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ZOIDS ラプトールと僕とタミヤ先輩

サザエさん時空


「さて、プラモデルでも作りましょうか」


 随分と久しぶりに、そんな一言を聞いた気がした。

 もちろん前回プラモデルを作ってから大して時間は過ぎていないはずなのだけど、実に半年以上ぶりの一言だなと思ってしまった。


「どうしたの、ぼうっとして」

「いえ。随分と久しぶりに先輩の声を聴いた気がして。それで、今日は何を作るんですか?」

「それは、これよ」


 タミヤ先輩はそう言うと手のひらに乗る程度の小さな箱を取り出した。

 さいきんのガンプラ、そのHGの箱と比べれば半分以下の大きさだろう。


「これを従来のプラモデルと比べると、何というか別物の気もするのだけど。プラスチック製の組み立て玩具であればプラモデルといっても良いでしょう」

「……あ、これって。ゾイドですね」

「ええ。一年ほど前からやっているアニメ、ゾイドワイルドに登場するラプトールというプラモデルよ」


 タカラトミー。プラモデルの製造のイメージはそこまでないものの日本有数のおもちゃ会社だ。

 その中でも『ZOIDS』というブランドは一大ブームを起こした事もあり知名度は高い。

 ゼンマイや電池を使用したモーターを内蔵したゾイドは自分が組み立てたものが『実際に動く』という画期的なものだ。

 そういえば、古いおもちゃ屋でじっさいに遊んだことがあった気がする。


「あら。その様子だと知っているみたいね」


 タミヤ先輩はどこからかもう一つ『ラプトール』の箱を取り出し机の上に置いた。

 どうやらいつもの収集癖が出たらしい。


「ゾイドって、ミニ四駆やベイブレードみたいに今や親も子も知っているおもちゃですから。なんなら僕の父の方が詳しいかも知れません」

「ふふ。確かにそうかもしれないわね」


 タミヤ先輩はそう言いながら、僕に箱をあける事を促す。

 とりあえず、デザインナイフを持ち出して箱に付けられたセロハンテープを切る。

 ラプトールはヴェロキラプトルという恐竜をモチーフにしたゾイド、つまりは金属生命体らしい。


「……あれ。パイロットってこんなに大きかったでしたっけ」


 パッケージに描かれたパイロットは、ラプトールの首元に跨っている。

 僕の記憶にあるゾイドといえば、もっと縮尺が……。


「ゾイドワイルドになってその辺りは変更されたようね。そのラプトールの全長は5.9メートル。比較対象として、そうね。思い浮かべやすいのはシールドライガーあたりかしら」


 シールドライガー。

 ゾイドシリーズにおけるアイコン的な機体だ。頭部にコクピットのある青いライオン。


「シールドライガーの全長は21.6メートル。中型と小型という違いはあるにしても、違いは明らかね」

「こっちは命の危険がありそうなポジションですね」

「前のシリーズにも懲罰席なんて呼ばれるモノがあったけれど。より身近な大きさになったとも言えるわね」


 そんな会話をしながら箱から中身を取り出す。

 すると。


「ランナーが無い」


 ある意味、プラモデルの象徴とも言えるランナーが無かった。

 そして、パーツだけが入った袋が顔を覗かせる。


「遂にニッパー不要の時代になったのよ。感慨深いわね」


 タミヤ先輩は袋から取り出したパーツをカッティングマットの上に並べていく。

 色は二色。赤とガンメタルだ。

 そして、ゾイド特有の駆動用パーツ。どうやらラプトールはゼンマイ駆動らしい。


「私はすでに一機作っているから説明書も必要ないけれど。少し面白いわよ。この組み立て説明書」


 分厚い二枚の紙。

 その片方には『復元の書』と書かれている。


「その復元書に実物大のパーツが印刷されているのだけど。まずは、そこに袋から取り出したパーツを乗せていくのが正しい作法なのだと思うわ」

「思うわ?」

「正直なところ、私は組み立て終わった後に説明書を見たわ」


 なんとも製作者冥利を無下にする女子高生だ。

 とはいえ、パッと見た所のパーツ数は少なく、プラモ作りに慣れたタミヤ先輩がそうしてしまうのもしょうがないかも知れない。

 僕はとりあえずその『作法』とやらに従いパーツを並べていく。

 なるほど。このゾイドは『発掘』という行程をもって作られた設定らしい。それを思うと中々に楽しい製作過程かもしれない。

 何より、ランナーからパーツを切り離して二度切りして……。といった当たり前から解放されたのはなんとも新鮮な気分だ。


「ユーザーフレンドリーよね」

「とかいって、不満そうな顔してますね」

「どちらかと言えば物足りない。といった所かしら。でも、それでもこの素晴らしさは認めざるを得ないわね。多少パーティングラインを削りたくはなるけれど。あるいみプラモの理想形ね。誰もが同じ形を作れるのだから」


