終幕
『その後どうなったかって?そうだねぇ…結果から言えば彼女は負けたし、私も負けた。結局の所あれは意思のぶつかりあいでどちらかが根負けするかが勝負だったんだ』
彼女は不老不死。
どんな理由、理不尽、能力、神様であろうと彼女を死なす事は出来ない。
これはもうあれだ。
もはや呪いの一種だな。
『つまり、私がいくら彼女…妹紅を殺しても妹紅が諦めない限り私に勝ち目はないって訳だ』
『…え?そしたら妹紅が勝つのは当たり前じゃないかって?そうだなぁ…口で言うのは簡単だが実際やるとしたらかなりヤバイぞ?』
死なないとはいえ痛みはある。
死ぬ間際に訪れる死への恐怖、痛み。
それが何回も繰り返されてみろ…精神がぶっ壊れちまう。
常人なら1回目の死で恐怖を覚える。
慣れたやつでも…まぁ二、三回が限度ってとこか。
けど妹紅は…30回以上死んで、それでもなお私に食らいついてきた。
『あそこまでいくと逆に尊敬するなぁ…見ろよ、私の右腕が丸々火傷してやがる。多分私がつけられた傷の中で一番の傷跡だなこりゃ。私が負けるなんてこれも含めて三度目だ』
1回目は親友に負けて。
2回目は得体の知れない化け物に負けて。
3回目は藤原妹紅に負けて。
『悔しくないと言ったら嘘になるけどな。それでも私は満足だ。もう満足だろ?アイツはきっと彼女を守ってくれるさ…。だからこの異変はもう終了だ。さぁ帰ろう紫』
瞼が重い。
意識が朦朧とする。
私は…守れたのか…?
頭に何か柔らかい感触がある事に気付いた。
『う…け、いね…?』
私は疲弊しきっていてもう体はピクリとも動かせない。
それでも瞼を頑張って持ち上げると慧音の顔が目の前にあった。
どうやら慧音に膝枕されているらしい。
『まったく…お前は馬鹿だよ…』
『ハハ…違いないや…もう疲れて体が動きやしねぇや…』
暖かい雫が私の顔に落ちた。
ポロポロとどんどん雫は落ちてくる。
『本当に…お前は…ぐす、なんで私の…ためなんかに…』
『分かるからだよ…。私はこの身体になってからは人に怪しまれ迫害された…300年間だ…。だから分かる…。怖かったろう…自分の居場所が徐々に無くなっていく感覚が…自分はどちらに行けば良いのか分からず立ち止まり苦しかったろう…』
『結局私はどちらにもつけず…私は…私は…』
私は震える手で慧音の変色した緑色の髪を撫でる。
『なぁ慧音…どちらにつく必要もないさ…お前は両方に居場所があるだろ…それをどちら選択する必要なんてないさ…。』
ああ、瞼が重い…。
けどこれだけは伝えなきゃ…。
『私と一緒に…居てくれないか…?居場所がないなら私が居場所になる…だから…もう苦しむ…』
意識が遠のく。
もう何も考えられない。
そうして私は深い眠りについた。
『居場所か…』
慧音はポツリと呟く。
『本当にお前は…!』
慧音は涙を流しながら言った。
『ありがとう…!うん…。私も妹紅と一緒に居たいよ…!』
-後日談-
『な?上手くいったろ?』
『ええ、そうね…あの二人ならもう安心かしらね…』
『にしても、藤原妹紅か…アイツは強かったよ。私は彼女を尊敬するよ』
『…だからその右腕の火傷の跡も消さないの?』
『別に彼女だからという理由でもないさ。私が今まで受けた傷全ては私という存在の証明だ』
『ふーん…まぁ良いわ。あなたが良いと言うなら良いんでしょう』
『では、この異変は』
『ええ、これにて終幕よ』
ようやく妹紅編完結です!
思ったよりも色々と長くしてしまった…。