青炎の使い手
不破の墓所を攻略してから1ケ月ほどの時が経過した。
現在、俺はアロイド地域の田舎街道を牛のような羊のような生物が牽く荷車に揺られている。
「いや~、あの有名な『四魔刃』と共に攻略不可の【不破の墓所】を完全攻略した方に護衛してもらえて、あたしゃ感激ですよ」
下卑た笑い顔を崩さない男が大仰な仕草で感激とやらを表現している。
「いえ、一冒険者としてクエストをこなすのは当然です」
「いや~凄腕冒険者でありながらその謙虚さ。高ランク冒険者ってのは、変人奇人ばかりと耳にするが、貴方や『四魔刃』のような人らならアロイドの地は、安泰ですわな。今回の商いは貴方のおかげで安心してできましたわ」
小柄な男だが、その声には張りがあり、よく通る聞きやすい喋り方をする奴だ。
男の名は、ヴェネティッチ・エスフ。
アロイド地域を中心に活動する商人で、主な商品として人材を扱っているという。
魔物が大量発生したと聞けば、冒険者や傭兵を。
労働者が不足していると聞けば、労働者を。
伝染病が発生したと聞けば、治療師や研究者を。
とにかく必要な場所に必要な人材を届けるのが、ヴェネティッチの商売とのこと。
俺が受けている任務は、このヴェネティッチの商隊の護衛。
北の地で発生した崩落事故により、流通業にとって必要不可欠な商用街道のいくつかが塞がってしまったため、この復旧作業を行う為に国が労働者を募っていた。
これに対して、ヴェネティッチが安い賃金でも働ける労働者を集め、まとめて国に斡旋したのだそうだ。
ヴェネティッチは、斡旋した労働者に国から支払われる賃金の数パーセントが入る契約になっているらしい。
今回運んだ労働者は、全部で30名ほど。
その労働者達は、身体的特徴から亜人種族だと分かっている。
彼らの身体には、共通する装飾が為されていた。
鈍い輝きを放っていた首輪。
はっきり言えば、ヴェナティッチは奴隷商人だと思う。
表向きなのは、人材派遣のようだが、必要とされる人材によっては奴隷を送り込むのだろう。
真っ当な商いを行う傍ら、後ろ暗い商いも行っている。
それは、人材に限らず、物も同じらしい。
この一ヶ月で俺は、この世界の常識をある程度学んだ。
良い人、悪い人。良い組織、悪い組織。
すべての善悪を俺の基準で決め付けるわけにはいかないが、俺に刷り込まれている倫理観に照らし合わせれば悪と分類されるモノも少なくない。
この世界において、奴隷制度は当然のように受け入れられている。
メイルたちも良い顔はせずとも制度そのものは否定していなかった。
世界の常識であるのなら俺が意を唱えても無意味だ。
その社会が培ってきた文化を余所者が勝手にぶち壊していいはずがない。
「ウフフ。トウマさんや『四魔刃』の良いところは、世の道理というものを弁えとるところですわ」
空になった荷車に視線を向けていた俺の内心を見透かすように変わらぬ笑顔でヴェネティッチが囁く。
「あたしゃ人間だろうと亜人だろうと区別しとりません。商いっちゅうもんは、それぞれが役目をしっかりこなさんと何処かに損が生まれるんですわ。あたしらのような商人は、誰かが必要とする商品を用意し、それを欲するところに供給する。需要があれば供給が必要とされるんですわ。そうせな今の社会、なりたちませんわ」
「他人に……恨まれても、貴方は今の商売を続けるんですか?」
「あたしの商品を欲する人らがおるうちは、やめらせませんわ」
下卑た笑いを貼り付けたままの顔で言うヴェネティッチ。
そこにどの程度の本心が混ざっているのかは読み取れないが、言わんとすることは理解できる。
神は人の上に人を作らず、という言葉があった。
確かに神とやらが居たとすれば、人は平等に作られたのだろう。
しかし、作られた人と人は、自他を比較する生き物となった。
比較が行われれば、必ず優れた部分、劣った部分が現れる。
