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(アンジェロ視点)


 わたしの妹は、世界一可愛いと思う。

 こんなことを言うと兄の欲目と笑われるかもしれないけれど、それでもわたしの妹は、ルクレツィア・ガラッシアは世界一可愛い。


 わたしたち兄妹は、幼い頃は一対の人形のようだった。

 同じプラチナブロンドにサファイアの瞳を持ち、手をつなぎながら歩いているだけで、神話画から飛び出してきたようとよく褒めそやされた。

 成長するにつれ、わたしは父に、妹は母に、それぞれ少しずつ似てきているが、世界一美しい公爵夫妻と吟遊詩人までもが歌い歩く両親の血統を正しく受け継いでいる。


 正直なところ、自分の容姿について特筆したいことはない。

 唯一、婚約者に嫌われないのならそれだけでいい。

 それに、父上と母上を見ていれば、外側の良さは彼らの魅力の一部分でしかないことがわかるから、父上や母上のようになろうと思えば、いくら努力をしてもし足りないとさえ思っている。


 けれど、妹を見るたびに、なんて可愛らしいのだろうと毎回感心してしまう。


 もう少し幼い頃は、こちらを困らせるようなワガママやお転婆もあったけれど、「仕方ないなぁ」と笑って許してしまえる天真爛漫な愛らしさだった。


 そうしてわたしの婚約者と交流を持つようになってからは、小さなレディの身のこなしを覚え、天界に住まうという精霊のような聖なる可愛らしさに変わりつつあった。


 それでもわたしやファウストに笑いかけ、父上や母上に甘える姿はわたしたちの可愛いルクレツィアのままで、庭先の花で戯れていれば花の妖精だし、太陽の下で笑っていれば光の妖精になり、夜の静寂(しじま)に瞼を落とせば、星か月の妖精になった。


 そんな妹の噂が、人々の口の端にのぼることは至極当然のことなのだろう。


 *


 その日、いつものように王城へ赴き、エンディミオン殿下の元に参じると、殿下はわたしの顔を見るなり問いかけてきた。


「今度のお茶会には、アンジェロの妹、……と弟も来るのだろうか?」


 とってつけたように弟も問いかけに加えたが、どうやら殿下は妹のルクレツィアのことが気になるらしい。


 エンディミオン殿下の遊び相手として登城するようになり三年、最近では剣術や乗馬などの稽古にお付き合いすることが多くなった。

 出会った頃のわたしの年齢を超してもうすぐ8歳になられる殿下は、少しずつ幼さがなくなってきたが、それでもわたしを兄のように慕ってくれる素直さを残したまま、今もファイア・オパールの大きな瞳がわたしを頼るように揺れている。


「ガラッシア家の息女が未だに王城に参じていないなど、殿下の面目を潰すつもりかって、おじさんたちは声が大きいから、殿下の耳にも入っちゃったんだよね」


 そう殿下の問いかけの真意を補足してくれたのは、外務大臣スコルピオーネ侯爵子息のフェリックスで、わたしと同じ年に生まれ、殿下のおそばに侍るようになったのも彼と同じ時期だった。

