魔物が来るらしい 3
〜三年前〜
その日は徹夜が続いて疲れていた。キャパシティを超えた仕事量に上司からパワハラ紛いの恫喝。既に限界は超えていた。死のうと思っていたわけではない。ただフッと体が傾いていき、混み合う駅のホームから線路に落ちてしまった。
そして、
細貝拓海は死んだ。
はずだった。
気が付くと周りは駅ではなくなっていた。
「おおっ!勇者よ。異世界の勇者よ。」
「なんと、成功したのか。」
「ほんとにこいつが勇者なのにゃ?」
「口を慎めシードルーフ。勇者様の機嫌を損ねるでない。」
「はいにゃ。」
どういうことだ?
僕の周りには金持ちっぽいおじさんがたくさんいるし、全員がこちらを見ている。中には猫耳の女の子まで。これは、まさか。
「お主よ、名はなんと申す。」
一番良い椅子に座っている一番偉そうな男が訪ねてきた。
「あの…、俺は……。(これ、あれだよな。異世界的な、転移的な。と、なるとかっこいい名前にしいな。本名はパスで。)」
「俺の名はギーヴ。ギーヴだ。」
そういった瞬間体に異変が起きた。熱が身体を巡るような。渦巻くような。耐えられなくはないというくらいの不快感が続いた。
「落ち着くのだ。それは名が身体に定着しておるのだ。魔素との共鳴が起こり、最適化しているの。この世界で名は大変重要である。名前は一人に付き一つ。同じ名前の人間は二人といないのである。赤子に名付ける、ときは大変なんだぞ。既存の名前は受け付けられずに名が定着せぬのだ。」
「はぁ、はぁ、そうなんですか。(TwittのID的な感じか?まあ、いいや。)それでここは?」
「おぉ、すまんかった。説明がまだであったな。まずは自己紹介といこうか。朕はバハゲトル=アルギス。ここアルギス国の王である。」
やはり王だった。これは、異世界転移キタコレである。
「俺は復活した魔王を滅ぼすために異世界から召喚された勇者で、なんらかのスキルを持ち、これから修行の旅に出る。こんなところか?」
ドヤりながら言ってやった。ハズしてたら大恥だぁ。
「すっ……、すごいにゃ。さすが勇者だにゃ。」
「これは、この状況判断はスキルによるものか、それともただの推理なのか。」
お?お?当たりっぽいぞ?
「さすが勇者である。ギーヴよ。貴殿に説明することはないようだな。」
バハゲトルが驚いたように言った。
「このくらい朝飯いや、前日の夜食前でございまする。」
「……、ちょっと意味はわからないが、まぁ、良いだろう。ヴァリスよ、例のものを。」
「かしこまりました。」
バハゲトルの横にいたハ…、いや、髪の薄い男が部屋を出ていった。ポジション的に大臣だろうか。
「ギーヴよ、お主には修行の旅に出てもらう。」
「はいはい。」
ヴァリスが帰ってきた。
「お待たせしました。」
「ご苦労であった。」
「ここに支度金として500万ギリルある。これで支度をし、旅に出るのだ。」
500万ギリルというのがどれくらいの価値なのかわからんけど、周りの反応を見るに相当な大金らしい。だがしかし、此れだけではきつそうだ。ここはわがままを言わせてもらおう。
「国王様。」
「なんだ。」
「自分はこの世界に来たばかりで右も左もサンマの塩加減もわかりませぬ。宜しければ共に旅をする仲間、お供、カクさんスケさんを紹介していただけないでしょうか。」
「おう、そうだな。さすがに金だけだけ渡して一人にするのは厳しいか。そうだのお…。」
バハゲトルが周りを見渡す。部屋にいる人を一人ひとり見ていく。
「(あっれぇ、おかしいなぁ。皆バハゲトルと目があった途端下をみるぞぉ?旅に出たくないのかなぁ?それともこの召喚なんか曰く付きなのかなぁ?)」
「シードルーフよ。」
「はいにゃっ!!」
猫耳の女の子が返事をした。
「そなたに勇者ギーヴの伴を任せる。しっかりと導くのだぞ。」
「あい、わかったにゃ。必ずや魔王の首をここに。血抜きをして内蔵を取り出し、中に具材を詰め込みオーブンで焼いたものを。」
「…そこまでせんでよい。食べる気か。まあ、頼んだぞ。」
「ガッテン承知の助にゃ。このシードルーフ必ずや。」
頑張るぞぃ