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幻想異変録:replay  作者: 凍曇
博麗≒八雲編
26/32

獣畜生

 失った。

 失った。

 失った失った失った失った失った失った失った失った失った失った失った失った失った失った。

 ……失った。


『—————オオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!』


 彼女は慟哭する。

 叫び、涙を流す。

 ぽっかりと空いた穴をその叫びで埋めるように、現実を願いで覆い隠すように。

 彼女は、ただただ叫び続ける。


 友の死に、愛する者を失った喪失感に、腕に感じる体重に、肌に、頭から離れない声に、彼女は認めたくないと、子供のように泣き叫び、現実から目を背ける。

 

 けれど、彼女は気づく。

 自分を偽って親愛なる友の死を認めようとしない自分に。

 偽っている自分に。

 その事実に彼女はなお苦しむ。


 到底受け入れられない現実に、事実に、景色に、感触に、彼女は慟哭で受け入れようとはしない。

 受け入れられない。


 守るべき場所はもう無い。

 守るべき人達もいなくなった。

 寄り添い続けた友人もいない。

 何もない。

 はずだった。

 けど。


 突如抱きかかえていた友の亡骸が消失した。

 彼女は驚いて亡骸を探す。

 すると目の前に目があった。


 大量の目だ。

 物体ではなく割れ目のようにも見える。

 それは彼女にとって見覚えのあるものだった。

 "スキマ"と友人が名付けていたものであるはずだ。

 そのスキマから声が響いてきた。


『俺は契約を果たすためにお前に従うぜ。そんでもって元契約者、八雲紫からの伝言だ』


 そう言ってきた。

 彼女は放心したままスキマから響く声を聞く。

 雨の音が一時支配する。

 

 その支配を破ったのはスキマから響いてきた声ではなく、友の声だった。


『ごめんなさい。

あなたには辛い思いをさせたわね。

けど博麗の巫女としての役目を最悪の形で終えたあなたはきっと死ぬんでしょうね。

けどね、これだけは言っておくわよ。

生きなさい。

何か役割がないと生きていけないのはもう知ってるわ……これでも親友だしね。

だから、あなたにはお願いがあるの。

あなたはもう博麗の巫女として苦しむ必要もないわ。

あなたは私の分まで生きるのよ。

私の寿命と力と記憶をあなたにプレゼントするわ。

良き人生を。

後のことは私の記憶が教えてくれるわ。

今までありがとう。

そしてさようなら』


 彼女はその言葉を聞いて目を見開き、雨に混じって、暖かい雫を目から溢れ出ていた。

 友を失った時とは別種の涙が溢れ出てくるのだ。


 友は、気づいていたのだ。

 彼女の歪んだ部分に、危うい生き方に、全てに。


 次に聞こえてきた声は友のものではなく、スキマから聞こえて……否、スキマそのものが発している声だった。


『さて、それじゃあ伝言も伝えたし後はお前次第だぜ?頑張れよ新契約者様?』

『…………ああ、ありがとう。そして力を授けてくれ。代償はいくらでも払おう、この命でない限り全てを捧げよう』

『いや、アフターサービスってやつだ。今回に限って対価はいらない。いらないというより既に先払いされている。だから必要ない』

『……先払いだと?』

『そうだ、八雲紫は俺と契約する際に今の今まで対価を払い続けた。八雲紫はこちらが提示する対価以上のものを払ってくれた。あそこまで律儀な奴も珍しいよな』


 そう言うと私の影に異常が起きる。

 影から大量の目が出現したのだ。

 いや、もうこれは影ではない。

 スキマだ。


『ここまで対価を払ってくれたアイツに俺からのちょっとしたプレゼントってやつさ。気まぐれって言っても構わない。アイツとは長い付き合いだ、その友情に免じて俺はアイツの全てを新契約者様に渡そう』

『……新契約者様っていうのも呼びづらいだろ。無理にそう呼ばなくていいぞ』

『へぇ、そっちを気にするのか。なるほど、それで?なんと呼べばいいんだ?』

『私に名などなかった。私にあるのは"博麗"という記号でしかなかった。だが、私は紫から名を授かった。私の名前は———』


 私は初めて自らの名を語る、騙る。

 我は博麗の巫女ではあらず、我は人ではあらず。

 この身は友の血と肉と記憶で作られた。

 作り変えられた。


 私の名は、


『———"八雲"だ』






『ようやくおでましか』

『待たせて悪かったな』


 魅魔はふと気付いたようにこちらをジロジロと見つめている。

 厳密には私の顔を。

 

『……ようやくまとな顔になったな』

『と、いうと?』

『いい目だ。全てを見据えている。自分が何を信じて何に裏切られたのかよく分かる。そうだ、ようやく私に近づいたな』

『……そうだな。今の私から見たら前の自分が愚かしくて滑稽だと思うよ』

『なに、そこまで卑下する事はないさ。今の自分がいるのはその積み重ねてきた過去の自分のお陰だからな。笑って馬鹿にすれども否定はしちゃいけない』


 魅魔の言葉を聞き終わるのと同時に頭に声が響いてくる。


————なんだ、アイツに穴を開けた奴じゃねえか。気をつけろよ、とてつもなく強いぜそいつは。


 その言葉を心の中で誰にも気づかれないように返答する。


(知っているとも。だからこそ私はアレを越えなければならない)


『くっ、ふふ……アハハハハハハ!!!』


 魅魔は実に愉快げに笑う。

 とても楽しそうに、愉しそうに笑う。


『その顔だ!その目だ!自分しか信じてないその腐った目を待っていた。自分を中心とした獣畜生の顔だ!』

『お前も似たようなもんだろう』

『その通り!さぁ、始めようか。獣畜生に堕ちた者同士殺しあうのさ!!』


 堕ちた彼女は不敵に笑う。

 当たり前のように死地へと向かう。


 さあ、戦え。

 八雲の名を受け継ぐ少女よ。

 自身の正義を証明するために。

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