずセーラ様がいらっしゃいますから、スカーレット様のご機嫌は日々悪くなる一方です。
今のところわたくしに八つ当たりするだけですので、それはまったく一向にかまわないのですけれど、いつセーラ様にその矛先が向かってしまうか、そちらを考えると胃が痛くなりますから、わたくしは極力サンドバッグになってスカーレット様のおそばにいるほうを選びます。
巫女対公爵令嬢のおかしな構図ができるのは困りますから、セーラ様とは出来得る範囲で積極的に仲良く振る舞っておりますけれど、周りが勝手に噂をすることまでは止められません。
(やっぱりシナリオの強制力……?)
あれだけ対策を立ててきたのに、そんな理不尽なものに運命を捻じ曲げられたくはありません。
気鬱げなわたくしに、みんなの態度が変わっても心配ないよとセーラ様はニコニコと仰います。
お兄さまに相談しても、何か知っていらっしゃる様子ではあるのですが、セーラ様と同じく気にしなくてもいいと詳しくは教えてくれず、簡単な慰めの言葉だけで、
「父上にも、殿下たちをよく見てあげるように言われたんだろう?
近すぎて見えないものも、遠くからならよく見えるかもしれないよ」
などと、煙に巻くような助言をくださるのです。
お父さまに言われたことや、ファウストが別邸に移ることになった経緯も、包み隠さずお兄さまにお話ししているのですけれど、わたくしが戸惑っていても、お兄さまが進んで解決はしてくれないのです。
わたくしが、自ら決めないといけないことだから、ということですが……。
お父さまに言われたとおり、エンディミオン殿下、フェリックス様、シルヴィオ様、ラガロ様を見直してみようと思うものの、シナリオの強制力が気になって、結局乙女ゲームの攻略対象としてしか見ることが出来ずにおります。
さらに、今さら恋の対象として考えようとしても、やはりスカーレット様やクラリーチェ様、マリレーナ様にヴィオラ様のことを考えると二の足を踏むことばかり。
────そうして、まったく進展しないわたくしの心情に忍び寄るようにして現れたのは、新たなる登場人物。
物寂しい様子のわたくしを気遣ったマリレーナ様からご招待を受けた、ペイシ家主催の夜会にて。
いつもエスコートをしてくれるファウストはおらず、お忙しいお父さまとお母さまに代わり、アクアーリオ侯爵夫妻とベアトリーチェお姉さまに付き添っていただいていたわたくしの周りには、普段は公爵家の鉄壁のガードで近寄れもしないという殿方がたくさん集まっていらっしゃいました。
ひとりひとり丁寧に言葉を交わさせていただき、ダンスのお誘いは丁重にお断りしながら、あまりの千客万来ぶりにどうにか一息をつこうと逃れたバルコニーには、黒髪に星明かりが煌めくような、少しだけレオナルド様に似た、漆黒の装いの殿方が先客でいらっしゃいました。




