8、定食屋
『疲れたねー。』
「ほんとに・・・」
今は深夜3時。
ノアは2時に閉まり、遥ちゃんと二人で歌舞伎町の定食屋に来ている。
周りのテーブルの客は、派手な男女や酔っ払ったおじさんばかり。
いかにも歌舞伎町の深夜っていう客層で、少し居心地が悪い。
ノアから送りの車も出るんだけど、料金が2000円もかかる。
それで二人は電車で帰る事にして、今は始発待ちだった。
それに、絵里はまっすぐ送りで帰るのはもったいない気がした。
まだ歌舞伎町にいたい。
『絵里ちゃんがノアに入ってくれたらいーのにな。
一緒に通えるし、帰りも遊べるし。』
遥ちゃんが鯖の骨をキレイに取りながら言う。
「ほぼ毎日サロンがあるから・・・。
でも、いぃなぁ。
サロンがなければノアで働きたいっ。
お水、楽しいですねっ。」
絵里の気持ちはグラグラ揺れていた。
サロンのカウンセラーになったのも、大学や短大に行けなかったからだった。
別に、夢じゃなかった。
やりたかった仕事でもない。
そう考えると、お水を本業にする事に抵抗さえなくせば、サロンよりお水をやった方がいい気までしてくる。
でも・・・。
やっぱりキャバクラ嬢になる勇気なんか出ない―――
「入店はできないなぁ。
たまにバイトするならいいけど、本業にするのはチョット抵抗あるよ。
親にも言えないし・・・。」
遥ちゃんは少し淋しそうな顔をして、笑った。
失礼な事を言ったかもしれない。
とっさに絵里が謝ろうとしたら、遥ちゃんが口を開いた。
『そうだよね。
お水って、周りに白い目で見られる事もある。
・・・でも、遥はお水にプライド持ってるんだぁ。
それに、こんなに稼げる仕事ってないと思う。
学歴は中卒だし二十歳だけど、頑張れば頑張った分がお給料になって戻ってくるし。
女に産まれたのはラッキーだと思うの。
だからさ、絵里ちゃんがお水をやりたくなったら、いつでも言ってね。』
遥ちゃんの言葉が胸に響く。
そして、堂々とお水で生きれる遥ちゃんを少し羨ましく思った。