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☆2



 私とケントリッドが出会ったのは草木が眠る夜のことでした。

当時、エルフはここまで衰退することもなくこの森に村落をかまえて隠れながら暮らしておりました。排他的な私たちの村にケントリッドがやって来たのは、ですから偶然の出来事だったのです。


「……お父さんが帰ってくるの?」

 私は、当時はまた人間でいうところの10歳ほどにしかなっていなくて、幼き娘でございました。


「そうよ。フランカ。出迎えに行きましょうか」

 母様に微笑まれた私は、読んでいた本を置いて立ち上がりました。そうして村の入り口まで人間の街に買い出しに出ていた父を迎えにいくことになるのですが、そこで運命の出会いをすることになるのです。


「……やあ、フランカ。いい子にしていたかな?」

 私に笑いかけた父は、何か柔らかそうなものを抱えていました。白い布で包まれて、ところどころに砂埃がついています。


「お父さん、それ何?」

 私が訊ねると、父は悲しそうな目になりました。母が息を呑んで驚いています。


「あなた、それって……っ」

「森の入り口でね、馬の逃げた馬車で取り残されていたのを見つけたんだ。恐らく盗賊の仕業だろうが、この元気な赤ん坊の両親はすでに殺されていたよ」


「なんてことを……、あなた、この村に人間の赤ん坊を拾ってきたのですか!?」

 放心している母様に私は首を傾げると、父の持っているものを確認しました。それは鼻筋の通った赤ん坊で、耳は私とは違って丸かったのです。

エルフに生まれた私が初めて出会った人間種ヒューマンでした。


「ねえ、お父さん。この子の手、変な痣があるみたい」

「そうだよ。フランカ。盗賊にもこの子が特別だと分かったから、だから一人だけ殺されなかったんだろうね」

 手の甲に不気味な赤いバラのような痣がついた赤ん坊に、母様は恐れを抱いたようです。


「なんて……、なんてこと! まさかこの子が『選ばれし者』だなんて! こんなに、こんなに小さいのに!」

 母様にも同情が芽生えたようです。


「だから拾ってきたんだ。両親を失ったこの子はきっと、立派な戦士になるだろう」

「人間の教会に渡すことなんてありませんわ! ……この村で隠して育てましょう! 大きくなっても、この痣の意味なんて教えることはありません!」


 母様は父から赤ん坊を受け取ると、慈愛に満ちた眼差しで抱きしめました。当時の私にはこの時の会話の意味が分かりませんでしたが、自分に弟ができたことだけは分かりました。

エルフは滅多に赤子を授かることはありません。この日父が拾ってきた赤子は、人間嫌いな村のエルフたちでさえも哀れみを誘ったのでしょう。概ね好意的に受け入れられました。




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