 垂れ目がちなスピネルの瞳の目元にある黒子が、「困るなぁ」と続いた彼の言葉の裏側にある「面白くなってきた」という享楽的な本音を明かしている。


「婚約者候補の筆頭だろう。さっさとご挨拶に来ないから、殿下も不安に思われるんだ」


 少し当たりが強いのは、ビランチャ宰相子息のシルヴィオ。

 年はひとつ下だけれど、意思の強い翡翠の瞳を眼鏡の奥で眇め、年上のわたしやフェリックスにも忌憚のない意見をしてくれる。


「なるほど……。

 妹も弟も、お茶会には参じさせていただきますよ」


 いちおうの納得を見せて、わたしは殿下の問いにだけ答えることにした。


 公爵家三家と十二貴族の同年代の子息令嬢で、殿下にご挨拶できていないのはルクレツィアとファウストだけだ。


 ルクレツィアはあの可愛らしさだから、少し目を離した隙にすぐにでも連れ去られそうだと、父上も母上も大事に仕舞い込んでいる節がある。

 本人も王都の邸からはあまり外には出たがらないから、無理強いをしてまで王城に連れて行こうとは思わないらしく、本人の意思を尊重していた。

 オフシーズンに帰るガラッシア領内では、外出しても楽しそうにしているから、王都の空気が合わないのかもしれない。


 ファウストもそんなルクレツィアに倣うようなところがあるから、商会の仕事以外では邸から出ることがない。


 わたしはガラッシア公爵家嫡男としての立場があるから、必要に応じて父上に連れ出されることが多く王都にも馴染んでしまったけれど、王城に棲まう魑魅魍魎(ちみもうりょう)を思えば、二人には王城とは関わらずに過ごしていける未来があればいいなと願ってしまう。


 それにしてもフェリックスもシルヴィオも、殿下はかろうじて気を遣いファウストも話題にしてくださったというのに、まるではじめからルクレツィアの話しかしていないような発言はどうなのだろう。

 とても失礼ではないかな?


 ファウストも、わたしの可愛い可愛い弟なのだから。


「そうか、それならばよかった。

 わたしはファウストに会うのも楽しみにしているんだ。

 先日、一瞬だけ顔を見せに来たジョバンニが何だか彼の話をしきりにしていたから」


 何も言ってはいないけれど、殿下のファウストへのフォローは続く。

 気遣わしそうにこちらをうかがっている気配すらある。


「……そういえば、今日はジョバンニはどうしてる?」


 殿下の発言で何かに気がついたらしいフェリックスが、目を泳がせて話題の転換を図り、

 

「聞くだけ無駄だろう」


 とシルヴィオもわたしの顔を見ようとしない。


「ジョバンニなら、今日もわたしの弟のところへ足繁く通っているようだったけれど」


 思わず声が低くなってしまったわたしに、二人はそろって黙してしまった。

 ヘタに誤魔化そうとしなければいいものを、やはり二人の態度には指導(・・)すべきことがありそうだ。


 ここにいないジョバンニとは、カンクロ伯爵家の嫡男だ。

 カンクロ家は代々、土木、工芸、建築など、あらゆる技術工法に富んだ家系で、王国としても彼らの知識には敬意を払っている。

 カンクロ家の人々はそれぞれの興味のある分野に特化していく傾向があって、カンクロ家のおかげでこの国の発展はあると言ってもいい。

 現在のカンクロ伯爵は建築に造詣が深く、各地の街の整備や領城の新築、改築、修繕に重宝されて飛び回っている。

 (くだん)のジョバンニは、殿下と同じく今年8歳になるところだけれど、すでにカンクロ家の特性を遺憾なく発揮している。

 魔石の構成やそれに関する技術にとにかく目がなく、脇目も振らずに研究に没頭している。彼は新技術などの開発にも大きな興味があるようで、先日ファウストが試作した「映写機(カメラ)」というものを見せたら見事に飛びついてきた。


 家族の肖像を画家に描かせていたときに、何時間も同じポーズをさせられていたせいか、「家族のいまの姿を、もっと手軽に形に残しておけたらいいのに」とルクレツィアが言ったことからファウストが作りはじめたものだ。


 絵画は時間がかかるから諦めていたけれど、ルクレツィアやファウストの成長過程をもっとこまめに残しておきたいわたしにとっても素晴らしい提案だった。

 試作機では、白黒(モノクロ)の静止画を数秒ほどで紙に焼きつけることに成功していた。

 将来は、これに色がついて、ルクレツィアが立って歩いて笑っているそのままに、動いているところも残せるようにしたいとファウストは張り切っている。


 何か役に立てればと、ジョバンニに試作機を見せて話を聞いてみようとしたところ、案の定ジョバンニはファウストに会わせろとものすごい勢いで迫ってきた。


 一度会わせたら最後、彼はファウストのところに入り浸っている。


 ジョバンニは本来わたしたちと一緒にエンディミオン殿下の側近候補として肩を並べているはずなのに、もともと自分の研究でほとんど王城に顔を見せることがなかったのが、最近ではガラッシア家の邸や商会の工房で、ファウストの助手のように振る舞っている姿を毎日目にする。

