PART5
――機身騎士ナイトキャリバーン/――
――その頃、清秋インパチェンス302号室。啓助家では――
「うぅ~……あと、ちょっと……」
「がんばってぇ~……あと少しよぉ……」
テーブルを囲んだフレアとしのぶは、そこの中央に立てられた積み木を崩さないように解体して行くというゲームを遊んでいた。
抜き取られたブロックの数はそれぞれフレアが五。しのぶが五の文字通り五分五分。
しかし合計して十個ものブロックを抜き取られている積み木は不安定で、何をしなくとも揺れているような始末。
時間は無くとも、ここでフレアが無事にブロックを獲得すればその数でしのぶを上回る。そしてしのぶの番となれば積み木は確実に崩壊し、フレアは彼女に勝利出来る。
そうすれば残り一個の高級ブランドチョコを手に入れられる。フレアの集中力は極限に達し、その真剣さたるやついしのぶまでも彼女を応援してしまうほど。
「アタシの……かち――」
そして遂にブロックが積み木から抜き取られる――その間際であった。フレアが手元に置いていたコンパクト型のツール、インシグニアから突如けたたましい警報のような音が鳴り響き、それに驚いたフレアは手元を狂わせて積み木を崩してしまった。
それを前にし、勝利に餓えて煌々と輝いていた彼女の碧の瞳もまたガラガラと音を立てて崩れ去る。
あらあらぁ――一緒に残念がるしのぶは、勝負は引き分けと言うことにしてチョコをしまってしまう。結局手に入れられなかったチョコを悔やみながら、何事だと恨めしげにインシグニアを手に取ったフレアは蓋を開く。
中の宝石から飛び出したのは岩戸町の地図であり、そこのちょうど啓助が通う小学校のある地点で点滅していたのはデストラクターを示す反応であった。
「ヤバッ」
しばらく平和であったとはいえ、油断しすぎていたと自らの迂闊さを呪いながら、椅子から飛び降りるフレア。
チョコの隠し場所がある台所で棚を整理していたしのぶが彼女を見て「どうしたのぉ?」と相変わらずののんびりマイペースで訊ねると、フレアは「ケースケがピンチかもしれない」そう答える。
「けーすけちゃんが?」
「けど平気よ! アタシが、このプリンセス・フレアが出向くんだもの。ケースケは無事に連れて帰るわ!!」
「あらあらぁ、じゃあお願いねぇ……でもぉ、フレアちゃんも無理しちゃダメよ? 困ったら電話してね? パパにも連絡するのよぉ?」
合点承知の助よ――言いながらフレアは勢い良く玄関から飛び出して行く。それは文字通りで、扉から飛び出るとそのまま転倒防止の手摺りに足を掛け空へと飛び出したのだ。
そして手にしたインシグニアを掲げる。眩い碧の閃光が辺りを照らし出した。
「WAKE-UP!」
インシグニアより展開し、ぐるりフレアの周囲を囲むように並んだ衣装の数々。手元のインシグニアにも同様のラインナップがあり、彼女はそれをケータイでも弄るように指先で滑らせて行く。
そして選んだプリセットで指を止め、そこを長押しする。
宝石からの投影である画面の表示が切り替わり、フレアの着ているジャージが光に還った。
「|BATTLEDRESS、WARE!!」
投げ出した肢体を、出現した紅と銀のドレスが包む。
それはフレアに力を漲らせ、その身を羽のように軽くさせる。
そうして身を翻し、得意気にポーズを決めた彼女は閃光を突き破り宙へと再び乗り出すと眼下の家屋の屋根へと軽やかに着地し、そして風のように駆けた。
「待ってなさいケースケ、フレア姉ちゃん様が今行くわ!!」