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「え?わたくしはお留守番ですの?」


 ファウストとジョバンニ様で場所の選定を進めたところ、最初の星が現れたのは王都の南西、サダリ湖に向かい扇状に広がるガラッシア領の中骨の部分の南側に接しているサジッタリオ領内ということがわかりました。

 最初の星を受けたカルロ様がサジッタリオ侯爵家の始祖様ですから、さもありなん、と言ったところでしょうか。

 あとの星の発現場所も同じようにわかりやすい配置ですと、今後も攻略しやすくて助かりますわね。


 サジッタリオ領の多くは山地で、小川や湧水からなる泉などが散見されます。

 先行してラガロ様とフェリックス様が調査に向かい、そこからさらに情報をかき集めた結果、サジッタリオ領の外れ、王都との領境に広がる山の麓に、洞窟に造りつけたような古びた教会があることがわかりました。

 すでに司祭もつかない教会跡地のような扱いのため、ヴィジネー大司教の協力も得て調べてみると、その教会はステラフィッサの建国当時からあるもので、カルロ様が建築に携わっている記録が見つかりました。


 教会の奥は洞窟と繋がり、さらに奥へ進むと、天井にぽっかりと穴の開いた空洞に突き当たり、そこには清浄な泉が湧き出ているということですから、これはもう、当たりなのでは?


 付近に伝承など残されていないかも確認しましたが、具体的なお話はなくとも、星のよく見える夜は、その泉には星明かりが降り注ぎ、風もないのに波立つことがあると、教会の手入れをしている村人たちの間では、星神様の霊験あらたかな地であると信仰の対象になっていたようです。


 そんないかにも何かが起こりそうな場所ですのに、わたくし、お兄さまにお留守番を言い渡されてしまいました。


 王都とも近く、馬車で行って帰るにしても一週間とかからない場所ですのに、なぜわたくしはお留守番なんですの?!


「まだ何が起こるかわからないし、巫女様は連れて行く必要はあるけれど、ティアまで大変な思いをしなくてもいいんじゃないのかな?」


 たった一週間の旅ですのに、乙女ゲームのイベントだってあるかもしれませんのに、わたくしだけ、お留守番!!?


 とってもとっても不服なので頬を膨らませてみましたが、お兄さまも譲りません。


「そんなに可愛い顔をしてもダメだよ。

 それにティアだけじゃなくて、そう、ジョバンニも王都に残るから」


(残るからなんだというのですっ。

 ジョバンニ様はサブキャラだからついていく必然性がないだけではありませんの?

 …………そんなことを言いましたら、悪役令嬢のわたくしがついていく必要性はさらにありませんけれど…………)


 そう言えばの事実に気がついて、今度はしょぼんと落ち込みました。


 わたくしのいないところで、幻想的な光景を見ながら皆さまロマンチックな気持ちになっていただければ、側には巫女様しかおりませんし、せめて誰かしらの恋愛イベントが発生することを祈っているより仕方ありませんかしら。


「お土産をたくさん買ってくるよ」


 わたくしのしおれた様子に、お兄さまの慰め方のなんてヘタなことでしょう。

 幼い子どもではありませんのよ。

 わたくしのお願いを断って拗ねられることに慣れていないお兄さまですから、狼狽えてしまっておりますわね。


「キラキラと美しい場所のようですから、一目見てみたかったのですけれど……」


 少しだけ意趣返しのつもりで、さらに悲しげな顔を作ってみせました。


「……そんな顔をしないでほしい。

 私がティアに悲しい顔をさせていると思うと、辛くなってくるよ」


 お兄さまの良心がキリキリと痛んでいるようです。

 わたくしの頬に触れて、お兄さままでこの世の終わりのような顔をしております。


「兄上、姉上に景色を見ていただくことはできるのでは?」


 今まで黙って兄姉のやりとりを見ていたファウストが、助け舟を出すように口を開きました。


映写機(カメラ)があったね!」

「はい」


 お兄さまも、なぜ思いつかなかったのか、というお顔で瞳に明るい光が戻ってきました。


「記録用にもともと持っていくつもりでしたから、遠見の媒体と繋いでいけば、姉上もいっしょにご覧になれます」

「こんなに長距離ははじめてじゃないかな?」

「前回のオフシーズンの際、ガラッシア領都と王都間での試験は問題ありませんでした」


(さすがファウスト、抜かりがありませんわ。でも……)


「いっしょにとは言っても、映像だけですもの。お話できるわけでもありませんし、一人で見るのと代わりありませんわ」


 今日のわたくしはいつものように聞き分けはよくありませんわよ。

 だって、お留守番なんですもの!

 普段あまり見せないヘソの曲げ方に、さぞファウストも困るだろうと思ったのですけれど。


「姉上」


 わたくしに詰め寄る義弟(おとうと)の目が、なぜか輝いております。


「つまり、映写機(カメラ)越しでも会話ができるようになればよい、と?」


(……あら?またわたくし、ファウストの物作りに新たな展開を生んでしまいましたかしら)


 カメラ越しにお話、なんて、ビデオ通話みたいですわね。

 前世の世界なら、当たり前のようにできたことです。

 けれどこちらでは、まだ遠隔地同士で会話をするのは余程の高等魔法を込めた魔石を通してしか叶わないことですし、それも数分しか持ちません。

 お手紙などの書簡を転移で飛ばすのが主流ですわね。

 転移魔法も人に使えるほど発達はしておりませんから、本当に、紙くらいしか行き来させられないのですけれど、リアルタイムで言葉のやり取りができ、さらにお顔まで見られるようになれば、それはなかなかすごい発明になりますわよ。


「姉君!!新しい発明と聞いて!!」


 どこからいらっしゃったのか、ジョバンニ様が飛び込んできました。


 ファウストの助手を自称して八年超、公爵家の邸はすでに我が物顔でいらっしゃるので、先触れもなくいつ何時いらっしゃっても驚いたりはしないのですけれど、どうしてこういうタイミングの良さを発揮できるのでしょうか、なかなかに嗅覚に優れていると言わざるを得ません。


「サジッタリオ領に出発するまで十日、いえ、一週間ください。

 作って参ります」


 火のついたファウストを止めるものはありません。


「ジョバンニ、手伝って」

「もちろんだともっ」


 来たばかりのジョバンニ様を引き連れて、ファウストは去って行きました。

 あれは工房に籠るつもりですわね。


「……わたくし、またファウストに余計なことを言いましたでしょうか」

「いや、いいんじゃないかな。

 遠くにいてもティアと顔を見て話せるようになるなら、人類にとって福音だろう?」


(そう、ですかしら……?)


 お兄さまの基準が果てしなく狂っていらっしゃるような気がするのは、わたくしの気のせいでしょうか。


「ひとまず、父上に報告をしてくるよ。

 本当に、我が家の弟はよく出来た子だ」


 お兄さまは満足そうにそう呟いて、部屋を出て行かれました。


(結局、わたくしのお留守番は確定、ということですわね)


 取り残されたわたくしを慰めてくれるのは、ドンナの淹れてくれた熱めの紅茶だけのようです。


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