PART2
――機身騎士ナイトキャリバーン/――
「ひゃあっほーぅ! 速いはやーい!!」
轟――と風を唸らせ、一筋の閃光が空を舞う。
その正体はナイト。そして彼の大きな頭の上にはランドセルを背負った啓助が乗っかっていた。
啓助は吹き付ける風や眼下に広がる街並みを前に、以前のように絶叫するようなことはもはや無くなり、その疾走感と空を飛ぶという普段味わうことの無い経験を存分に堪能している。
「坊ちゃまは勇敢でござるな、もう飛ぶのが怖くないとは」
「当たり前だよ! こんなこと出来るヤツ、他に居ないんだもん。気分良いや!!」
意外そうにナイトは瞳の輝く両目で頭上の啓助を見て言うと、啓助は鼻先を擦りながら笑って見せた。一度目は酷く驚いたと聞くが、それを引き摺ることの無い彼の心の強さにナイトは感心して仕方がない。
更にはその身体能力。今でこそ速度を調整しているが、意識が覚醒する前のナイトは恐らく全速力で飛んでいた。それに目を回しながらも振り落とされることのなかった啓助は子供離れしているとしか言いようが無い。
今も辛そうな素振りはまるで見られず、その優れた静止及び動体視力で地上の様子を眺めて楽しむ余裕すらあると言うのだから、ナイトには驚くしかなかった。
「よぉーし! 飛ばしますよ、坊ちゃま! 遅刻は厳禁!!」
「よぉーし! かっ飛ばせえ~っ!!」
それはそうと、空を飛べるという自らの能力でここまで喜んでもらえることもナイトにとっては嬉しいもので、マスクのような形状になっていて表情を作れない口元に代わって両目にアーチを描いて笑顔を表現した彼は出力を上げた。
地上からでも遠すぎると言うほど啓助の通う学校は離れていない。上空から直線で、今の速度を以てすれば寝坊の巻き返しなど容易い。
そうして気が付かぬうちに二人は先に集合場所を出発していた登校班を追い越して小学校へと到着する。宙で姿勢を調整し、スラスターを真下に向けたナイトはゆっくりと校門の前へと着陸した。
登校してくる生徒らを見守り迎える教員の顔は青ざめ、子供たちは騒ぎ出す中で、無事に短い両脚の先に着いた大きな足裏を地に付けたナイトは頭の上の啓助に降りるようにと促す。
それに元気良く返答した啓助は彼の頭上から飛び降りると、「いってきまーす!」とナイトへ手を振りながら校門を潜り抜けて行くのであった。
それを見届けたナイトはさてと、と一息吐くと共に纏ったままのエプロンのポケットから紙切れを取り出すとそれに目を通す。その紙には営業中のスーパーまでの道筋が描かれていた。
――近くのスーパーがまだお休み中だから、遠いけど空いてるスーパーまで買い出しに行ってきなさい。これは超重要な任務だから、絶対にしくじるんじゃないわよ。良いわね!?
家を出る間際、フレアから手渡されると共に与えられた任務。
ナイトはふんと鼻を鳴らすと左手に握り拳を作り気合いを込める。そして彼方の空を見上げると言った。
「このナイトめにお任せあれ! 確りとこの務め、果たして見せましょうぞ!!」
要は買い出しの使いっ走りと言うことなのであるが、主の立場にある存在からの命を完遂することが何よりの生き甲斐であるナイトにはそんなことはどうでも良いのである。
目を丸くし、おずおずと近付いて様子を見に来た教員に振り向き、驚いて跳び退った彼へとナイトは「お騒がせ、失礼いたしました」と気をつけをして告げ、そして再びスラスターに火を入れた彼は空へと飛んで行く。
茫然自失として空を見上げている教員とは裏腹に、そんなナイトに子供たちは大はしゃぎなのであった。