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幻想異変録:replay  作者: 凍曇
博麗≒八雲編
29/32

幻想:承

 体が穿たれる、穴が空く。

 体から血が失われる、肉が削がれていく。


『ゴボッ……』


 それでも立ち上がる。

 今度は紫の能力ではなく、私自身の能力で立ち上がる。

 私は、戦う限り、負けない限り、何度でも立ち上がる。

 そういう能力なのだ。


 私の能力は「理を破壊する程度の能力」だ。

 あくまで命名は紫だ。

 私が名付けたんじゃない。


 こんなふざけた名前だが能力は至ってシンプルだ。

 本来であれば(・・・・・・)ありとあらゆる概念、常識を打ち砕く事が出来る能力だった。

 最初はそういう能力だったのだ。

 だが私はその先を求めた。

 この程度では足りない。

 博麗の巫女としてもっと相応しい能力を。

 博麗の巫女として絶対的な力を。


 そんな願いが、理想が自身の能力でさえも歪めてしまった。

 能力が能力を変える。

 普段であればありえない事例だが彼女の能力があまりにも特殊過ぎた為に可能となった、可能としてしまったのである。


 血を流せば死ぬ、それではダメだ。

 血を流そうとも戦える体が欲しい。


 体が損傷すれば奴らには勝てない、それではダメだ。

 損傷しても再生する体が欲しい。


 様々な"能力"によって起こる異変を鎮めたい。

 元からある能力だ、活用すれば良い。


 傷ついた人を癒したい、呪われた人を救いたい、取り憑かれた人を祓いたい、人を助けたい。

 目に見えぬ現象に干渉する力が欲しい。


 神を、人に天罰を与えようとする悪神を討ちたい。

 神すらも屠る圧倒的な力が欲しい。




 そうした願いの形に能力は変貌してしまう。

 あまりにも規格外の能力、それを彼女は想像を絶する努力により習得する。

 「理を破壊する程度の能力」は変貌した能力の副産物と成り下がった。


 彼女の能力は、人々の理想である「博麗」と彼女自身が望む「博麗」 に到達するためだけの能力となった。


 「博麗の巫女に到達する程度の能力」


 それが彼女の歪んだ真の能力だ。






『……即死レベルの魔法だったはずなんだがな』

『そうだな。確実に死んでいた』

『一筋縄じゃいかない、か……』


 魅魔が杖を振る。

 それだけで光の粒子が杖の先端から溢れ出てきて一つ一つが八雲目掛けて貫こうと殺到する。

 だが、八雲は同じ手は食らわないと言わんばかりに行動で示す。

 

 バヂィ!!


 そんな音が連続して響く。

 なんと八雲は素手で光の粒子を全て弾いたのだ。


『チッ、全部弾き返されるか』

『白鯨……!』


 八雲は足に力を込めて地面を強く踏む。

 ダン!という音が普通ならば聞こえるのだろうが八雲の場合はバゴンッ!!という地面が割れる音だった。

 八雲が力を込めて

 すると、ひび割れた地面から八雲の霊力が放出された。

 

 まるで嵐のように霊力は空気と絡み合い轟々と音を立てている。

 嵐は周りを破壊し尽くし地形を変えていく。


『まだだ……!』


 八雲はそう呟くと拳に力を込める。


『空鳥!』


 正拳突きのようにその場で拳を迷いなく放つ。

 パンッ!!と小気味がよい音を響かせる。


 するとどうだろうか。

 空間がひび割れる、

 のではなく(・・・・・)


 空間が歪み、ありとあらゆるものがその歪みによりねじ切られブラックホールのように吸い込まれて消失していくのである。

 

 もちろん白鯨も例外ではなく吸い込まれていく。

 突如竜巻の中心にブラックホールが出現したかのような錯覚を覚えるほど不思議な光景だった。

 風呂場で栓を抜くとお湯が渦を巻いて吸い込まれるように、竜巻は中心にどんどん吸い込まれていく。


 八雲は竜巻の中心を見ていた。

 普通の者なら白鯨だけでも瀕死まで追い込めるが相手はあの魅魔だ。

 まだ魔法使いの一面しか見ていない八雲の心中は穏やかではなかった。


(……どう切り抜ける。さすがに魔法でどうこう出来るレベルではないだろう)


