無縁塚にて
『来たぞ』
『よし、じゃあ行くか』
私は適当に返事を返すとある場所に案内するために歩き出す。
(…そういえばこの竹林から出るのもいつぶりだろうな)
結局昨日考えていたがこの女のために動く理由が分からない。
だから今からあんな場所にこいつを連れて行く必要だってないはずだ。
(私は何についてこんなにも考えを…いや…)
『おーい?聞いてるか?』
突然慧音が目の前に立って私の顔を覗き込んでいる。
驚いて思わず半歩下がってしまった。
『な、なんだよ』
『さっきからどこに行くのか聞いてるのにお前がボーッとして人の話を聞かないからだろう』
『…ああ、もう話してもいいか』
私は慧音に行き先の場所を告げる。
『無縁塚って場所だ』
『無縁塚?』
『簡単にいうと外から物が流れてきたりする場所だな』
『へー…そんな場所があったのか』
『普段は誰も近づかないけどな』
『なんでだ?危険な場所なのか?』
『かなりな』
あれこれ話しながら歩いてると水滴が頬を撫でた。
そしてパラパラと小雨が降ってきた。
『降ってきたな』
『そうだな少し急ぐか』
雨の勢いが強くなってきて少し急ぎ足になりながら歩いて数分、目的地に着いた。
『ここだ』
『…ここが無縁塚…』
周りは木で囲まれており、一面緑の草原に色んなガラクタが散らばっている。
目を引くものは他にもあり紫色の桜や彼岸花が咲き誇っている。
『スゴイ場所…だな…』
『見せたいのはこんな景色じゃないさ』
『え…?』
『ちょうど出てきたな、あれを見てみろよ』
私はとある場所に指を指す。
慧音は指した方向にゆっくりと顔を向ける。
『…人?』
そこには見慣れない男がいつの間にか立っていた。
本当にいつの間にかである。
慧音はさっきまで景色を見ていたといえ周りの景色を見ていた時には人影はなかったはずだ。
『いつの間に…』
『今から息を潜めてあの男をよく見てろよ?絶対に声を出したり物音を立てるな』
『あ、ああ』
2人でひっそりとその男の動向を見ている。
『くそ!ここはどこなんだ!?』
男はわめき散らしながらポケットに手を突っ込み不思議な機械を取り出した。
その不思議な機械をいじっていたが男の顔が晴れることはない。
『ああ!?圏外だと!?どうなってんだ畜生…』
男がイライラして周りをキョロキョロしてる所に近づく影を慧音は見た。
(妖怪…?マズイ!このままだとあの男が喰われてしまう!)
慧音はとっさに男を助けに行こうとしたが私はその行動を止めた。
『!?』
私は首を振りそれは駄目だと意思を慧音に伝える。
『う、うわぁぁぁぁぁ!?な、なんだお前!?』
声の方向に2人共顔を向けるとそこには男が妖怪に見つかって男が腰を抜かしていた。
『人間…人間がいるぞ…』
『く、くそ!こっちにくるな!!がっ!?』
妖怪は男の首を掴むと肩の肉をを噛みちぎった。
『あ、ああぁああぁぁあ!?』
男の悲鳴は雨の音をかき消して響き渡る。
ぐちゅりと音が聞こえる。
『がぁぁああぁあ!?』
音がする度に男の悲鳴が聞こえる。
やがて音がしても男の悲鳴は聞こえなくなった。
私と慧音はその光景を見ていた。
満足したのかぐちゃぐちゃの死体を放り投げるとどこかに去っていった。
『…何故止めたんだ』
『そうしたら面倒な事になったからな』
『だからってあの男を見殺しにするっていうのか!?』
『気づかなかったのか?妖怪があいつだけだとでも?』
『え…?』
私は溜息をつくと問いかける。
『いつまで覗き見してるつもりだ?』
『あら、よく分かったわね』
何もないところから声が返ってきた。
そして空間が割れた。
比喩表現ではなく実際に空間が割れている。
声の主は金色の髪をなびかせ割れた空間からゆっくりと出てくる。
『趣味が悪いな』
『お、おいこの女性は誰なんだ?』
いつのまにか慧音は私の服を掴み背中に隠れている。
『あらあら、人と一緒にいるなんて珍しいわね藤原妹紅さん?』
『黙れお前に名前を呼ばれる筋合いはない』
『あらつれないわね』
『御託はいい、なんの用だ?』
目の前で不敵に笑ってる女は目を細めると冷めた口調で問いかけてくる。
『どうゆうつもりかしら?』
『あ?』
『こんな小娘を連れ回してあまつさえあんな光景を見せつけてなんのつもりかしら?』
『…』
『返答しだいでは…私も行動をせざるをえない状況になるわけだけど』
目の前の女の言葉の一つ一つには重みがあり圧があった。
『…さあ答えてもらうわよ』