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ドレスができると、いよいよ巫女様は学園に通えることになりました。
セーラー服の襟とリボン、スカートの一部にプリーツを残してデザインされた巫女様用のドレスは、日常使いしやすいようにシンプルさを追求しております。
スカートの丈は足首まで伸ばさせていただきましたが、前世の世界のワンピースに近いすっきりとした形に収め、巫女様が敬遠された苦しさや動きにくさは緩和されたのではないでしょうか。
デザインをすっきりさせた分、生地にはこれでもかとこだわりましたので、貧相だと侮る方がいらっしゃれば、己れの無知を晒すことになるだけですわね。
色違いやデザイン違いもたくさんお作りして、これから巫女様のクローゼットをいっぱいにするつもりですので、巫女様にもきっと喜んでいただけるはずですわ。
巫女様が編入されたのは、もちろんわたくしと殿下と同じ二年次の社交コース、わたくしと殿下の間の席に座っていただくことで、ようやく殿下の隣専用だったわたくしの席も合法的に離れることができました。
巫女様が殿下に妙な気を遣って、殿下を挟んだ反対側に座るか、またはわたくしを挟んだ席順になりそうでしたのは、華麗に回避です。
殿下と筆頭公爵家令嬢のわたくしとで巫女様の両脇を固めることで、一段と巫女様の尊さが際立つのですわ!
巫女様の学園編入とともに、国中に巫女様の降臨が喧伝されましたので、クラスメイトの皆さまもあまり躊躇いなく巫女様を受け入れることができたように思います。
(スカーレット様を除いて、ですけれど……)
案の定、殿下に気安い態度をお取りになる巫女様は、スカーレット様の癇に障ってしまったようです。
わたくしが殿下の隣をあっさりと譲ってしまったのも、スカーレット様には承服しかねることだったようで、
「貴女が相手だからと大人しく引き下がっておりましたけれど、突然現れたマナーも何もないあんな女が馴れ馴れしくなさっているのは許せませんわ!」
と、二人きりになった時になぜかわたくしが叱られることに……。
(今までまったく大人しく引き下がっていらっしゃるようにも見えませんでしたし、わたくし相手に引き下がる必要もなかったのですけれど)
「言いたいことがあるならはっきり仰いなさい!」
顔には出していないはずですのに、思っていることがこういう時だけスカーレット様に伝わってしまうのは学園七不思議です。
「わたくしたちのために別の世界からいらしてくださった方なのですもの、あんな、などと仰らないで。
わたくし、スカーレット様といっしょにお支えしたいのですわ」
はっきり言えと言われて本当に思っていることを伝えるような愚は冒しませんので、わたくしはできるだけ悲しげに見える顔でスカーレット様を諭します。
「…………そんなこと、わかっていてよ。
ですけれど、わたくしは絶対、貴女以外は認めませんわ」
悔しそうにそれだけ呟くと、スカーレット様はツン、と顔を背けて行ってしまわれました。
(そうですわよね……殿下ルートになると、スカーレット様が泣くことになってしまいますわよね……)
自らが障害となりつつも、陰ながらスカーレット様の恋を応援している身としては、これは悩ましい問題ですわ。
悪いようにはしないと意気揚々と学園生活をはじめてみたものの、いざ巫女様の恋愛イベント攻略をアシストしようとしても、かねてより懸念していたこの問題にぶつかりました。
スカーレット様のためを思い、殿下ルートをやめてフェリックス様ルートを進めようとしても、クラリーチェ様とマリレーナ様はお二人で競い合ってきたのですもの、突然別な方がフェリックス様の恋のお相手になってしまったら、釈然といたしませんわよね。
フェリックス様の振る舞いは、基本的にはずっと泣きぼくろキャラのまま軽薄に見えるようにしているおつもりのようですけれど、わたくしに同じようにしようとしても、そこに見え隠れする緊張はわりとわかりやすく、そんなフェリックス様に、クラリーチェ様とマリレーナ様が気が付いていないはずがないのです。
それでも「お二人で競う」という点は決して揺らがないので、あのお二人の想いがどちらも無為になってしまうのは、わたくしには忍びなく思えてなりません。
ではシルヴィオ様ルート、と言いたいところですけれど、実は最近ヴィオラ様がシルヴィオ様に想いを寄せているのではと気づくことがありましたので、簡単におススメするには難しい相手となりました。
わたくしにはいまだに挙動不審で、精一杯の自己アピールの仕方が不器用な方ではありますけれど、実直で、公平な方に違いはないのです。
