〔第三部〕「確かなもの」13話
「二〇X一年十一月十五日 昔の話し」
三ヶ月が経った。
相変わらず冬が続き、雪が降り続くある日、十キロメートルほど離れた集落から、Tと同じくらいの歳の男がやって来て、食糧を分けてくれないかと言った。
Tは僕に、地下の貯蔵庫から干し肉とジャガイモを持って来るように言い、シズカさんには酒を持って来させた。
男とTは、キッチンテーブルに座り、話しをしはじめた。
僕は地下に降りて、貯蔵庫から干し肉とジャガイモを入れた麻袋をかつぎ出し、キッチンテーブルに置いてから、自分も椅子に座った。
Tにそうするよう、うながされたからだ。
男は、夜中に降り積もる雪の重みで家が倒壊し、下敷きになって死んだ一家の話しや、冬眠前に十分な食糧を蓄えられず、腹を空かせて徘徊する熊に襲われて死んだ子供の話しをした。
そう話す男も腹が減っていたらしく、シズカさんが作った煮込み料理をガツガツ食べて、そしてお代わりをした。
男の話しを聞きながら、空いたグラスに酒を注ぐTの体調は回復しはじめていたが、狩りに出られるほどではなかった。
男は、もう集落でも狩りに出られる者は少なくなったのだと言った。
そして、Tの所には若い働き手がいてうらやましいとも言った。Tは、僕にも酒を注いでくれた。
僕はそれを飲みながら、「僕は、まだTのようには巧く狩りができません」と、男とTの顔を見るとはなしに見ながら言った。
僕はこの土地に来て、T以外の歳の離れた男に会うのも話しをするのもはじめてで、少し緊張していた。
すでに酔っ払った男は「Tはこの土地で一番の狩りの名人だからな。そして、王国を支える参謀だった」と言って、喉をならしながら美味そうに酒を飲み干した。
「昔の話しはよせ」
Tは眉間にしわを寄せて、咎めるように言った。
「おぉ、これはすまない、君はもう引退したんだったな」
男は、悪びれる様子もなく言った。
「ただ、知っているか? かつての王子が、トランクルームを脱出したらしい。そして、行方不明になったそうだ」
「なに? その話しはいつ、誰から聞いたんだ! 」
Tが突然声を荒げた。
「やはり知らなかったのか? 話しは、この冬がはじまる前に集落に立ち寄った旅人から聞いた」
「なぜすぐに知らせなかったのだ? 」
いつも冷静なTが、男につかみかからんばかりに身を乗り出した。
「君のことだから王子から直接知らされていると思ったんだ。そしてなにもしないのだと……。いずれにしても言い伝えの男が現れない限り王国は再興しない、そう判断したのだと思っていた」
Tは黙ってしまった。
そして、何かを考えていた。
そのうちに男は、干し肉とジャガイモの袋を持ち、礼を言って帰って行った。
Tは、僕がはじめてトランクルームの話しをした時と同じように、顔のしわを深く刻んだ、厳しい顔をしていた。




