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 みなさま、ごきげんよう。

 ルクレツィア・ガラッシア、13才となりました。


 突然ですが、みなさま、初恋って実ると思います?


 答えはもちろん、「ノー」ですわね!


 本日わたくし、家族でレオナルド様のご領地、リオーネ領へ来ております。

 何をしに来たのか、のんびり家族旅行のために遠路はるばる来たわけではありません。


 結婚式のため、家族一同お呼ばれしましたのよ。


 誰と誰の結婚式かですって、申し上げるのも胸が苦しくなるのですけれど、レオナルド様と、ラガロ様のご生母様ですって!


 このあたり、ラガロ様のご事情を含めて詳しくお話しをしなければなりませんけど、個人情報保護法なんてこの世界にはありませんもの、ここでわたくしが少しくらいお話ししてもかまいませんわよね!

 別にヤケになっているわけではありませんのよ!


 さて、ラガロ・リオーネ様。

 旧姓、ラガロ・ラザーレ様は、元々はリオーネ家の分家の子爵家のご二男です。

 ラザーレ家は、国境付近のかなり辺境のご領地ではございますが、それなりにリオーネ家と血筋が近く、由緒のある古いお家柄。

 このご二男というのが、実は正妻の子ではなくメイドに生ませた庶子ということですから、その扱いがどうなるかは想像に難くないのですけれど、ラガロ様、ラザーレ家本邸にて正当な教育を受けておられます。


 というのも、「ラガロの星」を持って、この世に生を受けられたからです。


 リオーネ家ご一門では、この「ラガロの星」を持ってお生まれになった方が、「ラガロ」の名を継ぎ、どの家に生まれようとリオーネ家当主となることが決められているそうです。

 そうそう現れる印ではなく、レオナルド様の曽祖父様が先代の「ラガロ」様でいらしたそうですが、この「ラガロの星」がどういったものか、生まれてすぐにわかるほどの特徴で、その目に、文字通り星を宿しているとのこと。

 よくよく見せていただけたことはありませんけれど、ラガロ様のあの金の眼、あれは「ラガロの星」がそこに現れている証なのだそう。


 生まれてすぐリオーネ家に引き渡されるのではなく、ラザーレ家で幼少期を過ごしたお家ご事情がそれなりにあるそうですが、王妃様のお茶会、王子殿下へのお引き合わせのタイミングで、正式にレオナルド様のご養子になられたそうです。


 さて、そのお家事情を詳しくひも解いていきますと、ラガロ様の実父であられるラザーレ子爵が問題なのです。

 リオーネ家は武門の家系で、そのご一門も武勇に優れた方々ばかり。

 ラザーレ子爵も例に漏れず、それなりに腕に覚えのある方のようですけれど、ご気性に少々問題が。

 簡単に言えば男尊女卑、強い男に女性は従うものという考え方で、粗暴とも思える扱いをしても、当然とお考えになる方のようです。

 品格のあるレオナルド様とは、相容れぬお考えですわね。

 年頃の近い本家の嫡男と、その資質に欠ける分家の嫡男、微妙な関係性が目に見えるようですわ。


 そして、ラガロ様のご生母様となったメイドとも愛人関係というわけではなく、その時たまたま目に入った女を一晩可愛がっただけ、というおつもりのようです。

 女性の方からすれば無理矢理の悲劇、それでお子まで宿してしまったのですから、正妻様の手前、お屋敷にはいられませんわね。


 このメイドが、実はかつて没落したリオーネ家の分家のご令嬢であり、食べるために平民に身をやつし、ご正妻様の哀れみを受けてメイドとして雇われていたというのですから、その後の展開も含めてなかなかハードモードな人生です。


 金の眼(ラガロの星)を持って生まれた赤ん坊の話はすぐにラザーレ家に伝わり、母子は引き離され、諸々のご事情の詮議を含めて、リオーネ家とラザーレ子爵の折衝は難航、ラガロ様は8歳までラザーレのご領地で過ごすことになられたのです。


 王妃様のお茶会のお話しが出たところで、これ以上引き延ばすことは罷りならないとレオナルド様が強権を発動し、ラガロ様をお迎えにいったそうですが、その際、ご生母様まで探し出し、ラガロ様付きの侍女としてではありますが、リオーネ家に招いたのがお二人の馴れ初めです。


 ご生母様は、宿した経緯がどうあれ、ご自身でお腹を痛めて生んだ子どもをずっと案じており、隠れ住みながらも、実はそのお近くにずっといらしたそう。


 聞いていて涙が出そうなお話しですが、その後どのようにレオナルド様と情を交わして いったかというところまでお聞きになりたいかしら?


 そんな細かい私的なことまでよくわたくしが知っているなとお思いになられるでしょうが、すべてドンナを通して耳に入っておりました。

 ドンナはジェメッリ家の伝手で、いろんな手駒を動かせるのです。

 いえ別にわたくしが調べろといったわけではなくて、忖度ですのよ、忖度。

 そうして「お聞きになりたいですか」と訊かれれば、枕に顔を埋めながらも頷いてしまうのが乙女心というもの……。


 わたくしがレオナルド様と結ばれるなどと、そんな大それたことは思っておりませんでした。

 お父さまの手前、何がどう転んでもそんな奇跡が起きるはずがないのは、8歳の頃からよく承知しておりましたもの。

 それでも親友の娘として、特別に気にかけてくださっていたので、それだけで十分と、本当にそう思っておりましたのに。


(まさか、ご結婚なさるなんて......)


