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優しい魔王


 僕は生きてていいのだろうか。


 この世界に存在していてもいいのだろうか。


 何もできない、ただ力だけを持っている僕が……存在しているだけで世界に多大な影響を及ぼす僕が本当に生きていていいのだろうか。


 みんなを幸せにしようと必死にあがいた結果、誰かを、何かを苦しめてしまう僕が………


 そう思い悩んでいた僕を苦しみから開放してくれた君に心からの感謝の言葉を述べよう。


「ありがとう……勇者」




 僕はもともとただの魔族の子供だった。


 他の魔族の子供達と普通に遊ぶようなそんな子供。


 ただ僕は学ぶことが好きだった。


 魔族には学校がないから、近所や色んな所に住んでる魔物たちの話を聞く、そうやってしていくうちにいろんなことが分かってきた。


 僕たち魔族は魔物の中でも上位の存在であるということ。


 ニンゲンという生き物が存在すること。


 下手に人間の住む世界へ足を踏み入れると殺されてしまうということ。


 これを知ったときはニンゲンとはなんてひどい生き物なんだ!! そう思い激怒した。


 しかも人間はたまにこちらの世界に入ってきて、魔物を殺してこちらの物を奪っていくという。


 そして、それに対抗出来る魔物の主それこそが魔王。


 僕は魔王になってニンゲンをみかえしてやる!