「人は、みんな同じですわ。ただ、それぞれに求められる役割っちゅうもんは、本人が望んでるモンが与えられるわけじゃないんですわ」
「……そうですね」
「ウフフ。トウマさんが思いつめることありませんわ。ままならない世の中に生きとるんは、皆同じですわ」
ヴェネティッチは良い奴だと思う。
人材派遣という名の人身売買を生業とする彼は、決して悪人ではない。
この世界において、その職業は肯定されているものであり、文化である。
それでも多くの恨みを向けられる立場にありながら、それが必要な商売である限り続けていくのだろう。
今回の護衛任務でもヴェネティッチは、3回も命の危機に陥った。
一回目は、今回運んだ労働奴隷の中に混ざっていた狼人の爪と牙に引き裂かれそうになった。
集めた奴隷達の情報を派遣リストに記入し、一人一人の労働力とそれに見合う対価がどの程度になるかを労働力を欲している国に提出することで、どの奴隷がどのような作業で役立つかなどが分かり、適材適所による作業の効率化が可能になるため、こうした手間を掛けることは商人としての徳となり、結果的に得となる。
この作業中に狼人が暴れだしたのだ。
ヴェネティッチが斡旋する奴隷達には、僅かなりとも賃金が奴隷に支払われるのでいずれは、奴隷自身が自身を買い取ることが可能になる仕組みになっている。
この世界の奴隷制度にもしっかりと賃金を約束する文があるそうだが、守られていない場合がほとんどらしい。
最低賃金を決めるのは、奴隷の所有権を持つ者であり、奴隷が稼いだ賃金は、かならず所有者の手に預けられるため、奴隷の手に渡るころには、雀の涙ほどもなくなっている。
それを踏まえて考えれば、ヴェネティッチの奴隷たちに対する扱いは高待遇に値する。
それでも奴隷という立場そのものに不満を抱くのは当然。
その時点では、すでに俺がその場に居たのですぐに鎮圧することができた。
幸い、メイルたちの指導により、冒険者として一人でもやっていける程度にはなっていたので対処することができた。
さすがに狼人という高い潜在能力を持つ亜人を抑えるのは手がかかったが、奴隷の首輪に仕掛けられている命令に対する強制力を強化する魔法を扱えるヴェネティッチのおかげで大きな被害もなくすんだ。
しかし、奴隷の首輪も命令を飛ばさないと効果が発揮されないらしいので、狼人のような爆発的な瞬発力と速度を持つ奴隷の場合は、命令する前に命令権者が殺される可能性もあるだろう。
事実、これまでも命令権者が奴隷に殺害された事件もあるらしい。
そのような事件が他の奴隷達への風当たりを強くしてしまっているようだ。
二回目の時は、金品や奴隷を奪おうと盗賊というか山賊っぽい奴らが襲ってきた時だ。
集団で統制の取れた高レベルの山賊だったようだが、不破の墓所で鍛えた俺の敵ではなかった。
三回目の時は、さすがに俺も驚いたのだが、正義の味方を自称する『自由の翼』という義賊が相手だった。
ヴェネティッチが言うには、大金持ちや悪徳貴族の屋敷を襲って金品を奪い貧しい者達に配ったり、奴隷の解放などを行っている団体であるとか。
レベルもメイルたちと同等の奴らが何人か居たため、俺の切り札を出してどうにか撃退できた。
「そう言えば最近、巷でトウマさんがなんて呼ばれとるか」
俺と同じように道中のことを思い出していたらしいヴェネティッチが言う。
「最近は、結構動き回っていますが……変な呼ばれ方でもしていますか?」
「ウフフ。不破の墓所を所有されるトウマさんは、巷では『死霊の王』と呼ばれるようになっとるんですわ。『自由の翼』の連中を追っ払った時に使いなはった骸骨軍団を見させてもらったときは、驚きましたわ。こん人は、そのうち冥府の王にでもなるつもりなんかな~と思ってしまっても仕方ありませんわ」
言いながら嫌らしい笑みの奥にお金の臭いを嗅ぎ取っているという意思が見える。
「王、ですか。まあ、私自身モンスターを使役できるとは思っていなかったですけど」