 そう思っていたのだが。


『……幽幻乱舞』


 声が聞こえてきた。


『……!』


 竜巻の中心から黒い風が吹き荒れる。

 黒い風は無差別に周りを切り刻み始めた。

 鎌鼬のように風は刃となり、邪魔な物は全て切り捨てると言わんばかりに白鯨すらも切り刻み、吹き散らす。

 魅魔の姿が見えてきた。

 流石の魅魔も無傷ではなかったがそれでもかすり傷と呼べる程度のダメージしか負ってないように見えた。


『今のは危なかったな……。体半分が持ってかれてしまったよ』

『五体満足に見えるけどな』

『私は幽体だからな。多少の弊害はあるが霊力さえあれば顕現出来るって訳さ』

『とことん化け物じみてるな』

『私は"魔"そのものだからなぁ?さて、お遊びは終わりだ。魔法使いとしての恐怖をお前に刻みつけようじゃないか』


 魅魔の言葉に八雲は思わず歯ぎしりする。


(あれでお遊びときたか……。結構本気だったんだがな)


 次に八雲は横目で周りを見る。

 何度も技を使ったせいで地形が何度も変化してもはや見る影もなかった。

 魅魔と八雲はこの時知らなかったが、

 きっと遠目から見たら大災害の痕ではないかと思わせてしまうほど幻想郷一帯の地は陥没していた。


『ではその前に下拵えをしようか』

『……?』


 言葉の意味が分からず思わずどういう意味かと思案するよりも前、魅魔は行動に移した。


『陣、発動』


 地面が緑色のような黄色のような色で光り始めた。

 八雲は一瞬魅魔の魔法で地面に何か細工をしたかとと思ったがすぐに認識を改める。


(おいおいおいおい……!)


『マズイ……!』


 八雲はとっさに封魔針を10本魅魔めがけて飛ばす。

 魅魔がそれに気づいて杖を振って対応する、その一瞬に八雲の姿は消えていた。


(消えた!いや違う!尋常じゃない速度で死角に入られたか!!)


 魅魔の予感は的中していた。

 八雲は魅魔の真上に飛んでいたのだ。


(予想通りだ!私の死角は自身で自覚している!いくら姿を消そうと予想できる分にはどうとでも対処できる!)


 そう思っていた。

 だが魅魔は根本的な部分で理解していなかった。

 八雲と名乗ったあの博麗の巫女は紫の能力を利用していた。

 魅魔は紫の能力を知っている数少ない1人だ。

 他の誰よりもよく知っている。

 だからこそ分かったことがある。


 スキマは紫自身の能力ではない。

 

 紫の能力は「境界を操る程度の能力」だ。

 この能力は実に恐ろしい。

 万物万象には境界が存在する。


 それが"存在するか"、"存在しないか"の境界を弄るだけで存在そのものを消滅させてしまうことも出来る。

 まさに神のような能力だった。


 けれどどういう訳か紫はその能力を使うことがほとんどなかった。

 私には不思議ならなかったがこんなものは当人しか分からないだろうと思い、この考えは放棄した。


 さて、話を戻そう。

 どうしてスキマは紫の能力ではないと思ったのか、その理由だが。


 単純な話、スキマは境界とかそういう類の能力ではなかったからだ。

 スキマの中にはまったく別の空間が存在している。

 それは亜空間とも呼んでもよい。

 とにかく誰にも認識されないような世界がそこには存在していたのだ。


 先に言っておく。

 いくら境界を弄ったとこで元から存在しないものを存在させる事は出来ない。

 能力の意味を聞いた時、死んだ人間の"生きてる"、"生きてない"の境界を弄れば死人を蘇る事が可能ではないか?と私は考えた。


 けれどそれは出来ない。

 失った物を取り返す程の素晴らしい能力ではなかったのだ。

 いや、これは紫の能力だけではない。

 能力者が所有する能力は何も万能ではないのだ。


 火を扱える能力があっても目視出来ない所火を発生させる事が出来ないという事例もある。

 死人をゾンビとして使う能力もあるらしいが、それには一度皮膚でも何でもいいから対象に触れる必要があるそうだ。


 つまり、能力にも何かしらの制限と限界があるという事だ。


 その事を踏まえた上で紫の能力を分析するとやはりスキマはどうしても紫の能力ではないと思う。

 スキマはその場から別の場所へ繋ぐワープ的存在として活用されている。

 あくまで亜空間の中を経由して別の場所に移動している事を忘れてはならない。


 その能力と紫の能力が一致していない。

 先に言っておくべきだったかもしれないが紫の能力で瞬間移動とかそういう事は出来ない。

 境界は弄れても法則は弄れない。


 重量ぐらいならもしかして可能かもしれないがそれでもワープとかは普通に出来ない。


 だからこそ私はスキマが紫の能力ではないと踏んでいた。

 だからこそある可能性を頭の中から排除していた。


 八雲がスキマを使えるという可能性を。




『かっ……はっ……』


 魅魔の周りにはスキマが展開されておりそのスキマから大量の手が伸びており魅魔を突き刺していた。


 皮肉にも、魅魔が人々の救いを求めて伸ばした手を掴めずに失踪したのと対比に、人々の手で裁かれている魅魔がそこにはいた。

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