26話「思いがけぬ出来事」
ヒロタカさんが静かに口を開く。
「ケレヴリルさんは異世界から来たエルフだという認識でよろしいかな?」
私は力強く首を縦に振った。
「ぃよっしゃあぁぁぁぁぁっ!!!!」
耳が良い私には大き過ぎる声でヒロタカさんが叫ぶ。
まだ耳がキーンといっている。
親父がスマホを取りだしてメッセージを打ち始める。
「ケレヴリルさん、フルネームは何だったかね?」
「え、えっ?ケレヴリル=アルヴァ=ロドヴィッチです。」
ヒロタカさんはそれを聞いてまたスマホを弄り始めた。
「おい親父、一体なんなんだよ。市役所員だから何か裏技的な案があるか聞きに来たんだけど。」
そう言うタカヨシにヒロタカさんは顔を上げて答えた。
「正直、そういうものは無い。全くない戸籍を新しく作る事は法律上不可能だ。しかも結婚するためには相手の戸籍も必要になる。ましてや異世界人となると……自力でどうにかするのは不可能。事実婚でバレないように生活するしかない。」
そこまで聞いてタカヨシは目を伏せた。
だが、そこでヒロタカさんのテンションが急に変わった。
「だがな?それはバカ正直に市役所に行った場合の話だ!俺はずぅっと!この時が来るのを心待ちにしていた!俺……異世界転生物が大好きでな!こっちから異世界に行った場合の話はよく聞くんだ!だが!もし逆が起きたらどうなる!?法律や文化、季節や仕事などなど!適応出来なさそうな事がたくさんある!」
テンションが上がりすぎているのか、かなり早口になっている。
何を言っているのか半分以上わからない。
そして更に早口で喋りだした。
「俺は来たるべきその時のために学生時代からネット上にサークルを作っていた!その名も<異世界人救済サークル>!あらゆる異世界人を想定して、各国の異世界ファンが集まって出来ているネットサークル!ここならケレヴリルさんの戸籍を取ることも可能!国内でロドヴィッチさんを探し、養子にしてもらえば日本国籍を取得出来る!しかも、早めに結婚も可能だ!あー、だが結婚したら浅谷ケレヴリルさんになるのか?異世界ファンとしてはフルネームを残してほしい……。通名ならフルネーム使えるぞ!」
ヒロタカさんは一人で盛り上がりながら色々と手を打ってくれていた。
私はタカヨシと目を合わせ笑った。
ミヨコさんもヒロタカさんを楽しそうに見ている。
その日、日本に帰化して住んでいるロドヴィッチさんが異世界ファンサークルから見つかり養子になる手筈になった。
私のフルネームはケレヴリル=アルヴァ=ロドヴィッチのまま変わらないらしい。
有難い配慮だ。
ヒロタカさんには感謝しかない。
そして私の事を一番に考えて行動してくれたタカヨシに一生変わらぬ愛を捧げたいと心から思った。




