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3.はみ出し席の僕ら

 雨野コハクは僕の人生を変えた。

 彼女は新しいことが大好きで、何にでも興味津々で、些細ささいな変化にも敏感だった。

 それは味のないガムを噛み続けるような人生を歩んできた僕とは、正反対の性格だった。


 コハクは明るくて活発だったが、他の女子らしく群れることを嫌った。女子グループとおしゃべりをすることはあっても、境目を引いて自分だけの世界を守っているように見えた。

 それは小学時代にいた(中学でも同じクラスになった)、秀才ちゃんの鯨川ミナミに似ている。ただコハクがミナミと違ったのは、孤立していても堂々と振舞っていたことだ。

 新一年生代表として入学式ではスピーチをしていたし、学級委員にも立候補して、クラスでは一際目立っていた。


「雨野さんってすごいよね。転校生なのに堂々としていて」

「えへへ、ありがとう。私、こういうの得意だから」


 4月の真ん中、桜が散り始めたころ、クラスの女子の何人かが、コハクに対してそう言っているのを聞いた。

 そこに純粋な羨望せんぼうの眼差しだけでなく、嫉妬やひがみの感情が隠れていることを僕は察していた。

 美人で、転校生で、目立ちたがり屋で、女友達は少なく、成績も良くて、先生からも好かれている。

 表立った変化はなかったが、これから次第にコハクが女子たちから浮いていくのは明白だった。

 だけど僕には、それを指摘する勇気がない。

 むしろコハクとの時間が増えて、嬉しいとさえ思っていた。僕はこのクラスのなかで、コハクの数少ない友達の一人だったのだ。


 このクラスにはもう一人、コハクの友人といえる生徒がいた。邑朋むらともレイという、短く切りそろえた短髪と黒縁眼鏡が特徴的な男子だった。

 レイは僕やコハクと似ていて、群れることを好まない。休み時間にはクラスの隅で、純文学や哲学書を読むような少年だった。


 レイとコハクが友達になったのは、五月になってはじめての席替えをしたときだ。

 コハクは学級委員らしく、黒板のまえで席替えを取り仕切った。

 中学に上がってはじめての席替えだったから、コハクが用意した簡単なくじ引きで前期の席が決まっていく。

 群れる生徒たちが一喜一憂するなか、僕とレイと、たぶんミナミはどこでもいいやという感情を抱え、寿命が近づいている教室の蛍光灯の点滅を眺めていた。

 あわよくば、コハクの近くになりたい。それだけが僕のささやかな願いだった。


「よろしくね、ヒカリくん!」


 そして席替えを終えた僕の隣には、雨野コハクが笑顔で座っていた。幸運なことに、コハクが僕の隣の席を引き当ててくれたのだ。

 僕らの席はいわゆる「はみだし席」で、6×5列ある座席に納まりきれない、一番うしろのあまりの3席だった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

相田 市川 堀田 鯨川 ……


初瀬 戸田 吉田 高橋 ……


平川 雨野 邑朋


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 黒板に羅列された3人の名前は、僕らだけがこのクラスの他の生徒とは一歩隔離された、特別な存在のように思えた。


「はじめまして、私、雨野コハク。これからよろしくね!」


 コハクはさっそく、反対側のレイにも自己紹介をした。しかしレイは冷めた声で、コハクの笑顔を軽くあしらった。


「よろしく。俺、読書しているときに話しかけられるのが嫌いだから、それだけは止めて」

「うん、わかったよ。気を付ける」


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