 亡くなった婚約者様を想い、これからもずっと独り身を貫かれるだろうと思っていたのです。

 誰のものにもならないと、そう思っていればこその心の持ちようだったのに……。


 わたくしという存在が、レオナルド様に再婚を決めさせたということもわかっております。

 レオナルド様に恋をしてからもう五年、我ながら長い初恋になりましたわ。

 その間、どんなご令息にも、もちろん王子殿下にも見向きをしないで、ひたすらレオナルド様を想っておりました。

 けれど、8歳の頃ならいざ知らず、13歳にもなりますと、周囲から「いつまでこの状況が続くのか」という声があがってきてしまうのも必然ですわね。

 わたくしの想い人は周知のことですから、レオナルド様にもお立場というものがございます。

 それがなくても、きっとラガロ様のお母さまとの間には愛情が育まれていたと思いますけれど。


 ラガロ様は今年で14歳、来年から王立の学園へ入られます。

 ステラフィッサの貴族子弟は、おおよそ入学することが義務付けられております。

 学園生活は15~18歳までの4年間、ラガロ様は騎士団の寮に入り通われるとのことなので、その前に区切りをつけるという意味で、この度の結婚式になったのですわ。



 以上がラガロ様とリオーネ家にまつわるご事情なのですけれど、どう考えてもラガロ様ルートのシナリオの根幹ですわね。

 このレオナルド様とご生母様の結婚なんて、ベストエンドに必要なイベントなのではなくて?

 それがどうしたことか、学園入学前にお二人はハッピーエンド。

 シナリオ改変が過ぎております。

 いえわたくしが王子殿下との婚約を突っぱねているところからもうシナリオ改変なのですけれど、ラガロ様ルートは正直範疇外でしたのよ。


 ラガロ様ルートといえば、その悪役令嬢になりえそうなご令嬢が、「王妃様のマナー教室」 に参加されております。


 十二貴族伯爵六家のひとつ、トーロ家のご令嬢で、お名前はヴィオラ様。お年はファウストの一つ下ですから、王子殿下とのお引き合わせのお茶会には参加できませんでしたが、7才となってから、マナー教室の一員となられたのです。


 トーロ家といえば、レオナルド様の亡き婚約者様のお家ですわね。

 トーロ家の現当主様は亡き婚約者様のお兄様ですから、ヴィオラ様はその姪にあたりま す。


 トーロ伯爵様は騎士団ではレオナルド様の右腕でもあり、とても大柄でたくましく、クマのような方なのですけれど、ヴィオラ様は正反対でとてもお小さく、清楚で、お名前のとおり一輪のスミレのような方です。


 クセ強めな悪役令嬢仲間の中、引っ込み思案で、何か一言発言するだけでもすぐに恥じらいに頬を染めてしまわれるところは、ベアトリーチェ様に続く、わたくしの癒しです。

 しっかりとして見えたクラリーチェ様は、フェリックス様をめぐるペイシ家のマリレーナ様との攻防が最近激化しており、武門の血なのかサジッタリオの血なのか、アピール強め でクセ強に入ります。

 マリレーナ様は、あの儚げで庇護欲をそそるような風貌で、小悪魔が泣いて逃げ出しそうな毒舌にキレイなリボンをかけてクラリーチェ様に送るタイプなので、癒しにはなりません。

 スカーレット様は、エンディミオン殿下への一方通行な想いと悪役令嬢芸に日に日に磨きがかかっておりますし、処置なし、というところですかしら。

 マナー教室には十二貴族以外のご令嬢もいらっしゃっておりますから、わたくしはその中に埋没、はできず、皆さまに取り巻かれながら、キャッキャウフフとお花畑を開いて、男性の入りにくい空気を作り、できるだけ、王子殿下を含めお兄さま以外の攻略対象からは距離をとるようにしておりました。


 そうして、リオーネ家とトーロ家で遂げられなった想いをラガロ様とヴィオラ様に託したい大人たちの思惑があったようなのですけれど、わたくしの所為でレオナルド様が早期婚約に一石を投じた形となっておりますので、せめてこのマナー教室後のお茶会で、二人が親交を深められれば、というのが今のお二人の関係ですわね。

 ラガロ様は、基本的にこのお茶会には一歩引いたところにおりますし、ヴィオラ様はあの性格ですので、何も進んでいない、というのが現状ですけれど。



 さて、気分を紛らわすため、リオーネ家とラガロ様周りについてつらつらと考えておりましたけれど、わたくしが落ち込んでいないとお思いになります?


 ガラッシア領からリオーネ領へ馬車で移動する間、お父さまも、お兄さまも、わたくしに気を遣ってばかりでした。

 ファウストはいつもどおりわたくしの隣に座り、何も言いませんけれど、労わるような気配がずっとありました。



 そうですわね、この結婚で、わたくしの失恋は決定的なものとなりましたもの、今までの、やんわりとした真綿のような片思いはもう続けれられません。

 お兄さまはこの春から学園に入学し、わたくしは夏に社交界デビューが決まっております。

 その前に、この恋を公に終わらせる必要があったのかもしれません。

 それから、少しの猶予を与えてくださる、というレオナルド様からのご配慮で、このタイミングになったのかと思います。


 わたくしの失恋は周知の事実で、傷心の中の社交デビュー。

 付け入るように妙に言い寄ってくる有象無象がいれば、それは千切って投げてもいい思慮のない方、ということになります。

 王子殿下の婚約者候補とはいえまだ候補、今までにもあった婚約の申し込みはこれまで の比ではなくなると思いますが、それでも少しの盾にはなります。


 最後の後始末まで完璧でスマートで、わたくしどうやってこの想いを忘れればいいのか、いまだにわかりません。


 それでも、レオナルド様がお幸せになるのなら、それでいいとも思うのです。

 わたくしではその隣には立てないのですもの。

 ラガロ様のご生母様が、レオナルド様をお幸せにしてくださるのなら、わたくし笑ってお祝いを申し上げようと思いますわ。

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