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逃げ水

作者: だいふく

夏になると思い出すあの感覚。

昼寝から目覚めたらこの世界で一人ぼっちになってしまった様な

胸をキュキューと締め付けられる様な

そんな感覚。


セミたちは「お前に居場所は無いんだぞ」と喚きたてる。

雑踏の音が窓越しに聞こえる。

蒸し暑いにおいと、やけに鼓膜に響く時計の音。

夏の思い出は、どれも僕を寂しくさせる。

僕は夏が嫌いだ。


今年で23度目の夏を迎える僕は、

23度もチャンスが有ったのに、

未だ奴に対して何一つ対策を打ち立てる事が出来ていなかった。


入社2年目、日々のこなさなければならない『アレやコレや』の雑事にもようやく慣れてきた。

イヤホンから流れてくる、さして好きでも無い曲に意識を割り振っても、

道を間違えない程度には社会の歯車ライフを満喫している。


それにしても、だ。

今日は特に暑すぎる。

野良猫は原型を保てずゲル化しているし、

逃げ水は意気揚々とアスファルトを駆け回っているし、

BGMといわんばかりの坊主頭の朝練の声が、イヤホン越しにでも響いてくる。

何より、こんなに空が青い。


そうだ、空が青過ぎるからいけないんだ。

飛行機雲がこの青空をぶった切ってくれれば、まだ良かったのだ。

区画分けされた青空達が、肩身の狭そうな顔をしていれば、まだマシだったのに。


こんなに澄み切った、宇宙みたいな青空のせいで、

何処にでも行けてしまえると錯覚してしまう。

『僕の居場所』が何処かに有ると勘違いしてしまう。


そうだ、空が青過ぎるからいけないんだ。

毎朝7時にその出番を待っている定期入りのICカードを、胸ポケットにしまった。

とりあえず、券売機で一番高い切符を買おう。

それからは、誰も乗っていない様な緑色のバスに乗って、

聞いた事も無い道の駅のちょっとお高いお弁当でも食べよう。


誰も気にしない役立たずの、小さい小さい歯車にも、

いくばくかの給料は支払われる。


夏は嫌いだ。

僕の居場所が何処にも無いことを突き付けてくるから。

それでも、

空がこんなにも青過ぎるから。

なんだか何処まででも行けそうな気がする。



死にたい

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