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幻想異変録:replay  作者: 凍曇
博麗≒八雲編
31/32

幻想:結

 八雲の姿は影といっても過言ではないほど漆黒に染まっていた。

 微かに赤黒いため体のシルエットはハッキリとしているがそれでも異形だった。

 そのシルエットはどちらかと言えば鬼に近い形だったからだ。


『なんだそりゃ……』

『……』

『お前のそれはっっっ……!!!??』


 魅魔が言葉を続けようとした瞬間、視界が突然暗転したかと思ったら砂漠の砂に体が埋まっていた。


(!!??!??! な、なんだ!?何が起きた!?)

 

 すると微かに八雲らしき声が聞こえた。


『ガンジョウダナ』


 魅魔は腕に魔力を通すと腕を無理矢理挙げる。

 そうすると魅魔を巻き込んで巨大な台風が生まれる。

 魔法で生み出された台風は魅魔ごと砂を吹き飛ばしあわよくば八雲を巻き込めればと思ったがそれは無意味と悟った。

 八雲の叫び声が台風を吹き散らしたからだ。


『うっそだろ……!』

『フゥゥゥゥゥゥ』


 顔と思われるシルエットの口元の部分がパクリと割れる。

 口のように思えたがそもそも割れた口からはドス黒い瘴気しか漏れていない。


『……いや、なるほど……。夢想天生か……』

 

 魅魔はなされるがままに殴られる。

 抵抗は特にしない、出来ない。

 どういう能力なのかは分からないが八雲が夢想天生を発動し私を砂に叩き込んだ瞬間、魅魔の魔力は自信を守るための防護に全て使ってしまった。

 あまりにも圧倒的な攻撃力に魅魔の魔力が一瞬で空になってしまったのだ。


(ま、元々長く戦える体でもなかったしな……。それにしても……そうか、夢想天生は初めて見るが……巫女によって能力が異なるんだな)


 実はもう既に魅魔は夢想天生を発動していたのだ。

 これは魅魔以外知らない事だが、魅魔は常に夢想封印を発動させており、それにより自分自身を現世に封印する事で幽体として顕現出来ていた。

 魅魔が生身を持たないまま生前と変わらず魔力を持ったまま行動出来たのはここにある。


 何より驚くべき点は常に夢想封印を発動し続けているだけの魅魔の霊力の量だろう。

 魅魔は既に100年以上を幽体で過ごしている。

 つまり100年以上も夢想封印を発動し続けているという事だ。

 ここが魅魔の恐るべき点であった。


 並外れた霊力の量、それに加えて魅魔は稀代の大魔法使いでもある。


 これほどの人物は世界で指で数える程度しかいない逸材だったのだ。

 ちなみに魅魔の夢想天生の能力は生身の肉体に転生する事、これが魅魔の持つ夢想天生の能力だった。

 これだけならただ蘇ったように聞こえるが注目するべき点はそこではない。

 

 夢想天生で肉体を転生した場合、人生で消費し続けた霊力が全て肉体に還元してくるという恐るべき能力なのだ。

 元々異常なぐらいの霊力を持っていた魅魔だが、博麗の巫女というのもあり常に霊力を使っていた魅魔の今までの霊力の消費量を考えたらそれこそ恐ろしい消費量である。

 しかも魅魔は夢想封印で常に霊力を異常な速度で消費し続けた。

 そんな彼女が夢想天生を発動させた場合、それはもはや枯渇することの無い永久機関級の霊力が手に入っただろう。


 事実手にした、だがそれでも今魅魔は八雲に敗れ去ろうとしている。

 

(そこまでの霊力を器に抑え込むこと自体が無理な話だよ……。仮に出来たとしても持って1時間程度しか耐えられんだろう。なぁ、気づいているか八雲……)


 魅魔の体から少しずつ命が漏れていく。

 八雲の拳による一発一発が空になった魔力の代わりに神力、霊力でカバーしているがごっそりと削られていく。

 もう底がつくだろう。


(ここまでの力を持っても、所詮……私は人間だったという事さ)


