1話 「エルフ少女の異世界転生」
私は弓を持って木々の上を走る。
突然の襲撃。
耳を塞ぎたくなる森に木霊する数々の悲鳴。
鼻が痛くなるほどの焦げ臭さ。
体中が焼けるような炎と魔力。
目を疑いたくなるような光景。
私が住むエルフの里である<ベルシェ>にオークとコボルドの連合軍が突然攻めてきた。
数日前にコボルドの使者が来たものの、すぐに決裂して帰ってしまった。
報復、もしくは実力行使といったところだろう。
私は一瞬木の上に足を止めると一気に弓を引き、遥か遠くの対象目掛けて魔力を込めた矢を放つ。
「ギャァッ!!」
遠くで汚い悲鳴が聞こえた。
「私たちの里に攻めてくるなんて!全員私が倒してやる!!」
ギリッと歯を食いしばって木の上を移動する。
移動しては魔力を込めた矢を放ち、また移動する。
何度も矢を放ち、残り3本。
ここで里の方が騒がしくなった事に気付いた。
里の中にも少数だが進入されたようだ。
防衛は他の人に任せて急いで里に向かう。
里へと続く道を大急ぎで走る。
注意を怠った私を呪った。
「しまった!?」
足元に出来た魔法陣が爆発を起こし吹っ飛ばされる。
とっさに魔力で障壁を張って威力を弱めたが、強く胸を打って息が詰まる。
呼吸が出来ない。
受け身を取れず地面に落ちて激しく転がる。
体中が痛い。
弓を杖代わりにゆっくり立ち上がると里へ向けて足を進める。
2,3歩進んだところで致命的な失敗をした。
足元に大きな魔法陣が出来た。
「こ、これは!」
痛みで注意散漫になっていた。
この魔法陣は中にいる者の命を確実に奪う危険なものだ。
だが、私は先ほどの痛みで歩けない上に魔力切れだ。
逃れるすべはない。
「…みんな、ごめん…。」
魔法陣が作動し、目が霞む。
意識が遠のき、やがて塵一つ残さず消えてしまった。
しばらくして目を覚ます。
ゆっくり立ち上がると暗く何もない空間に立っていた。
「…ここは…?」
辺りを見回しても何もない。
誰もいない。
先ほどの痛みもないし苦しくもない。
真っ暗だが暑くも寒くもない。
〈エルフのケレヴリル=アルヴァ=ロドヴィッチさんですね?〉
急に目の前で眩い光が現れる。
あまりの眩しさに目を瞑る。
再び目を開けると、目の前に人がいた。
〈残念ですがアナタは死んでしまいました。ですが…。〉
目の前に現れた人がゆったりと説明を始めるが、ケレヴリルが遮るように声を上げる。
「ちょっと!アナタ!人間の癖に偉そうに!すぐに戻しなさい!そもそも!ここはどこなのよ!確かに私が油断したのが悪かったけど、アナタが威張ってる理由がわかんない!だいたいエルフの里を襲って来たのはアナタなの?言わせてもらうけどね!…」
ケレヴリルが説教し始めたのを優しい目で見守っていた。
〈アナタは天国に行くか、転生して生まれ変わるか、異世界で新しい人生を歩みなおす選択権があります。もし異世界に転生する場合は色々と言語や荷物、お金やスキルをサポートをさせてもらいます。〉
説教を続けていたケレヴリルだったが、相手が聞いていないとわかると怒り始めた。
「聞いてんの!?異世界に転生ですって!?サポートですって!?いいからさっさと戻しなさい!」
〈わかりました。異世界転生ですね。それで、サポートは無しでいいのですか?転生場所などは…〉
ゆったり話す相手にケレヴリルが怒る。
「いい加減にして!早くして!」
相手がニコリと笑ってケレヴリルを光が包む。
〈それでは今から異世界に転生させてもらいます。転生場所は安全な地域を選ばせてもらいました。サポート無しですんで言語変換や生活基盤はありません。姿もほぼそのままで転生させてもらいます。最後に最低限のアイテム袋を一緒に送ります。ご確認ください。それでは。〉
ケレヴリルを包む光がどんどん強くなり、意識が遠のいた。