「ウフフ。モンスターの世界は今も昔も弱肉強食ですから強いお人に従うんは当然ですわ。もっとも、トウマさんが魔物使いとして高い素質を持っていたからできることだと思いますわ」
ヴェネティッチの言葉に苦笑いで答える。
そうなのである。
俺は、天恵技能とは別に新たな技能を獲得していた。
ギルドカードで見た場合、以下のとおりとなる。
[所属]蒼の花園
[名前]トウマ・ササキベ
[ランク]AA+
[レベル]Lv59
[称号]死霊の王 不死殺し 竜殺し 蒼
[技能]治癒術Lv99 調合Lv99 討滅Lv27 拳術Lv21 地魔法Lv19 魔物召喚Lv10
[所有物]不破の墓所
メイルたちに冒険者の基礎を教えられた後、バズの勧め通り、不破の墓所を使ったレベル上げを行ったのだが、5周ほどクリアしたところでその周で倒したはずのジャガーノートが復活して俺の前に傅いてきた。
ギルドから派遣された迷宮管理者(ダンディでスペシャルな髭が似合っている執事風のご老人)によるとダンジョンの主は、攻略者の存在を認めると自らを含めたダンジョン内に生息する
モンスターに対する絶対命令権を与えることが稀にあるらしい。
それ以降、俺は人間の世界でもダンジョンから空間を超えて不死族モンスター軍団を召喚できるようになった。
ちなみに魔物召喚の技能レベルは、不死軍団を召喚し続けていると経験値が溜まっていく技能であるらしい。
バズには、「ダハハ、悪の親玉決定だな!」と大笑いされた。
「洒落にならないです……」
「ウフフ。しかし、あれですわ。不死族を従えるトウマさんを見とると異形と狂獣たちを従えた大昔の神焔の覇王さんを思い出しますわ」
「!?」
今では他愛ない会話となった自身の異常性から派生した話題の中に突如現れた単語。
神焔の覇王。
現在では、伝説にすら忘れられ始めている名のはずだ。
それを知っているということは、ヴェネティッチもユリシカと同じ古い知識に触れる人物ということになる。
今回のクエストを受けた際に確認した情報を再度確認する。
ヴェネティッチ/商人/1324歳
[種族]ヒト族・人間
[技能]奴隷商Lv42 交渉Lv39
天恵技能を信じるならば、彼は間違いなく人間である。
しかし、その年齢が明らかに人外の域にある。
年齢以外の部分におかしなところがない分、余計に胡散臭さが増している。
「ウフフ。あたしの顔に何かついとりますか?」
内面情報を詳しく読み解くには、対象を集中して観察する必要があるため、それを不自然に思われたようだ。
この問いは道中でなんども繰り返していること。
そして、俺も同じ問いを繰り返す。
「……ヴェネティッチさんは、一体どういったヒトなんですか?」
「それは、タダじゃ教えられませんわ。これでもあたしゃ、商人ですからね」
不気味な微笑みで繰り返された答えに俺も同じように繰り返しのため息で引き下がる。
メイルたちの下を離れてからの俺は、こういった手合いに良く遭遇するようになった。
この世界の常識をある程度学んだ俺は、メイルたちのパーティ『四魔刃』のゲスト登録を解除して、ひとり立ちすることにした。
メイルたちと分かれてから知ったことだが、彼らは『四魔刃』と呼ばれるアロイド地域でも最高ランクの冒険者パーティーだったらしい。
Aランクという地位は、ダンジョン探索を主目的にしていなかったために甘んじていた位らしく、高難易度ダンジョン完全攻略という条件さえなければもっと早くランクアップしていてもおかしくない凄腕パーティーとのことだった。
不破の墓所での失態は、単純にパーティー構成的に相性が悪かっただけであり、他の同難易度ダンジョンなら彼らだけでもクリア出来ていたようだ。
一人立ちした俺の現在の主要な目的は、他の第三期時象改変因子と第一期、第二期時象改変因子の遺産の探索。
