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メカトロウィーゴと僕とタミヤ先輩 前編

メカトロウィーゴ、良いキットでした。

これはまた買ってしまいそうです。


「さて、プラモデルを作りましょうか」


 放課後の部室の中でタミヤ先輩の軽やかな声が響く。

 この模型部には他にもハセガワ先輩やコトブキヤ先輩、同級生のアオシマさんがいるのだけれど、どうやら今日は来ないらしい。


「それで、今日は何を作るんですか?」


 タミヤ先輩は僕の質問に満足げに頷くと、足元から二つの箱を取り出した。

 パッと見た所、カラーバリエーションが違うだけで同じモノに見える。


「今日は、ハセガワから発売されている『メカトロウィーゴ』を作ります」


 机の上に置かれた箱のパッケージには楕円形のロボットが描かれているものの、何というか。


「すっごく、庶民的な感じですね。ああ、もちろん良い意味で。僕、けっこう好きな絵柄です。というかどこかで見た覚えがある気が……」

「あらゐけいいち先生のイラストだからね。ほら、日常ってマンガがあるでしょう?」


 僕はその一言で既視感の正体がわかった。


「あ、なるほど。そう言われたらどうして分からなかったんだって感じです」

「ふふっ、プラモデルのパッケージでこういうのは珍しいものね。けれど、この何とも可愛らしいイラストが模型売り場に置かれていると目を引くわ。私もつい部費を使いこんで二人分買ってしまったもの」

「使い込むって……」


 というか、この部活。部費なんてあったんだ。

 と、いうのは置いておいて。


 ノスタルジックな雰囲気に馴染むロボット『メカトロウィーゴ』

 これは、何だか興味が出て来たぞ。

 僕に渡されたメカトロウィーゴは水色、タミヤ先輩のはオレンジ色。これはジムやザクと同じで何種類も揃えたくなる魔性の魅力を持つプラモデルなのかもしれない。


「これ、タミヤ先輩は作った事ないんですか?」

「もちろんあるわ。けれど、お店で見かけたらつい欲しくなってしまったの」


 やはり、複数体ほしくなるキットらしい。


「それじゃあ早速開けましょうか」


 タミヤ先輩の指示に従いジム寒冷地仕様と比べると大きめの箱を開く。


「おお、プラスチックの色が綺麗ですね」

「そうね、色分けでいうならほぼ完ぺきと言っても良いと思うわ」


 僕とタミヤ先輩はランナーをみながら机の上に並べていく。


「ガンプラ以外のプラモデルってなんだか敷居が高いイメージがありましたけど、なんだかこれはイケそうな気がします」

「ふふっ、最初から上手く作ろうと思わなければ大抵のプラモデルは楽しく作れるのよ」

「……なるほど」

「そのうち、戦車や戦闘機、戦艦といったものにも手を出していきましょう」


 部室の棚からニッパー等の道具を机の上に置き、僕とタミヤ先輩は説明書に向き合う。


「今日は最初から合わせ目消しを意識してやっていきましょうか」

「わかりました。……最初は腕パーツですね」


 説明書の完成図を見て、どういう風に合わせ目が見えるのか想像する。


「手首のところのアームを接着してしまわないようにすれば、あとは特に気にしなくて良いと思うわよ」

「あー、ここ、稼働するんですね」

「UFOキャッチャーのアームみたいな感じね」


 タミヤ先輩はパチパチとニッパーでゲートを切り離し、パーツを並べていく。

 どうやら作りなれているらしく、けっこうな数のパーツが綺麗に置かれている。


「左右対称のロボットとかだと、こうやって作るのが案外楽だったりするのよ。右腕、左腕とか部位ごとに切り離したパーツを分けておけば使うパーツを間違う事も無いし」


 タミヤ先輩の手元をよく見れば、確かに先輩の言う通り部位ごとにパーツが置かれている。

 僕も真似してみようと思い、先にパーツを切り分けていく。パーツの数にもよるだろうけれど、パーツを切り分ける、ゲートの処理をする、パーツを組み合わせる。といった工程をスムーズにこなすには確かにこの方法が良さそうな気がする。


「むにょッと、させるっと」

「ふふっ、別に口に出さなくてもいいのよ」

「…………」


 接着剤でパーツをくっつける僕の独り言に、タミヤ先輩が笑う。若干気恥ずかしかったものの、変に恥ずかしがるとタミヤ先輩がからかってくると思い僕は話題を逸らすことにした。