 最初は戸惑っていたジェメッリ家の双子だけれど、ピオはすでに彼の扱いに慣れはじめている。


 彼の知識の豊富さはファウストたちの助けになっているようだけれど、さすがに伯爵家の嫡男を商会の従業員のように扱うわけにはいかないから、客分として、そこで得た知識の秘密保持契約だけはしっかりとした上で、工房に出入りすることを許している。


 そうしてわたしたちガラッシア家側のメンバーで見解が一致しているのは、


「ルクレツィアには会わせたくないな」


 ということだ。

 映写機(カメラ)しかり、商会で開発される商品のすべてが、ルクレツィアの発案から着想を得て形にしているものだ。

 ジョバンニがそれを知ったなら、彼が夢中になっているとき独特の、矢継ぎ早の早口で、ルクレツィアに迫っていくのが容易に想像できてしまう。

 ルクレツィアの可愛らしさに惑わされないだろうところは評価できるが、ジョバンニの言動に驚いて目を白黒させている妹はあまりに不憫だろう。

 なので、ルクレツィアには絶対に会わせないという暗黙の了解のもと、護衛のイザイアを中心にジョバンニの動向は常に監視されている。

 ジョバンニの前ではルクレツィアの話題は出さないことを徹底しているから、彼はわたしの妹について未だに認識していない可能性すらある。

 ルクレツィアにも、ジョバンニについてとくに説明はしていない。


「いつもみたいにまくし立てて何か説明をしてくれていたんだけど、アンジェロの弟がすごい、ということだけで、結局ほかは何が言いたかったのかさっぱりだったな」


 話題をもとに戻した殿下は、肩をすくめて仕方なさそうに笑ってみせた。

 側近候補なのにほとんど顔も出さず、たまに来たと思ったら自分の興味のあることだけ話し散らしていくジョバンニに、それでも殿下は寛大だ。

 彼の伝わりにくい早口を、いつも一生懸命に理解しようとしている。

 そして殿下が、ファウストを正しく評価してくれているようなので、フェリックスとシルヴィオの失礼な態度については、今は(・・)不問にしてもいいような気がしてきた。


「それで、フェリックスとシルヴィオは、妹のことが聞きたいのかい?」


 わたしが話を向けると、二人はあからさまにほっとして見せた。

 別に失礼だなと思っているだけで態度には出していないはずなのだけれど、そこまで萎縮されるのは心外だ。


「あー、ほら、君の妹が殿下の婚約者になるって話。

 どんな子なのか、殿下だって気になるでしょ」

「そうなのですか?」


 フェリックスは軽々しく言うけれど、この問題は、かなり繊細(デリケート)だ。

 娘を溺愛している父上と、そんな父上と結婚したいと言って(はばか)らない妹の顔を思い出しながら殿下の顔を窺うと、


「まだ決定事項ではないし、そういうわけではないんだが……、母上や侍女たちが、わたしに聞こえるようにしきりに彼女のことを褒めるから」


 困ったように弁解めいたことを言った。


「今回のお茶会で婚約者を決めたいという思惑は確実に動いているからな。王妃陛下は、公爵家のご令嬢を推したいんだろう」


 シルヴィオの言葉にも、曖昧に笑うだけで肯定しかねている。


 第一王子と結婚の約束をする相手だ。

 エンディミオン殿下が立太子されることはまず間違いがなく、引いては将来の国王妃になるべく存在だから、政治的な側面はかなり重視される。

 それでも殿下の気持ちも尊重したい親心と、世界一可愛いお嫁さんをもらいたいという王妃陛下の希望もかなり透けて見えていて、そんなにあからさまな誘導がされているのかと呆れてしまう。


「王妃陛下は、妹君と面識があるんだったか」

 