 そう執念を燃やし、ただひたすらに魔力を上げるよう努力した。


 そして100年が過ぎ、僕はニンゲンの世界へ行ってみることにした。


 今まで自分の中の人間はとてもひどいものであったが、実際はどうなのかどうしても気になったからだ。


 100年の時を得て、魔力の制御ができるようになった僕は人間のなかに紛れることは容易かった。


 それに、今の僕の体の大きさはあちらの子供の大きさと変わらないということもあったが。


 いざ、ニンゲンの世界へ行ってみると、やっていることは自分たちのやっていることと何も変わらなかった。


 商業があり、工業があった。


 ニンゲンが街を作り皆賑やかに楽しそうに過ごしていた。


 ただ違ったとこといえば、ニンゲンは何か食べないと死んでしまうらしい。


 それに何か物を手に入れたいときはオカネというものが必要らしい。


 楽しかった。


 いろんなことを知れることが、まるで別の世界のようであることがとても新鮮で斬新だった。


 そうやってニンゲンの世界に足を運んでいるうちに問題が起きた。


 暗くジメジメしたところで少し休んでいると、女の子供が大人に囲まれ今にも泣き出しそうになっているのが見えた。


 こんな素晴らしい世界なのに、何故こういう輩がいるのか、そう思うと腹立たしくなり気がつくとその大人たちの前に女の子供をかばうように立っていた。


「おい、誰だお前?」


 大人の中でも周りを従わせている風の男が言ってきた。


「こんな素晴らしい世界でなんてゲスな行動をしている……」


「ッチ……なんだこのクソガキは」


「面倒だからコイツも拐っちまうか」


「すまんなガキ、お前は関係ないんだが、お前が首を突っ込んできたんだ悪く思うなよ?」


 大人たちはゲスな笑みを浮かべ、僕に殴りかかってきた。


「こんな素晴らしいのに、あんなに平和なのに……」


 魔界じゃみんなで協力して何かを成し遂げることはしない。


 自分ですべてをやる。


 力こそすべて。


 弱い奴は死ぬ宿命。


 だがこの世界は違った。


 弱い者は弱いもの同士で助け合い強い者は弱い者を守ってやる。


 それが僕の見てきたニンゲンの世界。


 だが、素晴らしいだけではなかったらしい……


「お前らみたいなのはあの素晴らしい世界には必要ないよな……」


 殴りかかってきた大人に向けて抑えていた魔力を全開にして威嚇する。


 僕は戦うことがあまり好きではなかったため、大抵魔物から絡まれた時はこうやって威嚇して終わらせる。


 そして今回もそうなった。


 ただ、いつもの時と反応が違ったが


「ひっ……ひぃっ!! ま、まままま、魔物だぁ!!」


 バレてしまったか……どうしようか


 そう思ってさっさと逃げようとしていると、ふと幼い声が聞こえてきた。


「あ、あの……」


「ん?」


 声のした方を見てみると、先ほどの女の子供がおどおどしながらこちらを見ていた。


「魔物……なんですか?」


「まぁ、そうなるな」


「でも、助けてくれたんですよね?」


「だってあいつが悪いじゃん」


「珍しい魔物さんですね」


 女の子供はくすくすと楽しそうに笑った。


「ありがとうございます、助けてくれて」


「ありがとうございます? ってどういう意味だ?」


「お礼の言葉です」


 にこっと笑った女の子供を見て、この子はあの素晴らしい世界にいるべきなのだろうと、そう思い笑い返した瞬間、僕の体が吹き飛んだ。


「っつぅ…………なんだ!?」


 状況を把握するために周囲を見回すと、数人の大人が立っていた。


 しかし、さっきの大人とは違う、なんというか、装備がしっかりしてまるで狩りをするような……


「やべぇ!! 逃げなくちゃ!!」


 地面に向けて威力の大きい魔法を放ち、その場はなんとか逃れることができた。


 それから数年がたち、その国が戦争によって滅びたことを知った。


 僕は絶望した。


 あの素晴らしい街を、民を消し去ることのできるニンゲンが恐ろしく、そして妬ましくなった。


 あぁ、ニンゲンがニンゲン同士で争うのなら、僕が征服してしまおう。そうすれば平和になってくれるだろうか……


 なにはどうあれ、ここままでは僕が壊れてしまいそうだ。


 翌日に僕は魔王になった。


 話のわかる魔物のみを選び、そいつらと共に征服を図った。


 そうすることで平和な世界になるだろうと、そう思いただひたすらに……


 だが、いつになっても平和にはならなかった。


 征服された国は貿易が途絶え、あの時見た素晴らしい国は増えるどころか減っていった。


 そんな中、勇者と呼ばれる者が現れた。


 その時に悟った。


 あぁ、僕は勇者に殺されるのだろうと。


 そして、僕が倒されたその時こそ僕があの日見た素晴らしい世界が蘇るのだろうと。


 だから僕は勇者に数々の試練を与えた。


 色んな罠に引っ掛けたり徐々に強い魔物と戦わせたりとそして勇者パーティーは徐々に強くなった。


 そして最終決戦の時に、僕に従ってくれた魔物たちに勇者パーティーのメンバーと戦ってもらい、僕は勇者と一騎打ちをすることができた。


「……勇者よ、よくきたな」


「……」


「ここまでの道は険しいものだっただろうな」


 なんせ、僕が仕掛けたんだから


「さて、ようやくお前らのにっくき魔王を倒せるのだ頑張れよ」


 そう言って構えてみるが、勇者が戦う意思を見せない


「どうした? 僕を倒したいんじゃないのか?」


「あなた……覚えていますか……」


 勇者はそう言うと、頭部の鎧を外し、素顔を見せた。


 その顔を見たとき僕は絶句してしまった。


「そうか……君だったのか…………」


「あなたは、あの時助けてくれた魔物なんですよね……?」


 悲しそうに微笑む女はあの時の子供そのものだった。


「あなたは変わってないんですね」


 くすくすと笑うその姿は完璧に、あの時と同じであった。


「再会は嬉しいが……僕らは戦わなきゃいけないんだよ」


「な、なぜです!? そもそもなぜあなたがこちら側を侵略しにきたんですか!?」


「僕に勝ったら教えてあげるよ……だから、本気でこい……ッ!!」


 攻撃を始めた僕に狼狽えながらも、ただひたすらに防御し続ける勇者に困惑した。


「何故だ!? 何故反撃してこない!!」


「恩人に刃を向けることが出来るわけないでしょう……ッ!!」


「攻撃してこい勇者!!」


 でないと……僕は……!!


「ではしょうがないな……」


 そう言うと僕は勇者の右腕を全力で切り落とした。


「僕があの時の僕じゃないことは分かっただろ? さぁ反撃してこい勇者!!」


「うぁぁあああああぁあぁぁぁああああああああああぁぁぁああああああああああああぁあああぁああああああああ!!」


 勇者の咆哮が響き渡ると共に、勇者の刃が僕を貫いた。


「な、ん、で……」


「ははっ……いいんだ、だからそんな目をしないでくれ……」


 僕は望んでこうなったのだから


「お願いだから、泣かないでくれ……」


 僕にその涙はもったいなさすぎる


「あなたは最初から私に殺されるつもりで戦いにきてたんですね……」


「さぁどうだろうな…………最後にひとつだけ約束してくれないか?」


 僕の願いを……最後の望みを……


「この世界を……僕が夢見たみんなが笑って暮らせるような世界にして欲しい」


「……えぇ分かりました……約束します」


 よかった……これでようやく楽になることができる……


「これは僕からのお礼だ」


 そう言うと、今使えるすべての魔力を込めた回復魔法を勇者の右腕に放ち、そして言葉を残して消えた。











「助けてくれてありがとう」











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― 新着の感想 ―
[一言] 泣きました。
[一言] 泣けた・・・ 魔王の幼少期から描くのは凄いアイデアですね! こんなRPGあったら廃人化間違いなし!
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