博麗の巫女
異変を起こしたであろう者が私の目の前にいた。
その者はあろうことか自信を元博麗の巫女と名乗ったのだ。
……ありえない。
私は思ったがふと紫の言葉を思い出した。
博麗の巫女で唯一その使命から逃げて魔に落ちたという者の名前を。
『……魅魔か』
『……ああ、そうか。私の名前を知っているって事は紫から話でも聞いたのか』
魅魔はバツが悪そうに顔を逸らす。
そう、こいつは博麗の巫女の使命から逃げ出したのだ。
私にとってはそれが一番分からなかった。
『私も貴女と話はしたい、だが私は今博麗の巫女としてここに立っている。私情を挟むつもりはない』
そうだ、私は博麗の巫女だ。
私情を挟んではいけない、私は幻想郷の秩序を守る立場にあるんだ。
迷うな。
考えるな。
気持ちを捨てろ、感情を捨てろ。
私は———
『もう遅いよ。手遅れなんだ』
『……!どういう意味だ』
『言葉通りの意味だ。もう陣は発動している。私の制御も離れてな』
『———』
私は絶句した。
終わり?
そうしたら村の人々はどうなる?
幻想郷は?
———私は?
『だから言ったろう。どうせこれが最後なんだ。話をしよう』
『……ふざけるなっ!!!』
『口だけは達者だな。博麗の巫女。だが、もうお前にできる事はない。お前の使命もここで終わりだ』
『口が達者なのは貴様もだろう!!ベラベラとありもしない事を喋って……!』
『……救えねぇなぁ』
魅魔がそう呟くと同時に私の体に異常が起きた。
力が入らないのだ。
力を入れようとしてもピクリとも反応してくれない。
魅魔は私の頭上までくると顔を近づけて話しかけてくる。
『現実から目を背けるなよ。自分を偽るな小娘』
『な……にを……!』
『幻想郷なんてのは滅ぶべきだったんだよ』
魅魔が忌々しそうに言うと周りの景色が変わった。
そこは見慣れた景色だった。
博麗神社の鳥居だ。
『これは幻術だよ。私が想像したものを写している虚構にすぎない』
幻術の中であるからか、魅魔の声はよく響く。
『お前は言っていたな。どうしてこんな事をしたのか……ってな。その理由を教えてやる』
景色は切り替わり紫と顔に靄のかかった人物、そして見たこともない人物が何人も神社の前に出現した。
『ある時、紫を含めた一部の妖怪や神は幻想郷を作ろうとした。
その為に役割分担をしたのさ。
自然を作る役割
生命を司る役割
バックドアを司る役割
様々あったがとにかく一つでも欠けていたら幻想郷ではなくなってしまう重要な役割ばかりだった』
魅魔の言葉に紫と顔に靄のかかった人物以外消失する。
『幻想郷を作るにあたって一つの議題が浮上した。それはどのように作るか……。この時の意見は様々だったらしい。仙界、魔界、人気のない山……色々な候補はあった』
色んな景色が浮かんでは次々と切り替わっていく。
次に映し出された景色は草原だった。
『最終的には人が住んでいない森に作った。外の世界ではその森は未開拓地で人一人住んでいない場所だったらしい。地図にも載っていない場所だそうだ』
景色は切り替わり微かに見覚えのある景色に変わる。
面影はほとんどないがその景色は幻想郷だった。
『当初、妖怪の為だけの楽園として作ったため幻想郷には妖怪しかいなかったようだ。結界もまだ出来てない頃の話だな』
『……幻想郷を設立した時点で結界はもう張られていたのではないのか……?』
私は話を聞いているうちに冷静になり、動けないまま疑問を魅魔にぶつける。
心の奥底ではどうにかしなくてはならない、今ので何分経ったのかなど焦りがあるのを私は気づいていた。
胸の奥のざわつきがどんどん強くなってくるのだ。
『いや、まだだ。結界が張られるのはある事件が起きてからだ』
『事件……?』
景色は切り替わり幻想郷には様々な妖怪がたむろしていた。
『この時の幻想郷はいわゆる妖怪の隠れ里みたいな感じだったらしい。人も来ないから身の危険がない訳だしな』
また景色が切り替わると今度は見慣れない光景に変わっていた。
妖怪が人を襲い、喰らい、残虐な行為をしていたのだ。
『……っ!』
『暴れるな。これはもう既に起きた出来事だ』
魅魔はその景色を消し去る。
『この幻想郷のせいで妖怪達は増長した。人間を好きに襲う事が可能で妖怪側は決して見つからないからな。だが、そんな一方的な虐殺も終止符が打たれる』
顔に靄のかかった人物が妖怪を打ちのめしていた。
片手の指の隙間には大量の札が、もう片方の手は印を結んでいた。
陰陽師のようなかっこうをしている髪を一本に纏めた女性だった。
『博麗と名乗る女が出てきたからだ』