異世界の存在である改変因子が今現在どの程度この世界に存在するかを知る為に俺は、メイルたちから離れた。
過去の超越者たちの伝説を知るユリシカや超越者の系譜であるかもしれないアカネがいるので惜しくはあるが、彼らと共に行動している間に耳にした『金剛龍』の噂が俺に一人立ちを決意させた。
バズから話に聞いていた『金剛龍』というのは、膨大な魔力と圧倒的な膂力を有するヒトの形をした龍そのものである龍人の女性だった。
まだ直接遭遇していないが、その噂は、わずか一月で嫌というほど耳にすることになった。
つい先日まで『蒼の花園』属していた『金剛龍』は、現在では『紅の城塞』と呼ばれる騎士養成ギルドに属しており、『蒼の花園』の前は、暗殺者ギルド『夜の霊峰』に身を置いていたらしい。
ちなみに『夜の霊峰』は、『金剛龍』が抜けると同時に壊滅している。
アロイド地域の裏の仕事を請け負う最王手だった『夜の霊峰』の壊滅は、表の要職に就いている真面目な聖王国王族や貴族、役人連中には喜ばれたが、裏の政治に関わっていた者たちは、軒並み不正や悪事が明るみに出てしまい、失脚したり、投獄されたり、処刑されたりしたらしい。
その功績だけ見れば、『金剛龍』の功績と見ることができる。
しかし、腐った部分だからといって丸ごと斬り捨てられてしまえば、その部分を請け負っていた容量に空きができてしまう。
裏の秩序を担っていた『夜の霊峰』が壊滅して二ヶ月程度が経ったアロイドの裏家業には、すでに多数の新参ギルドが立ち上げられている。
今回、護衛クエストもそんなギルドの一つに属するヴェネティッチがたまたま表用の仕事をするために『蒼の花園』に持ち込んだものだった。
俺は、金剛龍という女と接触する前にできるだけの情報を集めようとしている。
金剛龍が俺と同じ時象改変因子であるのならば、どのような天恵技能を保持しているのかを知っておく必要があるからだ。
これまで調べた中で予想しているのは、身体変化系と身体強化系、それに魔物使役系の技能だ。
俺と同じ世界から送り込まれているのだとすれば、龍人の身体は天恵技能以外にありえない。
それに『夜の霊峰』を壊滅させた際、一度も魔法を使わずに使役する白銀龍と共に身体一つで戦い切ったという情報もあった。
ただでさえ圧倒的な身体能力と魔力を兼ね備えた龍人に転生し、そこからさらに天恵技能による強化を掛け、最高ランクのドラゴンを従える。
完全な戦闘嗜好であることは間違いない。
これで本人が実は、眼鏡の似合う物静かな図書委員系だったら笑える。
これが当たったら同郷のよしみで大爆笑を贈ってあげよう。
「ま、そんなわけないんだけどな」
「独り言は危険ですわ、トウマさん。注意した方が良いと思いますわ」
「お気遣いいただいてありがとうございます。けど、自覚してますからご心配なく」
「トウマさん……それ、末期やと思いますわ」
心配しているようには見えない微笑みでツッコミを入れてくるヴェネティッチを無視して思考に戻る。
生存特化型の俺と戦闘特化型の『金剛龍』は性質が違いすぎるが、相性は悪くない。
最強の攻撃性能を持つ『金剛龍』と協力体制を取れれば、非常に心強い。
俺が『金剛龍』を探すのは、協力を取り付けるためと目立った行動をして俺たちの特異性が広まるような危険を招かないようにしてほしいと言うためだ。
また、ユリシカの昔話にあった第二期の改変因子たちが、第一期の改変因子たちの力を得たという件。
この話を信じることにした俺は、過去の改変因子たちの力を得る方法も同時に捜すことにした。
昔話の内容から自身が手に入れた天恵技能以外の天恵技能を手にすることが可能かもしれないと分かった。
先達の力は、ほとんど戦闘系技能。
俺に足りない部分である戦闘技能を得られれば、一人でもこの世界で生きていけるようになる。
攻撃もこなせるようになれば生存率をさらに上げられる。
生存特化型の能力を求めたのは、性格なので仕方がないが、俺に攻撃的な本能がないわけではない。
