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風の忍者と炎の姫  作者: あさま えいじ
1/7

第1話

宜しくお願い致します。


 現代社会において、妖怪や魔物の存在は確認されていない。

 御伽話の中の話、ファンタジーの話、そう言う認識でしかなく、これから先も存在しない者と扱われる‥‥‥‥はずだった。

 

 ある日を境に、世界に現れた異形の存在、日本では妖怪だと、アメリカではモンスターだと、世界各地で口々に異形の存在が確認され、その存在が広がっていった。

 

 人々は最初‥‥‥‥面白がった。

 異形の存在をネットにアップするなどして、フェイクニュースだ、フィクションだ、と騒ぎ立てた。

 だが、その後理解した。その異形の存在は‥‥‥‥人間の天敵だと。


 始まりの異形が確認されたとき、駆除しようとした。

 銃で撃ち、殺そうとした。だが、ダメだった。異形には物理的な行為は意味を成さなかった。

 銃で撃っても、刃物で切り付けて、挙句ミサイルによる爆撃でも、異形を倒すことも、傷つけることも出来なかった。

 そして、その異形は人を喰らいだした。

 異形の主食、それが人だと理解したとき、人は恐れた。世界は恐怖に包まれた。誰もが世界の終わりだと、人間社会の終焉だと思った。


 だが、始まりの異形は倒された。

 倒したのはただの『人間』だった。ただ他の人とは違い魔法が使える『人間』だった。

 世界で初めて確認された異形と魔法。世界は激震した。後に確認されたのは、魔法を扱う者達は一人や二人ではなく、大勢いたことだった。

 魔法が御伽話やファンタジーの話などではなく実在していた事、異形の存在も実在していた事、そして異形を倒せるのは魔法を扱える者だけだという事が世界に広まった。


 世界の仕組みは大きく変わった。

 まず、『魔法使い法』が国連で採択され、呼称を統一された。

 異形は地域によって呼び方が違うため『妖魔』と呼称されるように統一された。

 魔法を扱う者も地域によって、行える技能によって、呼び方が違うため『魔法使い』と呼称されるように統一された。

 魔法を扱う事が出来ない者を『非魔法使い』と呼称されるように統一された。

 ただ、この『魔法使い』と『非魔法使い』、持つ者と持たざる者の間での格差や諍いは巻き起こり血が流れる事件にまで発展した。

 そして‥‥‥‥最悪の事件が起こった。国家の滅亡、それが現実に起こった。

 200程ある国の中でも小国のとある国が妖魔に滅ぼされた。その国では魔法使いの存在を異端だと称し『魔女狩り』ならぬ『魔法使い狩り』が行われ、魔法使いを己たちの意志で捨て去った。そして、たった一体の妖魔になすすべなく、滅ぼされた。

 火器を用いた攻撃では妖魔を倒せなかった。どれほどの銃弾、爆撃でも妖魔には傷がつかず、人が全てその国からいなくなるまで妖魔は倒せなかった。

 後に、妖魔は討伐された。国境を超えたところを他国の魔法使いが倒した。

 その魔法使いが特別優秀だったわけではない。

 全てや薙ぎ払う風を起こせるわけでもなく、全てを洗い流す水を生み出せるわけでもなく、全てを揺るがす大地震を起こせるわけでもなく、全てを焼き尽くす炎を生み出せるわけでもなく‥‥ただ炎を武器に纏わせ斬っただけだった。

 その炎も現代科学なら再現可能なモノ、ガスバーナーの方がよほど火力があるくらいの炎だった。だが、それでも妖魔には特別なダメージを与えた。

 この事から魔法使いが生み出すモノとそうでないモノには、大きな違いがあることが認知された。

 この出来事により妖魔という存在を倒すには魔法使いが必要だと言う事が全世界に知らしめられた。


 その後、魔法使い法が制定されて10年の時が流れた。

 世界はこの10年の間を『激動の時代』だと称した。

 そして、そんな世界でも人は今日を生きていく。


□□□


 日本の関東のとある地に一体の妖魔が出現した。

 10年前には無かったその事件も時が流れるうちに当たり前になっていった。

 今日もどこかの魔法使いが妖魔を退治している。そうして世界は一定の平和を保っていた。


「今日の仕事は‥‥鬼退治だな」


 一人の男子高校生がぼやきながらも妖魔の姿を視界に捉えた。

 彼の名は風魔 虎太郎。

 高校生であり、歳は16。背丈は170程、体型は細目。顔立ちは年相応でありながら、人並み以上に整っている。

 

