表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/45

幕間 崩れゆく壁

幕間 崩れゆく壁


「―――――近いわ」

「壁の崩壊が?」

「ええ、もう、すぐそこまで来ている」

 摂理の壁近くに集った花守の、どの顔にも緊張があった。

「お前は知っていたのか、明臣」

 明臣は水臣の問いに、ちらりと視線を向ける。

「雪の御方様が御自害されようと、吹雪は成る。僕はそう思っていた」

「なぜ」

「根本的な原因までには気付いてなかったけどね。―――――水臣、君は喪失の絶望をまだ知らない。若雪様を亡くした嵐が、ただそのままで済ます筈など無いと、僕は、そう思っていた。………僕の根拠は、それだけだ。絶望への陥落はね、人に狂気と、有り得ない力を与えることがある。嵐の絶望が、吹雪を招く一要因であったとしても、何ら不思議なことじゃないんだよ、水臣」

 それは、明臣が語るゆえの説得力だった。

「成る程な。お前の言う通りだ、明臣。私はまだ失ったことが無い。失ったゆえの狂気も理解出来ない。ただ、愚かとしか思えない」

「言葉は自らに跳ね返ってくるもの。あまり軽率(けいそつ)なことは言わないほうが良いんじゃないかしら、水臣?」

「木臣、何が言いたい」

「自分が万一姫様を失った時のことを考えてみてごらんなさいな。あなた、一番狂気に近い場所にいると、私は思うわよ」

 言いながら、木臣の目は摂理の壁を映している。

 壁の崩壊の予兆を見逃すまいとして。

「それに、壁の崩壊は、あなたにとっても明臣にとっても僥倖(ぎょうこう)じゃなくて?新たな壁が出来れば、恐らく私たちにも転生が可能となる。水臣は理の姫様に直に触れることを長い期間で許され、明臣も富の転生後と寄り添い合えるかもしれない。これがあなた方にとって幸いでなくて何と言うの」

 水臣も明臣も、何も言わなかった。

 木臣の言葉が正鵠(せいこく)を得ていたからだ。

「姫様は、そこまで見越しておられたと思うか?」

 初めて口を開いた金臣に、木臣は頷いて見せる。

「思うわ。恐らく、吹雪を光の方向に転換する際に、もうその見通しは御心の中にあった筈」

「新たな壁は、我々の行動にどこまで干渉するのだろうな。先んじて災いを防ぐとは、どの程度のことまでを言うのだ?」

 誰にともなく問いを発した黒臣に、正確な答えを返せる者はいなかった。

「―――――恐らく、それはほんの少しの許容となるだろう」

 その場にいる者誰もが振り返る。

「姫様………」

「けれどそのほんの少しが、私たちにとっても、人にとっても大きな躍進となる。私はそう考えている。――――――――私たちが、自らを神と称して恥じない程度のことは、出来るようになるものと、私は信じたい」

 理の姫のその言葉が、どれだけ真摯な思いで紡がれているか、理解する為に花守たちは沈黙する。

(神とて願うことはある――――――――)

 水臣は思った。

 誰も、一言も発しないまま、彼らの視線は一様に摂理の壁へと向けられていた。

 若雪と嵐はもうすぐ目覚める。

 ――――――――壁の崩壊が始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