秩序
『またお前か…』
かれこれ二、三ヶ月はずっと慧音とかいう女が私に会いにきている。
『相変わらずつれないなぁ』
『なんで私にまとわりつくんだ』
イライラした調子で慧音に問いかける
『別にいいじゃないか』
『というかもう恩返しとかさせたろ』
『…迷惑か?』
『私は人との関わり合いが苦手でね迷惑といえば迷惑だ』
『なぁなんでそんなに人間を毛嫌いするんだ。お前が思ってるより人間はいい奴ばかりだぞ?』
真剣な顔で問いかけてきたので言うか迷ったが少し間を置くと重苦しく言葉を吐き出す。
『人間は変化しないもの、自分とは違うものを怖れるんだよ』
そして私の思いを、本音を慧音にぶつける。
『私は私を怖れる者を怖れた。私という異物が排斥者に認識されるのを私は怖れた』
『…』
『私はもう人間じゃないからな、人間は人間と寄り添うべきだがそれ以外とは干渉するべきじゃない』
『けどそれは…』
『お前にだから言っておくがこれ以上私と関わるな、最後に後悔するのはお前だぞ』
『…けど私はそんなお前を見捨てる事なんて出来ない』
『見捨てろ』
バッサリと言い切る。
『お前は人里で暮らしてるんだろ、私と関わってる事が知れたら只事じゃすまないぞ』
『けど!』
慧音は大声を上げる。
『なんで!人は妖怪達と関わってはいけないんだ!?あいつらだって人と関わりあおうとしている奴だっているんだ!』
『お前…』
『私は認めたくない!大人達が子供に妖怪は悪だと教えて繋がりを断とうと…むぐっ!?』
私はとっさに慧音の口を手で塞いだ。
この先を言わせてはならない。
『それ以上喋るな』
『んぐ!?』
なぜ!?と言いたげな顔をしている慧音に告げる。
『いいか?幻想郷において妖怪は人間の敵だ。これは疑ってはならないルールだ。これを破れば秩序が崩壊するからな』
慧音の口を塞いでた手を私は離す。
『…それは口に出してもダメなのか?』
『それを誰かに聞かれてみろよ、お前の軽はずみな言葉のせいで秩序が崩壊するんだぞ』
『…』
『お前が妖怪の見方をするのは分かった。だが、あいつらの事を本気で考えているならよく考えて喋る事だな』
そう言いながら慧音の顔を見て思わず溜息をついた。
『納得がいかない…って顔だな』
慧音は小さく頷く。
『明日時間があるなら私の所に来いよ面白い場所に連れていってやる。だから今日は帰れ』
『…分かった』
そういうと名残惜しそうに慧音は帰っていった。
『なんで私はあいつを助けるような事をしたんだか…』
私にとって人間は関係ないはずだ。
幻想郷とて例外ではない。
なら何故か?何故あの女の身を案じている私がいる?
『どうしちまったんだろうな…私は』
思わずポツリと口に出してしまった。
空はもう夕暮れで彼女にとって嫌という程見慣れた景色が広がっていた。