PART3
――機身騎士ナイトキャリバーン/――
「おっはよ~ぅっす!!」
ガラガラと教室の入り口の引き戸を開き、敷居をわざわざ飛び越えて入室する啓助。
そんな彼の元気いっぱいな挨拶に、教室に揃った生徒たちもまた元気な挨拶を返した。
朝の会前の自由時間。
ここで生徒たちは昨日あったことや登校中にあった些細なことを話し、賑やかで笑いが絶えない。
「おはよーっす、ケースケ! なんだったんだよアレさ~」
「この前テレビに出てたヤツだろ、アレ!」
それからすぐに啓助へと絡んだのは、クラスの全員が友だちではあったがその中でも良く遊ぶ二人。昇と将太。
その内、太めながら背の高い昇が啓助へと何かを投げて寄越した。彼は咄嗟にそれを受け止めて見てみると、何故か上履き。
しかし啓助にはそれだけで大体の察しが付き、呆れた顔をしながら二人の居る窓際へと歩み寄りながら言った。
「アレじゃなくてナイトだよ、アレは」
「お前もアレって言ってるぞー」
「うっさい。それよりいじめるなよ、かわいそうだしかっこ悪いぞ」
細かいことをよく気にする将太を一蹴しつつ、二人を押し退けた啓助はベランダへと続くガラス戸の前に佇んだ同級生の男子、大智の前に立つ。
そして「ほら」と二人に取られたものであろう上履きを彼へと返してやるのだった。
どうにも人見知りであがり症なのか、人を前にすると口を利かなくなりうつむきがちになってしまう大智は、弱気なことも相まっていじめられやすい。
啓助に返してもらった上履きを抱えた大智は、彼を押し退け駆け足で教室の出入り口へと向かった。
「あっ……ねえダイチくん! もうすぐ朝の会――」
よろめいたところを昇に支えてもらいながら啓助は大智へと声を掛けるも少し遅く、彼はもう教室を出て行ってしまった後だった。
開け放たれたままの戸を見詰める三人。
「ちぇっ、なんだよダイチのやつぅ。感じワルゥ」
将太がそんなことを言うものだから、ムッとした顔を作った啓助は彼に歩み寄りその肩を軽く小突く。するとすぐに将太から大仰な悲鳴が挙がり、何をするのかと啓助を批難した。
「お前たちのせいだろ。後でちゃんとあやまれよ」
むむむと目付きを悪くして睨みながら言う啓助に圧倒された将太は彼から跳び退り、べっと舌を見せると「ヤなこったぁ」と悪びれない。
昇も昇で「ハイハイ」と適当な返事をするばかり。
本当に分かっているのだろうかと啓助はそんな二人に溜め息を吐いてしまうのであった。
それから自らの机へと移動した啓助は背負ったランドセルを机の横のフックへと掛けると椅子に座り一息吐く。やはり大智の事が気になるようで彼は頻りに二つある教室の出入り口を見る。
「ケイスケくん、どうしたの?」
「あ……ミヤビちゃん。おはよっす」
すると声を掛けてきたのは隣の席の女子である雅だった。啓助は少し照れくさそうに鼻の頭を掻きながら、遅れ気味でやって来た彼女にさっきあったことを話す。
どうやら雅は教室に来る時に出て行く大智を見たらしく「そんなことがあったんだ。ダイチくん、お外の方に走っていったけど……だいじょうぶかなあ」とおっとりした調子で語った。
「外……かあ」
まさか出て行くほどの事ではないはず。校舎裏にでも隠れて騒ぎにするつもりなのだろうと、啓助は落ち着かない自らを落ち着かせるようにらしいことを予想しては自分に言い聞かせた。
そして担任の教師がやって来て、朝の会が始まった。