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それから僕らは明るい夕空の下、一緒に教室から出た。ミナミの小説は自分名義用と先輩たち用で、全く文体もテイストも違っていて驚いた。
しかしどの作品も面白く、読んでいる僕ら3人の好みも割れた。丁寧に装丁して書店に並べれば、うっかり手にとってしまいそうなくらいの出来だ。
学校から駅までの帰り道。女子二人が先を行くので、僕とレイは横になって歩くことになった。ミナミの緊張を和らげるコハクの楽しげなおしゃべりが聞こえてくる。
僕はコハクに聞こえない声で、レイに尋ねた。
「ねえ、邑朋くん。さっき言いかけていた言葉ってなに?」
「さっきっていつ?」
「文芸部の先輩たちが入ってくる前。僕が、案外似た者同士なのかもねって言ったあと、何か言おうとしていたでしょ?」
「ああ。俺は……」
レイは再び、一度口を噤んだあと、続けた。
「俺は誰にも似たくなかったんだ。人と共通点を作らなければ、信頼することもされることもない。母親の事件があってから、俺はずっと裏切られないように親しくなることを避けてきた。趣味や性格が似ていると、すぐに心を許して相手と仲良くなろうとしてしまう。だからできるだけ、人と違う人間になろうと努力してきた。
でもコハクや君と出会って、それが難しいことだと気づいた。コハクは俺と全く似ていないのに、仲良くなろうと近づいてくる。逆に君は俺とどこか似ていて、仲良くしようとしていないのに吸い寄せ合ってしまう。俺は誰にも似たくなかったはずなのに、似た者同士って言われたとき、嫌な気持ちがしなかった。こんなこと今までに一度もなかったし、自分でも不思議だと思う」
レイは俯きながら言葉を紡いだ。あれほど嫌だったレイとの時間が、今は何ともない。
「僕らが『はみ出し席』になったのって、何かの運命なのかもね」
「運命か……。そういう曖昧な言葉は、あまり使いたくはないな」
「じゃあ偶然の導き?」
「……なんだっていい」
「あはは、そうだよね。ねえ、邑朋くん。レイって呼んでもいいかな?」
「じゃあ、俺もヒカリって呼ぶ」
「もちろん、いいよ」
僕とコハクとレイ、それからミナミ。クラスの「ぼっち」だった4人が、今は一緒に帰っている。コハクだけだった僕の世界が、ちょっとだけ広くなった気がした。
「じゃあまた明日、学校でね!」
駅まで着くと、コハクは振り返ってそう言った。ここからは僕とミナミ、コハクとレイで別れることになる。
「あっ、コハク。ちょっと待って……」
僕は駅へ向かおうとするコハクとレイを呼び止めた。手を握って「命」を吹き込まなければ、コハクはまもなく冬眠発作を起こしてしまう。
「ん? どうしたの?」
僕はコハクの後ろにいるレイの姿が視界に入った。僕が着いていけば、せっかくレイとコハクが二人きりでいる機会を逃してしまう。そんな気遣いが、砂のように僕の心に覆いかぶさる。
「……今日、コハクに借りた消しゴムって返したっけ?」
「なーんだ。そんなことか。ちゃんと返してくれたよ」
「そっか、ごめん。それだけ」
「うん。じゃあまた明日!」
「じゃあ」
コハクが倒れたら、すぐに彼女のもとへ行こう。僕は揺れている心の奥で、そう決めていた。
しかし何故かコハクはその日、冬眠発作を起こすことはなかった。
僕が目覚めさせなくても、冬眠病の眠りから覚めたのか。最初はそう思っていたが、次の日何もしないと、コハクは再び発作を起こして眠ってしまった。