「ところで、こういう接着したパーツが乾く前に、次の工程で接着したパーツを使う場合って先輩はどうしてます?」

「うーん、一番良いのは乾くまで置いておく事だと思うのだけど。私、とりあえず形にしたいタイプだから接着剤の表面が乾いた段階で、とりあえず仮組しちゃうわ」

「なるほど」

「それで、完全に乾いたら合わせ目消しをして表面を処理するって言うのが私のやり方かしら」


 タミヤ先輩は端正な顔に真剣な表情を浮かべ、デザインナイフでゲート処理をしていく。


「ところでバンダイくん。どうして私がこのキットを選んだか、そろそろ分かったかしら」

「え? 見た目が良いからじゃないんですか?」

「半分正解とはいえるけど、ほら、パーツの殆どに共通している事があるでしょう?」


 僕は作業を中断して、組み上げたパーツと、説明書を交互に眺めた。


「……曲面が多いですね」


 そう言うと、タミヤ先輩は得意げな表情でふふんと笑った。


「そう言う事。まあ、詳しくは合わせ目を消す時に説明しましょうか」

「わかりました」


 僕は頷きながら、丁寧にゲート処理を施していく。両手足を組み上げ、同体の製作に突入すると、急にテンションが上がってくる。

 やはりキットのメインともいえる場所を作り始めるとワクワクしてくるのだ。

 特にこのメカトロウィーゴは同体を作れば両手両足を取り付ける事ができ、加速度的に完成に近づくイメージは爽快感すらある。


「さて、楽しくなってきたところだけれど、ここで本日最大のイベントがあります」


 どうやら僕と同じ楽しみ方をしていたらしいタミヤ先輩が二つのパーツを手に取った。


「そ、それはもしかして」

「足に取り付ける装甲。ええ、そうよ、非常に目立つ場所かつ盛大に合わせ目が見える部分なの!」

「……好きだなぁ、合わせ目消し」


 楽しそうなタミヤ先輩を半笑で見つめたあと、僕も同じパーツを手に取る。確かに、ここは重要なパーツかもしれない。直線的な足が、この装甲をつける事によって丸みを帯び、一気に可愛らしくなる。


「むにょむにょっと……あ。つい言ってしまったわ」

「やっぱり言っちゃうんですよ」


 ほんの少し照れた様子のタミヤ先輩は案外可愛らしい。


 その後、特に苦戦する事も無く僕はメカトロウィーゴを組み上げていく。同体の部分を組み立て始めると、大きなパーツが多く、みるみる内にロボットとして成立していく。


「このシンプルなコクピットがたまらないわよね。私、メカトロウィーゴを見るたびにこういうロボットが現実にあればいいのにと思うわ」


 タミヤ先輩は僕よりも早く仮組を終えたらしく、丸みを帯びたメカトロボットを指でつつく。


「あ、ここのコクピットのG2のパーツ、レバーみたいなところは接着した方が良さそうですね」

「そうね、そこはその方が良いと思う。ガンプラであればこういう部分は無いでしょうけど、なんならガンプラ以外のプラモデルには良くある事だから、慣れておくと良いかもね」

「そうなんですか?」


 コクピットにレバーを接着すると、僕はタミヤ先輩を見つめた。


「ええ、そうなの。まあ、そこが作るうえで難しい面でもあり楽しい所でもあるのよ」

「へぇ。まあ、こうして接着材使うとプラモ作ってるなー、と思いますけど」


 そう言いながら、僕はメカトロウィーゴを構成する上で重要な正面のパーツを組み上げる。


「お、おお。この正面のみずいろのパーツをつけると、一気に完成した感じがありますね!」


 僕の目の前には、丸みを帯びた可愛らしいロボットが出来上がった。メカトロボットのメカトロウィーゴ。


「たしかに、これは……。確かに、現実にあったら良いなぁっておもうデザインですね」

「でしょう?」


 僕は自分が作ったメカトロウィーゴを持ち上げ、360度見回した。コクピットの開閉の仕組みが何とも『現実的』で面白い。


「おっと、パイロットの少年を作り忘れているわよ」

「あ、そうでした。これって、どうすれば良いんですか?」

 

 他のパーツとは違い、完全に接着剤を使う事を前提とされている。これは、そのままつけてしまっていいのだろうか。


「タミヤの戦車には良く付いているタイプね。紙ヤスリで接着面をならして良い感じにパーツ同士がくっ付きそうになったら接着してみると良いわよ」

「は、はい」

「ただ、腕はある程度気を付けてくっつけてみてね」


 タミヤ先輩はそう言うとコクピットを開いて僕に見せた。


「ああ、この腕の形、レバーを握るような感じで出来てるんですね」

「そう言う事。腕の部分にはガイドとしての凸凹があるから、それに気を付けてやると良いわ」

「……よし」


 ぎゅっと、接着面に力を加えて隙間なくパーツがくっつくようにする。


「……うん。良い感じね」

「ふう」


 これで、説明書の全ての工程を終えた。


「さて、それじゃあ今日はここまでにしましょうか。続きは接着剤が乾いてからね」


 タミヤ先輩は立ち上がると、うーんと体を伸ばした。

 窓の外を見ると、すっかり日が暮れていた。そろそろ最終下校時間だ。


「ふふっ、ならんでいると可愛いわ」


 タミヤ先輩は二つのメカトロウィーゴを部室の棚に並べた。

 

 ああ、次の部活が待ち遠しい。

 僕は先輩を見て、若しくはメカトロウィーゴを見てそんな事を思った。





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