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幕間 神の目

幕間 神の目


「…何を見てるのさ、水臣?」

「嵐が、兼久のもとへ辿り着いた。…刀を(たずさ)えて」

 その声に宿る微かな愉悦(ゆえつ)に、明臣は眉を(しか)める。

「面白いの?そんなの観るのが」

 感心出来ない、という顔だった。

「いや?ただ、いつ我らの出番が来るや知れぬからな」

 そう(もっと)もらしく語る同胞の、目に踊る光を明臣は見逃さない。

 よくも言う、と明臣は呆れた。

「現時点で僕らに出来ることなど、ほとんど無いよ。知ってるだろうに。そういう展開を楽しみながら覗くなんて、悪趣味も良いところだ」

 水臣がに、と笑う。普段あまり彼が見せない(たぐい)の笑みだ。

「人は醜い。見るに()えないと思わせられることが、あまりに多い。うんざりする程。たまには私を楽しませてくれる娯楽を供したところで、罰は当たるまいよ」

「――――――御満悦(ごまんえつ)のところ恐縮だけど、姫様がお出でだよ」

 明臣のこの言葉にはハッとした様子で、水臣が振り向いた。

 そこには確かに理の姫が立っていた。

 水臣にとって何より尊い存在は、美しい顔に怒りを露わにして水臣を睨んでいた。

 理の姫が右手を振り上げると、白い手がパン、という音を響かせた。

「…恥を知りなさい」

 水臣の頬を打った手の震えを、もう片方の手で抑えるようにしながら、理の姫が叱責(しっせき)の言葉を口にした。その淡く色づいた唇も、微かにわなないている。

「………申し訳ございません」

 水臣が殊勝(しゅしょう)げに謝罪する。

 けれどそれもどこまでが本当だか、と明臣は思っていた。

 彼は水臣に関しては、かなり突き放した見方をすることに決めていた。

「花守に、情を解しない者は要らない」

 この理の姫の言葉に、水臣がちら、と目を上げた。

「―――――しかし神として、情に絡め取られぬことも必要かと」

「もとより承知。そんな言葉が出るのは、あなたが私を信頼していないからだ」

「あなたは私を信頼してくださっておいでですか」

 二人の視線は対立するようにぶつかり合った。

「信頼したい。だから、先程のような言葉は、二度と聴きたくもない」

 まだ怒りの残る、しかし真摯な声に水臣は頭を下げる。

「……承知仕りました。重ねての御無礼、お詫び申し上げます」

 二人の遣り取りを聴きながら、明臣はちらりと人界の様子を見た。

嵐の右手は、今にも刀の柄に伸びようとしている。


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