 虎太郎は両手をポケットに突っ込んだまま、目の前の存在から視線を逸らさない。

 眼前には山のような大きな体躯に赤い体表、口元には大きな牙が生えたモノがいた。

 動物ではない、人でもない。目の前の存在は鬼―――妖魔と呼ばれる異形の存在だ。


 妖魔は現在社会において、いや遥か昔から存在を知られていた。

 『鬼』『悪魔』『バケモノ』、様々な呼び方をされてきた異形の存在、それを今では妖魔と呼ばれているに過ぎない。

 妖魔は一言でいえば‥‥人間の天敵だ。

 人よりも強く、頑丈で、凶悪だ。

 その力は人を容易く引き裂き、人では傷つけることが出来ず、人を殺すことに容赦はない。

 そんな存在にただの人では無力だ。‥‥‥‥ただの人では。


「さて、始めますか」


 虎太郎は右手をポケットから出す。その手には一枚の手裏剣が握られていた。

 その手裏剣を手首のスナップを効かせ、投げた。

 一枚の手裏剣は瞬く間に鬼に近づき鬼の首に触れることなく、逸れて行った。


「はい、完了」


 虎太郎は手裏剣が目標に当たらなかったというのに、背を向けて歩き出す。すると、歩き出してすぐに背後でドスンッ、と何かが動く音がした。

 鬼の足音ではない。動いたのは鬼の足ではなく‥‥‥‥頭が動いた。いや、動いたというより、落ちたのだ。首から上が。

 首が鋭利な刃物で斬り裂かれた、故にその首が落ちた。

 だが、虎太郎の手裏剣は外れ、鬼に当たることはなかった。では何故、鬼の首が斬り裂かれたのか。


 落ちた理由はただ一つ、虎太郎の魔法が理由だ。一枚の手裏剣に魔法を、風の魔法をかけた。

 かけた魔法は『風の刃』。『風の刃』は手裏剣に付与することで回転速度と共に『風の刃』は鋭さを増した。そして、その刃が鬼の首を刎ね飛ばしていた。

 虎太郎にとって、手裏剣はあくまで『風の刃』を付与する媒介に過ぎず、手裏剣が妖魔に当たったとしても無意味だった。本命は風の刃であり、魔法であった。その魔法が鬼の首を斬り裂いたため、鬼を倒したことを確信した。


「お疲れ様でした」


 虎太郎に声を掛けたのは、歳の頃を20代前半ほどの若い青年だった。背丈は180を超える程の大きな体躯に、グレーのスーツを着ていた。

 男の名は四島 南次郎。職業は警察官だ。


「大したことないですよ。たかが最下級の妖魔ですから‥‥」


 妖魔には強さに応じた階級がある。

 虎太郎が倒した妖魔は最下級、最も弱い妖魔と位置づけされる強さだった。


「最下級でも、並の人間では決して勝てない存在です。あの程度の妖魔一体でも、街中で暴れれば被害は甚大です。それに放っておいて成長でもされては、高名な魔法使いを呼ばざるを得ません。そうなっては、限られた予算もすぐに底を尽きます」

「‥‥だからって、学生を安い賃金で扱き使うとか、それが大人のすることですか‥‥」

「学生の割には高額な報酬だと思いますがね」

「まあ、確かに」


 虎太郎は学生の身分であるが、魔法使いであるため、度々妖魔との戦いに駆り出される。

 そしてその度に、報酬を得ていた。

 妖魔一体につき20,000円。この金額設定が高いのか、安いのか、それは魔法使いの力量による。だが、虎太郎にとっては安い賃金、と口では言っているが、内心ぼろい商売だと思っている。


「では、学園までお送りしますよ」

「やれやれ、これから学校かよ‥‥」


 時刻は午後2時を過ぎたばかり。

 授業途中に連絡を受け、現場に駆り出された。


「学生時代だけですよ、気楽なのも、楽しいのも。‥‥社会人になると、無性に戻りたくなりますよ。それほどいい学生時代ではなかったですけどね‥‥」

「そんなもんですか?」

「‥‥そんなもの、ですよ」


 二人は車に乗り込み、現場から走り去った。


ありがとうございました。

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