衝突
一瞬だった。
私の炎を纏った拳と博麗の拳が激突した瞬間、私の腕ごと博麗の拳の威力で弾け飛んだ。
『ぐ…!』
『人間だからって甘く見てると…死ぬわよ』
私は残った左手を博麗に向ける。
博麗は追撃しようと距離を詰めてくる。
その瞬間を狙った。
『この距離ならどうだ!!』
『!!』
左手から巨大な爆発が起きる。
その威力は目の前の竹林を蹂躙し地面がめくれ目の前が膨大な熱のせいで歪んで見える。
私は再生した右腕に炎を纏わせながら警戒する。
(博麗の巫女だからな…今のでやられたっていうのは流石にないだろ…)
そう思案していた時まだ熱で歪んでいる爆発の中心地から声が聞こえてきた。
『いやぁ危ない危ない私じゃなきゃ死んでいたぞ』
『嘘…だろ?』
確かに攻撃を当てた感覚はあった。
なのに。
目の前の博麗は傷一つついてない
『はっはっは!実に久しぶりだ!』
『…何がだ』
『そう邪険に扱うなって、私もさっきは熱くなって殺すとか言っちゃったけどさ』
なんだこいつはと思ってしまった。
さっきまでの剣呑とした雰囲気が嘘みたいに消えている。
『うん、気に入った』
『はぁ?』
博麗は一人で頷くと吹き飛ばされて気絶している慧音の元に歩み寄る。
『お、おい!慧音に近づくな!』
『まぁ待てって』
博麗は手を握っては緩めて握っては緩めてを繰り返している。
何をしているんだ、と言いかけたその時。
空間が千切れた。
何もないところに突然穴が空いたような黒い何かが出来ている。
それに博麗は片手で掴む仕草をすると空間がバキバキと音を立てて裂ける。
『これって…あの女と同じ能力…』
『残念ながらあいつとはまた別の能力で開けているんだよ』
そう言いながら博麗は慧音を片手で掴むとその空間に放り投げてしまった。
『お、おい!てめぇ!』
『紫、その子を預かっておけ』
『!?』
博麗の発した言葉の意味を理解するのに随分時間を使った気がする。
実際には数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。
しかし問題はそこではない。
『紫だと…?あの女が関わってるのか…!』
『私は紫に教えられて来ただけなんだけども…どうにも話が違うみたいだな』
『どういう意味だ?』
『本来なら見逃したいところなんだが…私は博麗の巫女としての使命で動いているからな仕事に私情は挟まない』
『…』
博麗は空いた空間の両端を掴むと無理やり閉じさせた。
まるでゴムを引っ張ってくっつけたかのような光景だ。
そして。
『もしお前が私を倒せたら今回の事は不問にしてやろう。そしてもしも私がお前を倒したらあの小娘を消す』
消す、という言葉を博麗が言うととても重みがあり同時に今、私に慧音の死がかかっているという事を実感させる。
『ああ、分かった…』
『契約成立だ。安心しなさい約束は死んでも裏切らないのが私の信条だ』
さっきまでだったら慧音を護るために火加減や周りの影響を考えながら戦わないといけなかったが今は違う。
博麗は私と真剣勝負の一対一を望んでいる。
しかも希望の道を作ってくれた。
その希望の道はか細い光かもしれない。
それでも私は、慧音を護るために戦う…いや闘うことを決めた。
その意味を私は考えてからクスッと心で笑った。
(まさか私が文字通り命をかけてまで誰かの為に尽くすなんてな…考えもしなかった。)
けど。
『それじゃあ始めるわよ。気分はどうかしら?』
『ああ、とっても気持ちが良いよ』
そして二度目の衝突の火蓋は切って落とされた