〔第三部〕「確かなもの」8話
「二〇X〇年十一月十日 脱出」
その日、トランクルームには早鐘が鳴り響いた。
何者かが、トランクルームから大切なものを持ち出したのだ。
大切なものがなくなっているのを発見したのは管理人だった。
管理人は、すぐポリスに通報して捜索させたが見つからなかった。
トランクルームの住人は、そんな大切なものが一体なんなのかを知らなかったから、さまざまな憶測が飛び交った。
それは、悠久の昔から人々が受け継いで来た秘宝だと言う者もいれば、何か大きなエネルギーの塊らしいという者もいた。
一方で、それが持ち出されたから一体どうしたのだと言う者もいた。
何かの大きさも形も色も語る者によって違っていた。
そして、「持ち出した」という言い方をしたのにはわけがある。
なぜなら、その大切なものは、もともとトランクルームのものでもなければ、管理人のものでもなかった。
実は、遠い昔に管理人がそれを盗んで、トランクルームに隠してしまったのだ。
管理人がなぜそんなことをしたのかは誰も知らなかった。
ただ、その大切なものは隠されてしまったことと、そしてなにより正当な持ち主のもとにないことが原因で、その輝きは鈍く、今にも消え入りそうになってしまった。
輝きを取り戻すためには、主に返すしかないのだが、主にも資格がいるのだ。
持ち出した者は、マルキスだった。
彼は、大切なものを持ったまま自分の国へは帰らず、歳の離れた男、Tのもとへと向かった。