わたくしに関わらないところでは冷静沈着、言葉のきついところはあるらしいのですが、周りをよく見て、さりげなくフォローすることに長けていらっしゃるというのですから、助けられた方々がファンになってしまうのも頷けます。
ヴィオラ様は、そのさりげないフォローに何度も助けられたとかで、お優しい方です、と憧れを込めて頬を染めたお姿のなんと眩かったことでしょう。
(わかります、わかりますわ。
何の下心もないさりげないフォローに、わたくしも恋に落ちた口ですもの)
苦い初恋を遠く思い出しつつ、シルヴィオ様のそんな一面をついぞ見ることがないものですから、わたくしが彼のアンテナを狂わせてしまっていることに申し訳ない気持ちがいたします。
最後の砦はラガロ様なのですけれど、彼も彼で人気が高く、わたくしと仲良くしてくださっているお花畑の皆さまの中には真剣に想っている方もいらっしゃるよう。
日頃からストイックに鍛錬に励み、今では騎士たちで行われる御前試合では常に優勝候補、それも争う相手はレオナルド様かフリオ様、各騎士団の団長クラスですので、若手ではもうラガロ様の右に出る方はいらっしゃいませんわね。
二重人格キャラをどこに捨ててしまったのか、あの日から直向きさだけが全面に出て、滲み出るわたくしへの恋情が妙な色気となって女性を惹きつけるようです。
相変わらずムダに愛想を振り撒くような方ではございませんが、その多くを語らない姿に憧れを抱くご令嬢多数。
そして、少し素行の悪い騎士崩れの学園生に絡まれているところをラガロ様に助けられたというご令嬢も多数。
切なる想いを秘めてラガロ様を見つめるわたくしのお花畑の皆さまを差し置いて、巫女様だけを応援するのはフェアではない気がいたします。
……いくら星の災厄を食い止められるかがかかっているとはいえ、どなたも、わたくしの勝手で意図的に結びつけるような無粋はしたくありませんわね。
(まして、一方通行の矢印がこちらを向いている以上、わたくしがしゃしゃり出ても裏目に出ることもあるわけで……)
巫女様をどう思うか個別に聞いてみたところ、すわ自分に興味が湧いたのかと勘違いさせてしまう始末で、
(これ以上の余計なお世話は身を滅ぼすことにもなりかねませんから、自然に任せるのがよろしいのかしら……)
などと、すぐにお手上げな気持ちとなってしまいました。
もちろん、殿下と三銃士の皆さまだけが攻略対象ではありません。
けれどアンジェロお兄さまはそもそも候補に入れておりませんし、イザイアのことは信用しておりますが、底が知れないところは変わらないので、巫女様に万が一のことが起こっては困りますから彼も候補外。
(わかってはおりますのよ。
消去法として、残っているのは、)
───ファウスト。
悪役令嬢と思わしいのは姉のわたくしのみ、商会の仕事ばかりで王城のお茶会に顔を出すこともあまりしなかったため、今のところわたくし以外のご令嬢と積極的に関わることもせず、どこにもフラグが立っている様子はございません。
それでしたら、わたくしさえ口を出さなければ、自然と仲良くなるものなのかもしれません。
でも一度だけ、気になって巫女様をどう思うか聞いてみたところ、
「巫女様は、巫女様です」
首をコテンと傾げる癖は昔のまま、何の感慨もなく淡々と答えられてしまい、わたくしなぜだか少々ムキになってしまいました。
「可愛らしいですとか、好ましいと思うことはありませんの?」
「なぜです?」
「なぜ……って、だって、巫女様ですもの……」
ヒロインだから、という理由はわたくしにしかわからない事情ですから、うまく伝えられずに口ごもっていると、
「それを聞かれて、どうなさるのです」
ピシャリと、突き放すように言われてしまいました。
もしかしたらわたくしの言わんとしたことが分かったのかもしれません。
(やはり余計なお世話ですわよね……)
しゅんとしたわたくしに、
「可愛らしいのも、好ましいのも、姉上です」
シスコン全開で真面目に断言されたものですから、やはりファウストはファウストなのだわと少しだけ安心してしまったりして、わたくしもまだまだ弟離れができておりませんわね。
(けれど乙女ゲームとしては八方塞がり……巫女様も、女子高生らしい親密さがあるだけで、どなたかが気になる様子はありませんし……)
悩める日々ではありますが、メインシナリオである星の災厄については順調に攻略が進んでおります。
殿下とシルヴィオ様が、前の巫女様、建国王様と眠る王妃様の霊廟で、はじめの日記を見つけられたのです。




