序章 夏の始まり 始まりの夏 6
カコン、カコン、カンッ!、スカッ
「サーッ!」
0-1、0-2、、、0-6、、、1-8、、、、
どんどん点差が開いてゆく。
負け、という言葉でだんだんと頭の中が埋まってゆき、
ついに相手のマッチポイント。
これに耐えきれなくなり、
「お前はなんでそんなに卓球上手いんだよ!」
と、章太郎は声をを荒らげた。
「いやー章太郎が単に運動音痴なだけでしょ?」
「うっ、で、でもわかってんなら手加減くらいしてよ!」
「いやーしてるつもりだったんだがなぁ」
「そんなに俺ひどいの?!」
「俺が何言っても侮辱にしか聞こえないと思うから、とりあえず自分の胸に聞いてご覧!」
そう言い終わるや否や、村川は本日最高のサーブを打った。
二人が卓球で熱くなっている(?)ころ、少し離れた薄暗い廊下から二人の男女の話し声が聞こえた
「本当に彼を誘うの?」
「ああ、彼はそうするべきだ」
「まぁ彼には是非入っていただきたいとあたしは思ってるけどね。いい人だったし」
「俺も同感だよ。俺もそろそろパート交代したいしね」
「リッキーはいつもそればっかだね」
「いいだろ、別に。そーゆーナッチはどうなんだよ。ずっと同じパートで飽きないのか?」
「あたしはいいんだよ。好きだから」
「そうかい」
「そういやあの二人は今何してるのかしら」
「今卓球でもしてんだろ」
「違う違う。今日って11時からだったでしょ」
「そういえば」
「てかあたしら時間やばいんじゃない?ここから歩いて30分はかかるよ」
「急ぐか」
「そだね」
「てかナッチ、お前講習は?」
いつもよりは真面目だった顔を綻ばせて、ナッチは満面の笑み(とはほど遠い結構カチコチな作り笑顔)を浮かべた。
「ナニソレ、シラナイヨォ?」
「全く、とにかく急ぐぞ」
やれやれ、とリッキーはため息を吐くように言った。
その日の夜、村川は自室でスマホいじりに勤しんでいた。
使い始めた頃は何もわからなかったが、使っていくうちに様々な機能を覚えた。
そして今では、それらをほぼ完璧に使いこなせるようになった。
さらには、ルーティンなるものが確立し、スマホを開いたらまずどうする、そしてどうする、というものが無意識下でできるようになっていた。
そんなこんなで今回もかのルーティンが終わり、音楽アプリに指を伸ばす。音楽を聴きながら勉強しようと思った(ここで章太郎はそうは思わない)のだ。
なに聞こうかな、なんて考えていると、不意にスマホにメールが届いた。
「なんだろ。はっ、まさか章太郎がついにラブコール?じゃなくてリッキーか。なんだぁ?『件名:協力して欲しいことがある』?珍しいな、リッキーに頼みごとされるなんて」
村川はメールを開き、内容を読み始めた。