PART7
現れたのはフレアと、そして彼女をその背に乗せ高速で飛翔するナイトであった。
陽光の光を浴びて風に舞い踊るフレアの金髪が煌めき、ナイトの全身を構成する騎士甲冑のような装甲もまた白銀眩く輝く。
立ち向かうは巨大なる怪機獣デストラクター。
フレアは一度ナイトの背に屈み込み、彼のバイザーをノックした。それとマスクの合間にある機械らしからぬ二つの瞳が彼女を見上げると、フレアは言う。
「まずは中に捕らわれてる啓助他ガキンチョたちを助けるわ。デストラクターはナイト、アンタが責任持ってここに押し止めなさい。良いわね!?」
「もちろんにございまする! このナイトめにお任せあれ!」
「その意気や良し! まずは寄せなさい。来るわ!!」
かしこまりっ――デストラクターから放たれた無数の触手の突撃を、ナイトは背のスラスターの向きを変えて躱して行く。
あまりにも数が多く、全てを回避することは難しい。故に直撃する触手をフレアがその手にした光剣“ブレイザーセーバー”にて切断し、強引に突破口をこじ開ける。
それらを越えると二人の視界が拓けるが、すぐに眼前に出現したのは巨大なハサミ。
それを前にナイトは「ここは自分に!」とそう言って左手に接続されている盾から剣身の無い鍔だけがある柄を右手に引き抜いた。
「輝け! ブレイバーソードッ!!」
甲殻類のようなハサミに今にも飲み込まれそうと言う直前で、ナイトの咆哮と共に突き出した柄の先から閃光が迸った。
そしてそれは瞬く間に実体のある諸刃の剣となり、横に薙ぎ払いハサミを両断して見せる。
飛び散る動力液の中から飛び出した二人は既に、啓助たちの居るクラスの窓辺へと迫っていた。フレアが叫ぶ。
「ガキ共! そこ、離れてなさい!!」
ブレイザーをセーバーモードからブラスターモードへと変形させ、その銃口を窓へと突き付けるフレアに、窓を開ければ良いのにと思いながらも彼女をよく知る啓助は担任をその小さな身体で抱え上げつつ皆を避難させる。
よくやったわ――と啓助を調子良くも褒めつつ、ナイトの背から跳んだフレアは突き付けたブレイザーの引き金を絞った。すると銃口から発せられた光子の弾丸を受けたガラスは瞬く間に消失し、そうやって空いた窓からフレアは教室へと飛び込み着地した。
しんと静まり返る教室。
その只中、着地して屈み込んだままでいたフレアが突然に身を翻すと、ドレスのスカートや各所にあるフリルに長い金髪を踊らせ、それらが纏う煌めく粒子を散らし、そうしてこの場を彩った彼女はしたり顔をしながら大仰なポーズを決めて言った。
「もう安心なさい、ガキンチョどもよ! この正義のヒーロー、プリンセス・フレアが来たからにはもう安心……」
「ヒーローって男のことだぞぉ! 姉ちゃんオナベかよぉ!!」
困惑する皆の中で、特に混乱を来していた将太は却って変に冷静になっており、泣きべそかきながらフレイを指差すとゲラゲラと笑い出した。啓太がそれはマズいと肝を冷やした直後、フレアが手にしたブレイザーを発砲。
その音に全員が固まる。
光弾が向かった先は教室の出入り口で、今まさに入り込もうとしていたあの人体模型がそれ当たって蒸発していた。
「……小賢しいガキね。魅惑のスーパーヒロイン、プリンセス・フレア……で、文句ない?」
彼女の冷ややかな視線を受けて、将太は静かに頷くのであった。すると――
「フレア姉ちゃん! ナイトがヤバい!!」
今度は凍り付いてしまった将太の肩を掴み彼を昇へと預けた啓助が彼女の元へと駆け寄り窓の外を指差す。そこでは無数の触手に追い回された挙げ句、もう一つあったハサミに挟まれるナイトがあった。
それを見たフレアは全員に「アタシが道を開くから、アンタたちはついてきなさい。ケースケ、アンタはアタシの道案内。他の連中のとこに連れてって」と告げ、教室を廊下へと出て行く。
生徒たちはそれにぞろぞろとついて行き、その途中で目を覚ましたらしい担任も寝ぼけたままふらふらと流れに乗るのだった。