2話 発芽した先は地獄でした
世の中、うまく行かないことなんてたくさんある。
十個の目的があったのならばその半分が達成出来れば、上々の結果だろう。
すべてうまく行くなんてことはあり得ない。
もしも上手くいったのなら、それはよほどの才能があるか、もしくはよほど運がよかったのだろう…。
ん? 俺が語るなだって?
生きた記憶のない俺が言ったって説得力ないって?
…ふふっ、いつの話をしているのかな?
俺はもう、世の中そう簡単にいかないことを身をもって知ったのだ!
ーーそう、体験してしまったのだ…。
今、目の前でね!
ーー雨雲……よりもたちの悪そうな分厚い灰色の空。
あ~、マジでヤバそうだよ。なんか時々青白い光と一緒にゴロゴロと音鳴ってるし。
落雷は起きてないけど絶対帯電してるよ。
ーー荒廃した大地。
緑が…、緑がない。
いや、草とかはちらほらあるけど枯れてるように茶色いか、黒い。…赤いのもあるけどあれは草なのか?
ていうか、そもそも枯れてそうな植物以外、生き物がほとんど見当たらないのだが!
魂状態の時はそれなりに確認できてた筈なのに、一体どこ行ったんだよ!
……地獄だ。
まさに地獄のような場所じゃないか…。
先程までの謎のハイテンションから一気に絶望モードへ。
ーーこれは落差がありすぎたろ~。
種だから項垂れることも出来ない。
ああいっそ、このまま朽ちてしまおうか……。
閑話休題
それから暫くして、俺はなんとか立ち直ることが出来た。
…いや、実際には出来てない。出来る筈がない。
だが、このまま落ち込んでいても暗い考えしか出てこないので一旦気持ちを切り替える。
そうだ! 悪いことばかりじゃない!
体?を手に入れることが出来たし、外の様子も確認できたじゃないか!
魂だけの状態よりはマシだ!
それに、冷静に考えてみれば当たり前のことだった。
だって、魂状態で魂を知覚していた時、淡い光はまばらにしかなかった。
植物でも魂を持っていることが分かってるから、普通の草原とかなら一面に淡い光があった筈だ。
森林とかならもっとそこら中に感じることが出来ただろう。
まばらにしかなかったのは、生命が生きにくい地だったからなのだ。
それに淡い光と感じてたが、これもこの土地のせいで生命力が乏しかったからではないだろうか?
普通の場所の魂の光は、それこそ普通に光ってるのかもしれない。
冷静にしていれば見えてくることもある。
この状況に絶望するよりも、今どうしたらいいかを考えよう!
…と、そういえば、魂状態の時は普通に魂を感じられたのに今はあまり感じないな…て、意識したら出来た。
体を得たことによる弊害だろうか? いや、それはないか。
多分まだ体に慣れてないだけだろう。多分これから普通に出来ていく筈だ。
ん~、それにしても何もない場所だな~。
視界はありがたいことに何故か全方位確認できるのだが、それで見ても何もない。
俺が植物だから感じることなのか分からないが…、なんとなく空気も悪い。
ガス…とかじゃなくて完璧に雰囲気で、なのだが、何故か忌避感?を覚える空気だ。
あと、マザーが見当たらない。
あ、マザーはこの種を残してくれた植物のことだ。
俺の体となるこの種を残してくれたから今の俺はここにいる!
まさしくマザーだ!
しかし、肝心なマザーが見当たらない。
確か、種を残した直後に成仏した筈なのだが、それでも枯れた本体は残ってる筈だ。
だがそれが見つからな……、
…………。
……。
実は気になっていたことが二つある。
俺が最初に種になったとき、俺は土の中にいた。
だが、普通、木や草花などの種は最初から土の中にあるのだろうか?
いや、あり得ない。
種は人為的か自然的なにかがなけれ土の上に落ちてる筈だ。
それともう一つ。
なんか、俺の周りだけ土の色が違うのだ。
簡単に言うと、黒っぽい。
……これはまさか…。
…………。
……。
……ああ、そうか。
マザーは朽ちてなお、俺を助けてくれていたのか…。
種を残した後、その種が育つように自分を養分に変えたのだ。
それが種の上に覆い被さって土の中にいるような状況になったのだ。
よく見るとおが屑のような感じなので恐らくはマザーは木だったのだろう…。
ありがとうマザー。
愛してるよマザー!
俺はマザーの分まで生きて見せるぞ!!
そして、実はマザーのおかげでもう一つ発見があった。
植物は普通、水と日光と空気。それと土の養分で育つ。
だが、この地は日光なんてあてにならない感じだ。
逆に水は雨が降りそうな雲が空一杯に広がっているので恐らくは問題ない。空気も忌避感があるが大丈夫だ。
俺が発芽出来たのは、水と空気と、あとマザーの養分だろうと最初は思っていた。
特にマザーの養分は俺の発芽に大きく関わっているだろう。
だが、恐らくはそれだけではない。
確かにマザーの土は温もりを感じられて、俺が成長するのに何の問題もない最高の土だ。
でも、この温もりは養分という感じではなさそうだ。
どちらかというと、何らかのエネルギー?みたいなものを感じる。
それに、よくよく意識してみるとマザーの土はもちろんのこと、空気中にも、あの雨雲にも何かしらのエネルギーを感じた。
ーーなんなのだろうか? このエネルギーは?
だが、一つだけ確かなのは、これが俺の成長にとって必要不可欠ということである。
生存本能というものなのだろうか?
俺は確かにそれを必要としていた。
試しに少しマザーの土からエネルギーを少し貰うと…、
おお! なんか成長できた!
根がしっかりと生えて、葉っぱも出来た!
…なんか黒い感じだけど…。
まあ、そんなことは些細な問題だ。
とりあえず、当面はこれで成長出来そうだ。
空気中のやつも含めればそれなりになるだろう。
多分、俺は木だろうから成長すれば大きくなる!
大きくなったらやれることも増えるかもしれない。
時間はかかるかもしれないが、その間は情報の収集や整理をしよう。
ここがどこなのかは多分分からないだろうが、どういう場所でどんな環境で、何の生物が生息しているのかは分かる筈だ。
魂だけの状態だった俺がどういう存在だったのかは不明のままだが、そんなことはどうでもいい。
体を得た影響なのかはわからないが、俺は今、生きたい!
生きて生きて生き延びて、立派に成長した大樹になりたい!
そしていつかはこの土地も豊かな土地にしてみせるぞ!
ーーこうして、俺の新たな人生…いや、木生が始まったのだった。
ーー主人公成長日記
主人公 種族不明 芽生えたて
サイズ 二センチちょい