 と、言っている間にタミヤ先輩はラプトールを完成させていた。


「はやっ」

「私、これなら目を瞑っていても作れる自信があるわ」


 タミヤ先輩はラプトールのゼンマイを回し、歩かせ始めた。ゼンマイの可動音とひょこひょこと歩くラプトールはなんとも微笑ましい。

 心なしか、ソレを眺めるタミヤ先輩も微笑ましいほどだ。

 とりあえず。こちらも作るとしよう。


「ああ、これ。骨格と外装に分かれてるんですね」

「ガンプラのMG。ゾイドで例えればライガーゼロやバーサークフューラーみたいな感じね。もっともコトブキヤのHMMシリーズのゾイドだとこんな気軽に作れないのだけど」

「コトブキヤも出してるんですね」

「一回生産中止になったのだけど、最近また再生産と新シリーズの製作が決まったくらいには人気ね。圧倒的なデティールと暴力的なまでのパーツ数。つまりはいつものコトブキヤよ」


 褒めているのか良く分からないものの、他社から出るほどにゾイドシリーズは人気という事だろう。


「骨格はこれでよし。あとは赤い外装パーツか」


 僕はそこで一端固まる。 


「頭のところ見て、何て思った?」


 どうやらタミヤ先輩はその理由をお見通しらしい。


「合わせ目消ししたいなぁと」


 これもタミヤ先輩の教育の賜物だろう。

 後ハメ加工さえすれば、出来るだろうな。などと思ってしまっている自分がいる。


「その気持ち、よく分かるわ。でも実際パーツをつけてみると殆ど隙間も無くて高いパーツ精度をうかがわせるの。まあ、私は最初に作った時から合わせ目消しまでしたけれど」


 どこか得意げなタミヤ先輩を無視してパーツを取りつければ、確かにほとんど隙間が目立たない。

 というか、気にならない。

 そして背中の法にもパーツを取りつけて。完成。

 時間にして十分かからないくらいだ。タミヤ先輩なんて一分程度て作っていたし。


「……よくできてるなぁ、これ」


 きっと。

 プラモデルを作る気満々だと肩透かしを感じる程なのだが、それでも。このラプトールの立体物としてのクオリティは高いものだった。

 背中の方の武装を動かすとラプトールの口が開くギミックはなんとも『自然』な動作で動かしていて楽しい。オヤジも子供も夢中になる訳だ。


「でしょ。何体も欲しくなるでしょう」

「はい。三体は欲しい……。ってこれもしかして」

「そうよ。それ、私のだから。流石に三体一人で作るのも気が引けたからバンダイくんに一つ渡したけど、それ、私のだから」

「…………」


 そのうちリックドムを12機作るとか言い出しそうだな。


「別に良いですけど。にしても、いいですね。これ。少し墨入れして部分塗装すれば見栄えも良くなりそうですし。僕も買おうかな」

「でしょう。小型ゾイドって、何個も集めたく魅力があるのよね。ジムと一緒」

「ま、気持ちはわかります。ほら、ジュラシックパークでもラプトル種って群れて行動するじゃないですか。ああいうの見ると、複数体いる方が自然って感じがするんですよね」

「沼ね。しかもこの作りやすさが躊躇いを捨てさせるのよ。気持ち的にはフィンファンネル作るよりラプトール十機作る方が楽しく出来ると思うわ」

「……わかるなぁ」


 プラモで同じパーツを作る工程は、人にもよるだろうけれど面倒なのだ。

 その点、このゾイドワイルドシリーズは素晴らしい。プラモの楽しいところだけを詰め込んだ感じだ。


「あ、ちなみに。接着したり塗装したりするときには注意が必要よ」


 ラプトールを手でもてあそびながら、タミヤ先輩が箱を見つめる。


「これ、プラスチックがABSなの」

「ABSって。エナメルに弱いやつでしたっけ」

「そう。この辺り、ランナーが無い事が災いして試しに接着したり塗装したりってのがしにくいのよね」


 なるほど。素材か。

 ABSにはABS用の接着剤はあるけれど、瞬間接着剤をつかうのも良いかも知れない。


「どの程度エナメルに弱いのかは実験してみないと確かな事は言えないけど、部分塗装するにはアクリル塗料だったり、トップコートを吹いてから塗るのが良さそうよ」


 エナメルはふき取りが楽な反面、パーツが割れる可能性がある。

 墨入れ程度ならガンダムマーカーが丁度良いのかもしれないな。


「そして。足の肉抜き穴や、設定画と微妙に違う背中のパーツ。腕と一体化している腹部……」


 タミヤ先輩はそんな文句を言いながらも楽しげにラプトールを見つめている。

 

「いくら簡単に作れるとはいっても、突き詰めていけばやはりプラモデルなのよね。存分に改修する余地があるわ。ね、バンダイくん」

「そうですね、先輩」


 僕の返答に、先輩は笑みを浮かべる。


 未だに陽が暮れる気配は無い。

 小さなノコギリを取り出した先輩を視界の端に、ラプトールのゼンマイを巻く。

 ひょこひょこと動き出すラプトールを見つめながら、ふとジオラマでも作ろうかと考えた。

 もし僕達の作ったゾイドが無数に並ぶ光景があるとするならば、それはきっと楽しいに違いない。

 きっと、目の前の先輩も喜ぶだろう。


 そんな事を思う放課後だった。


 


                          ラプトール編、完。

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