不死族限定で一撃無双して経験値稼ぎをしているうちに俺も戦う力が少しは欲しくなった。
通常の鍛錬で習得可能な技能は普通に鍛えられるので、後は他を圧倒するような火力を持ってみたい。
幸いなことに先任者たちは、超越者と名乗れるほどの力を持っていたようだから彼らの力を得れば、いざという時に力不足だったというようなことも避けられる。
ここから先、自分だけを守り続けるだけでは足りなくなる可能性だってある。
自分を守るだけでなく、他のモノも失わないために力を増す必要があるのだ。
俺は、最強になりたいだとか、人々に尊敬されたいだとか、大金持ちになりたいだとかは思わない。
しかし、日々を楽しく暮らしたいという気持ちはある。
楽しい日々を送るためにも突発的な理不尽に対応できるような準備が必要なのだ。
「トウマさん! トウマさん!! あれは!?」
荷車に揺られながら思考に耽っていた俺の肩を叩きながら怪しげな微笑みのまま焦った調子で叫びながらヴェネティッチが人差し指で遥か前方を指し示す。
彼が指し示した方角にあるのは、アロイド地域の最南端にある港町ヴィエナだ。
ヴィエナには、ヴェネティッチが所属する裏の商人ギルド『無垢な沈黙』があり、その拠点は彼が今指し示している町外れのスラム街にある。
「……何か、すごいことになってますね」
「なってますね、じゃないわ! あれは、どうみても襲撃ですわ! 襲撃! まさか……また金剛龍!?」
微笑みながら悔しがるという奇抜な感情表現をしているヴェネティッチが示す『無垢な沈黙』があるスラム街の一角から立ち上る濃煙とその根元に燃え盛る青い炎。
遠目に見ても高レベルの魔法若しくは、特殊技能であるのが分かる。
「とりあえず、落ち着いてください。こんな距離からじゃ何がおきているかはっきりとは分かりませんよ」
「そ、そりゃあそうですが。あたしらのギルドが襲われてるんは間違いないですわ!」
微笑みながら慌てているヴェネティッチをとりあえず座らせて目標地点を観察する。
[青炎Lv5 広範囲特殊攻撃 与ダメージ限界99999]
「うわお、なんというチート。 ……『金剛龍』じゃないでしょうけど、高確率で俺の目的だと思います」
前任者たちもそうだったが、どうしてこう特別な力のイメージが炎を操るとかなんだろう。
「トウマさんの目的? あないな理不尽をソーマさんは探しとったんですか?!」
慌てながらも微笑みを忘れないヴェネティッチの問いかけに素直に頷く。
「そうですよ。けれど、それ以上はタダでは教えられませんけどね。これでも俺は、ケチなんです」
「トウマさん、アンタ……ひとを笑かす才能はないですわ」
「ここで真顔に戻らないでくださいよ!」
ヴェネティッチの初めての微笑み以外の表情が現れてしまった。
俺は、恥ずかしさを誤魔化すように荷車を牽く牛?に鞭を入れて先を急いだ。
そんな俺の行動にヴェネティッチは再び微笑みを取り戻しながらも苦しそうに問い掛けてきた。
「ト、トウマさんは、あたしらを助けてくれますか?」
ヴェネティッチの救いを求める言葉に俺は頷く。
「助けますよ。アレは、俺の目的の一つだと思いますし、商業系ギルドに恩を売っておくのは後々特になりますからね」
「トウマさん! アンタは、良い商人になりますわ!」
俺の応えに不気味な微笑みと熱い抱擁で感謝を示すヴェネティッチを無視してヴィエナに急ぐ。
金剛龍の前に別の改変因子を見つけてしまったかもしれないが、まずは青い炎を使う奴がどういう理由で暴れているのか確認しよう。
「己を知り、相手を知る。基本は守った方がお得だよな」
街が徐々に近付くにつれて、相手の情報が天恵技能を通じて入ってくる。
「……アンタは、良い人か悪い人か。どちらにしても、俺にとってはお得な人であってほしいな」
相手の情報を得つつ、俺は交渉と戦闘の準備を整えた。