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Evolve

作者: 二ノン

 私はベッドの上で目を覚ました。いつも通り会社に行かなければならない。憂鬱な気分だ。

 気怠い体を無理矢理起こす。その時、私は体に違和感を抱いた。いつも疲労が溜まって重たい身体がいつもよりなんだか軽い気がしたからだ。

 そして、同時に胸が騒つくような考えが頭をよぎる。急いでケータイを手に取り電源を押す。つかない。充電が切れている。

 体から血の気が引いていくのを感じる。額にかいた冷や汗を拭い、祈る思いで今度はリモコンでテレビをつける。私が見たのは画面の左上に表示されているデジタル時計だ。

 時刻は8時50分 出社時間の10分前。寝坊だ。どんなに急いでも間に合わない。遅刻確定だ。

 絶望を感じながらもその一瞬、私の頭の中で様々な思考が飛び交った。

 今から会社に電話して仮病を使うか? いや、そんなことまかり通るわけない。10分前に連絡など仮病だってバレバレだ。だったら本当に怪我をして病院に運ばれるか?どうやって怪我をする? 自分で骨を折るような覚悟はない。車道に飛び出す?  普通に怖いし、人に迷惑かけてどうする!もしかして時計を1時間見間違えたりとか……していない。身体がいつもより軽かったのはいつもより寝ていたからか。大学の時なら自主休講してただろうけど、会社にはそんなに甘くない。タクシーなら間に合うか? 無理だ、どんな方法であっても間に合うことはない。

 何をしても遅刻は確定。その現実がゆっくりと精神を蝕む。頭を抱え、髪を掻き毟った。

 なぜ、こんなことに……。ケータイのアラームなら間違いなくセットしたはずなのに。どうして充電が切れているんだ! どうして、どうして……

 アラームが鳴っていれば、絶対起きれていた! 私は悪くない、不運だ。不運にもケータイの充電なかったことが、悪いんだ!遅刻なんて不出来な人間がするものだと考えていた。それなのに私が遅刻だなんて。遅刻だなんて絶対にしたくなかった!

 身体が痛い。全身に電撃が流れているような感覚。目の前は眩い光に包まれ、耳元ではバチバチと爆裂音がなる。

 絶望のあまりおかしくなってしまったか?今度は身体が浮遊感に包まれる。そしてほとんど同時に地面に叩きつけられたかのような衝撃を感じた。

 いや、叩きつけられたかのようなではなく、本当に叩きつけられたのだ。

 それも地面ではなく会社のデスクに。

 わけがわからなかった。さっきまで間違いなく自分の部屋にいた。なのに今は会社のオフィスだ。本当におかしくなったか?周りをもう一度よく見てみると私と同じように同僚たちも困惑していた。まるでありえないことが起こったかのように。

 私は寝起きで回らない頭を必死に働かせ、1つの結論を導き出した。これはワープだ! 自宅から職場にワープしたんだ!

 遅刻という現実を受け止めきれず、絶望した私は、この絶望から逃れるために進化を遂げたのだ。空間を転移することが出来るワープ能力に。

 やった、やったぞ!遅刻じゃない。まだ遅刻じゃないんだ。あと5分以上はある。定時出社出来るぞ!

 絶望の淵に立たされたことによって進化を遂げたんだ。そして、私は勝ったんだ!遅刻という絶望に!

 まて、まだ終わりじゃない。タイムカードを切るまでが出社だ。大丈夫、焦らなくていい。

 まだ時間はある。私は高まる気持ちを抑え、立ち上がり歩き出す。

 こんなに定時出社出来ることが嬉しいだなんて。私はタイムカードレコーダーの前に立つ。

 時間は8時57分。乱れた髪を直し、襟やネクタイを整え、スーツのシワを伸ばす。持ってきたカバンの中から職員カードを出す。

 これをタイムカードレコーダーにかざせば出社だ。

 その時、


  「 prrrrrrrr! prrrrrrrr!」


 突然、ケータイの着信のような音がなった。


  「おい、今どこにいる!」


 それは上司の声だった。


 「すみません、今起きました……」


 私はベッドの上でようやく目を覚ました。

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