 シルヴィオの問いかけに、その時のことを思い出してわたしはため息とともに頷いた。


 王城に一度も来ていない妹が世界一可愛いとかなり噂になっているのは、公爵家の私的なお茶会に招かれているご夫人たちがあちこちで話して回っているからだ。

 そんなご夫人たちから両陛下はガラッシア家の令嬢の話を聞きつけ、公爵夫妻の子どもならさもありなんと思う。

 そうして数年に一度めぐってくる、公爵家から十二貴族の王都邸への両陛下の行幸(みゆき)の際、ルクレツィアが5歳になる前に非公式に顔見せを行なっている。

 社交デビューはまだだけれど、両陛下と両親はそれぞれ親交が深かったので、相応の気安さがあり、粗相のないように短い時間だったけれど、わたしも一緒にご挨拶申し上げた経緯がある。

 そこからわたしの登城が決まり、それからルクレツィアも……という自然な流れがあったのを、本人が行きたがらないばかりに今の今まで先延ばしにされていたのだ。


「我が家に両陛下にご逗留いただいた際にね。

 王妃陛下はかなり妹を気に入っていらして、お人形のようだと抱き上げていらっしゃったかな……」

 

 そうしてそのまま連れて帰りそうな勢いでいらっしゃったのを、国王陛下が(なだ)めてくださったのだ。


「母上は、何かとガラッシア公爵夫人を側に置きたがるから、その延長だとわたしも理解はしているんだ」


 王妃陛下は、学園時代は母上の後輩になり、「憧れのお姉様」とファンクラブを結成して会長を務めていたほど母上のことがお好きらしい。

 その娘のルクレツィアを、ご自身の子どもに嫁がせたいという強い意志が伝わってくるようだ。

 母上がルクレツィアの気持ちを尊重して、「あまり期待なさらないでね」とやんわり牽制しているので、無理に押し通そうとはしていらっしゃらないようだが、今回のお茶会にかけていそうな気がする。


