序章 夏の始まり 始まりの夏 7
八月某日、課題を半ば諦めた章太郎は、村川と一緒に学校で卓球をしていた。今回も章太郎は村川に全く歯が立たず、負けという苦汁を飲まされていた。
「少し休憩しようか」
五試合を終え、五勝無敗でまだ余力ありげな村川が爽やかに言った。
それに対して章太郎は、息切れで何も話せなかった。
村川に飲み物を買ってきてもらって、少し飲んで、やっと章太郎が、
「これはなんの違いだよ」
と、弱々しく言った。
「さあね、やはり才能のち・が・い?」
「そーですか」
ぐーの音も出ない章太郎は、ぶっきらぼうに言い捨ててそっぽを向いた。
「まあまあ、そう怒りなさんな」
そんな章太郎をなだめるかのように言った。
「ぐ、ぐぅ」
「まぁでも敗者には一つだけいうことを聞いてもらおうか」
「え?」
「ついてきて欲しいところがあるんだけど、君に拒否権はないよ」
村川がサディスティックな笑みを浮かべ、章太郎を引っ張る。
「え?ちょ、待てよ。どーゆー展開?」
「ま、着いてのお楽しみ」
「いやいや!なんで目隠しすんの!」
「サプライズだから」
「なんで言っちゃうの!?」
章太郎はもう訳がわからなくなった。
「いや、大事なのはその事実ではなく内容だから」
「いやここどこ!?って車!?まじでどこいくのぉ~!?」
章太郎の叫びも虚しく、車は進んで行った。
後に、片付けなかった卓球台などなどについてなぜか章太郎だけが叱られるが、そんなこと今は誰も知らない。
「車から降りたかと思えば、次はどこいくんだ?って下り階段?え、なに、地下にでも行くの?待って怖い。まじで怖い。本当に大丈夫なのこれ~!?」
車内で多少は落ち着いた章太郎だったが、降りた瞬間からの歩く以外のモーションが意外過ぎてまたパニックになっていた。何しろ下り階段。違法の二文字が脳内にチラついた。
「さあ、そろそろだよ。俺の案内はここまでなんで、じゃ、引き継ぎよろしくお願いしま~す!」
「え?待って、俺知らない人に連れてかれるの?俺悪いことはなにもしてないよ?おーい!」
「章太郎静かに!周りの人に迷惑でしょ」
「むぐぅ」
ぐうの音も出ない章太郎に、村川とは違う男の声がかかる。
「はーい、こっちだよ~」
「ちょ、だ、誰?ってどっかで聞いたことあるような、、、?」
「はーいゆっくりゆっくり、あ、次段差があるよ」
「え、ちょ、あ、と、うわぁぁぁぁぁ!!!!」
章太郎は思いっっきりずっこけた。
幸い、歩行時のバランスを取るために腕を前に出していたため、けがは免れたが、衝撃を辛うじて受け止めた腕はジンジンと痛んだ。
「おっおい!もうちょっと的確な指示を、、、」
「一名様ごあんなーい!」
突然、案内係の男とは違う、元気な女の声がした。