 意識が少しずつ削られていく、闇に落ちていく。

 そんな感覚が魅魔にとってとても心地良かった。

 やっと、終われる。

 そんな安堵した言葉が心を落ち着かせる。


 八雲の攻撃は雲を吹き飛ばし地を割り空気を震わせていた。

 近くにいたら衝撃だけでバラバラになってしまうような恐ろしい攻撃を受け続けている魅魔。


———もう充分だ。


『!?』


 八雲の拳が魅魔の腹を突き破った。


『ご……ガボッ……』


 魅魔の口と腹から大量の血が零れ落ちて砂漠に落ちる。

 砂漠に落ちるとジュッと音がして蒸発する。

 八雲の体は少しずつ燃え盛るような影のシルエットから生身の体は戻っていく。


『何故わざと……』

『ぐっ……すま、な……かった、な』


 八雲が拳を放つ瞬間、魅魔は意図的に神力と霊力での防御を解除したのだ。

 生身の体になった魅魔は八雲の攻撃に耐えられるわけもなく、体はバラバラになる事を避けれたがそれは致命傷でもはや死を避ける事が無理なのは明白だった。

 それなのに、魅魔は八雲に笑いかけていた。

 今までの凶悪な笑みではなく優しく凛とした微笑み、それはあまりにも清々しいぐらいの微笑みだった。


『ほんと、うは……こんなこと、した、くないって……言ったら……わ、らうか?』

『どういう……意味だ……』


 八雲は拳を抜かずに魅魔の言葉に混乱していた。

 今更言い訳か、と思ったがその考えはすぐに否定した。

 八雲は知っているからだ、人の本性は死ぬ間際になって分かると。

 死ぬ間際にこそその人本来の性格が最後に出てくるのだと。


『こんな……私、でも、ここが好きだ、った……。け……ど、止まれな、かったん……だ。にくしみが……う、らみが……私を、つきうごかし、た……』

『……』


 途切れ途切れの言葉は紫の最後を連想させて八雲の心が揺れ動く。


『ほんと……とりかえ、しの、つかな……い、ことを……』


 魅魔はもはや喋る力しか残っておらず、八雲に体を倒し八雲に体を預ける形になってしまう。

 その体は暖かった。

 心臓の鼓動を感じられた。


『ごめん……ごめん……』


 魅魔は弱々しい声で謝罪の言葉を呟く。


『負の、かんじょ……うに、身を、まかせ……れば、私み、たいに、なる……』

『ああ、そうだな』

『おまえは……私……みた、いに、な、る……な……よ……』


 それが魅魔の最後の言葉だった。

 まだ脳は機能しているだろうがすぐに停止するだろう。

 もう魅魔は、彼女は死んだ。


 私は、先の見えない砂漠にただ1人取り残された。


『ああ……』


 そうか、そうだったのか。


『これが、孤独か……魅魔……』


 これが、魅魔を蝕んでいた孤独というものなのか。

 久しく忘れていた。


 せめて、彼女に気を許せる誰かがいたら魅魔はきっとこんな事は起こさなかったのかもしれない。

 けれど、それは無理だったのだろう。

 魅魔が言っていた、博麗の巫女として見られていた彼女は人として誰も認識してくれなかった。

 その原因が紫だという事も今の私には理解出来る。

 どうしてそういう事をしたのかも、私には嫌という程理解していた。


 紫は幻想郷を愛しすぎた為に、博麗の巫女の孤独に、絶望に気づかなかったのだ。

 紫が私に語ったあの辛そうな声が思い出してしまう。


———ある時気付いたのよ。私は彼女達から目を逸らしてるって事に。


『……そうだな。まったく皮肉な話だよな。せっかく紫が、自分から現状を変えようと努力したのに手遅れだった……。幻想郷の行き着く先がこれか……』


 私は拳を魅魔の腹から抜くと魅魔をそっと抱きしめてから、消失させる。






『私はどうすればいいんだ……教えてくれよ、なぁ紫……』


 私の言葉は虚しく乾いた空に吸い込まれていった。

次回、博麗≒八雲編終幕

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