「そこまでご執心なのに未だ決まらないのは、やっぱり公爵家側に何かご事情があるのかな?」


 息を吸うように他家(ヒト)詮索(せんさく)をするのは、スコルピオーネ家の血筋の悪い癖だ。


 代々外交を得意として、正攻法から諜報活動まで例え嫡男だろうと幼少期から叩き込まれるらしく、普段の軽薄に見えるフェリックスの振る舞いにも納得(・・)がいく。


 今のも単純な好奇心から出た発言で、二心がないとわかっているけれど、しかし相手は選ばなければいけないだろう。


「……あ、今のはやっぱりなしにしてほしいかも……」


 少しだけ片眉を動かしたわたしの些細な表情の変化に気づいて、フェリックスが小さく付け足した。

 そういうわけにはいかないだろうけどね。


「どうあれ、殿下と公爵令嬢の婚約が決まりとならなければ、周囲への影響が大きいことは公爵も理解されているんだろう?」


 シルヴィオが上手にフェリックスの失言を流した。

 わたしの心には留め置いているけれど、ここでルクレツィア(我が家)ファザコン(事情)を披露したいわけでもないから、その流れに乗ることにする。


「君にも、何か影響が?」

「母上がうるさいくらいだが。

 公爵夫人とアクアーリオ侯爵夫人、それにあの人は、私たちが生まれる前から仲が良いだろう。

 貴方とアクアーリオ侯爵令嬢が婚約しているから、本当は私と妹君を、という理想があるらしいんだが、あの人は、生家のサジッタリオ家の血が濃い。

 愛は自ら掴みとるものという信念だかで、親や家同士で子どもの婚約者を決めるという概念が欠如しているから、誰かに取られる前に私に口説き落とせと言う」


 心底うんざりした顔を見ると、ビランチャ侯爵夫人の声が今にも聞こえてきそうなほどだ。


「確か侯爵夫人も、一回りも年上のビランチャ宰相に、社交会デビューの日から結婚を迫り続けたという逸話があったよね」


 思い出したような殿下の言葉に、「実話です」と苦々しい顔でシルヴィオは小さく返した。


「でも君、アリエーテ家のご令嬢との婚約話も出ていなかった?」


 さすがのスコルピオーネ家の情報網なのか、わたしも初耳のことをフェリックスは当然のように言うが、シルヴィオも慣れているので淡々と返していた。


「それはビランチャ家の意向だな。

 早いうちに婚約者は決めておいたほうが何かと都合がいいという方針だが、私もその考えに賛成だ」

「オレはサジッタリオ侯爵家の家風、好きだけどね」

「クラリーチェとペイシ伯爵家のご令嬢を天秤にかけているお前に何を言われる筋合いはない」


 確かクラリーチェ嬢はサジッタリオ家のご令嬢で、シルヴィオの従姉のはず。

 ペイシ家はアクアーリオ侯爵夫人の生家だから、ベアトリーチェの従妹になるだろうか。


「それも、殿下の婚約が決まるまでは保留の話なんだよね。アリエーテ家もそうだろ?」

「そうだ。どこも年頃の娘がいれば、殿下の婚約者に据えるチャンスがあるのならと様子見の状態だからな」


 そこで、改めてフェリックスとシルヴィオは、殿下とわたしの顔を見た。


 無言の圧力(プレッシャー)を感じたようで、殿下は困り果てた顔でわたしの顔を見る。

 誰に何を言われても、父上──ガラッシア公爵とわたしの言動で、何かしら察することのあるらしい殿下は、決して婚約については自ら触れず、明言もしない。

 聡く賢明な王子殿下を生涯お支えしたいという気持ちで、わたしはまだ少し物事を見る目が足りない二人に、にこやかに笑いかけた。


「わたしはベアトリーチェと婚約したけれどね」


 これはなかなか、我ながら皮肉の効いた返しになってしまったかなと思う。

 二人は覿面(てきめん)にイヤな顔をした。


 ベアトリーチェは、ルクレツィアに次いで婚約者にしたいご令嬢候補だったという。

 そのご令嬢と早々に婚約を決めて、しかも臆面もなくわたしは彼女がいかに健気で愛おしいか周囲に語って聞かせているから、惚気ととられることも多い。

 実際、惚気ているのだけれど。

 

 二人が聞きたいのはわたしと婚約者の惚気話ではなく、ルクレツィアと殿下がどうなるのか、ということなのはわかっているけれど、この場でわたしから言えることは何もない。

 手の内を明かすわけにはいかないだろう。


 ルクレツィアの気持ちひとつで、まだ婚約者の決まらない二人には申し訳ない気持ちは少しあるけれど、おそらく、殿下とルクレツィアの婚約は成らない(・・・・)


 ルクレツィアが殿下と顔を合わせたら、もしかしたら、万に一つの可能性だけれど、気持ちが変わるかもしれないが、今のところ、父上以上の方が現れない限りは妹の気持ちは動かせないだろう。

 殿下にはまだ荷が重そうだ。

 ルクレツィアがそう(・・)であるかぎり、父上は絶対にそれを通すつもりのようだから、例え王妃陛下相手でも、父上は引かない。絶対に。


「とにかく、いよいよガラッシア家の深窓のご令嬢が表舞台に出て来られるんだから、状況も変わるだろう」

「殿下も、ガラッシアの妖精に会えるんですから、気合い入れていきましょ」

「気合いで、何か変わるものかな……?」


 わたしから何かを聞き出そうとするのは諦めたのか、殿下に念押しをしはじめたフェリックスとシルヴィオに、どうやって(わきま)えるように指導(・・)しようかと思案しながら、決してお茶会が平穏に終わらないであろうことに心の中で嘆息する。

 当日、何が起ころうと、殿下の優しく素直な心根だけは守り通そうと、わたしは静かに誓った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 細かいのですが、王妃の敬称は陛下ではなく殿下になります。 創作物だと時刻の王の妻を指して使うことがありますが、本来日本の場合、王妃という言葉は他国の王の妻または天皇以外の皇族の妻を指すので、…
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