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風がふわりと頬を撫でる。
それはとても暖かく、そして穏やかーーー。
「・・ーーん」
沈んでいた意識がゆっくりと光に掬い上げられるが、まだこの微睡みの中にいたいと願い閉じていた瞼を開ける事拒む。
そしてまた優しい風が草木の小さな声や匂いを届ける。
過ぎ去った風の後の静寂、彼女はやっと重い瞼を開ける事を選んで、眼前に広がる青い青い空を眺めた。
「・・・」
のそりと身体を起こし周りを見渡す。
雄大な大地には青々とした草木が芽吹いていて、鳥達の歌う姿も見て取れた。
「えっと・・・」
ここはどこだろう?
彼女こと鮎川優菜は右の手でギュッと自身の胸元の布を握り締める。
自分は眠る前に何をしていたのか?
思い出すべく記憶を辿る。
辿って彼女はピクリと肩を揺らし、瞼をギュッと閉じた。
思い出すのは良く知った男の顔。
醜く歪むその顔は彼女を蔑み、罵倒しながらその首を握り締める。
ーーそこまで思い出して優菜はあぁ、と思い出すのを止めた。
自分が死んだ事を理解したのだ。
「ーーー女、そこで何をしている。」
振り返るといつの間にそこにいたのか、銀色の髪をした美しい人が立っていた。
「あぁ、ありがとうーーー・・・」
溢れた言葉を口にして、優菜は再度意識を手放した。