序章 夏の始まり 始まりの夏 8
「って無視するなよ。ってなに?一名様ご案内?ここはホテル?ってこの声もどこかで?」
困惑する章太郎に男の声が降りかかる。
「気のせいじゃないよ。だって、ほら」
目隠しが取れ、視界が明るくなる。
「ってリッキー!ナッチまで!」
「やあ」
と、優しく手を振るリッキーと、
「おひさ~」
と、明るい笑みを浮かべるナッチの姿があったが、
「ってこの二人は?」
そこにはリッキーとナッチ以外にも二人の男女がいた。
男の方は、高身長で、細長い腕にはしなやかな筋肉が付き、日本人離れした顔に肩甲骨の下の方まで届いている長い髪を持ち、ワイルドな雰囲気を醸し出していた。
女の方は、ナッチより少し高い身長で、肌が白く、長い髪を後ろで一つにまとめている、結構な美人だった。
二人とも、というか四人全員、今いるこの場所にいるべき人間ではなかった。てゆうかここどこだ?
「二人とも、自己紹介を」
と、リッキーが促すと、
「俺は枕木総司。周りからはマークと呼ばれてるから、それでいい。このバンドでベースをやってる。よろしくな」
と、低く響く鋭い声で言った。
章太郎は握手を求められ、マークの手を握った。てか手がごつい。ベースなるものがまだよくわかってなかったが、自分には出来なさそうだと章太郎は思った。てゆうかバンドってなに?どゆこと?
「私は八木文乃。気軽にフミって呼んでね。私はキーボードを弾いてるの。これからよろしく」
と、落ち着いていて、かつ明るい声で言った。
「えっと、俺は大倉章太郎。あだ名は特にないから章太郎でいいよ。よろしくお願いします」緊張したのか、最後は敬語になってしまった。
「というか、バンドなの?みんな」
マークの自己紹介で疑問に思ったことを章太郎は質問した。
「そうだよ」
と、リッキー。
「というか、ここはどこ?」
「スタジオだよ。入ったことなかった?」
「へぇ、スタジオってこんな感じなんだ」
「この部屋は大体12畳かな。だから五、六人くらいがちょうどいいかな。ギターアンプも二種類あるし、ミキサーもでかい」
「??」
突然の専門用語に章太郎は混乱してきた。
「ねぇリッキー、とりあえず今はあの話をしないと」
とここでフミ。彼女は結構しっかり者らしい。
「そうだな」
「なんの話?」
章太郎は話について行けず、訳の分からないといった顔で尋ねた。