6、ノア
すごい・・・。
ネオンの数が、地元の繁華街の何十倍なんだろう。
遥ちゃんは慣れた様子で人込みを歩いていく。
「私、場違いな感じがするんですけど・・・。」
『そんな事ないよー!
あと少しでお店だから。
ノアってゆう名前なんだけどね。』
ノアって、乃亜たんと一緒。 少し親近感がわく。
ネオン街を歩くこと五分、目の前にノアと看板が出てきた。
ノアは古い雑居ビルの2階にあり、そのビルは1階から6階まで全て飲み屋さんが入っていた。
隣のビルも、その隣のビルも飲み屋さんばかり―――
「飲み屋さんって歌舞伎町に何件くらいあるのかなぁ?」
『キャバだけで300とかじゃない?
風俗やホスト入れたら1000は超えてると思うよ。
じゃ、行こうか!』
「あ、うん。
お願いしますっ。」
歌舞伎町に少し圧倒されながら、絵里はノアのビルのエレベーターに乗り込み二階のボタンを押す。
エレベーターも古くて今にも止まりそう。
ノアもボロボロなんじゃないかと不安になった時、ドアが開いた。
「すごいっ!」
白を基調にしたオシャレなエントランスが、目の前に広がっていた。
「ビルから想像つかない・・・ですね。」
『そーだよね。
歌舞伎町は新しいビルは少ないから。
古いビルでも内装がキレイなお店はいっぱいあるよ。
ノアもそうでしょ?』
遥ちゃんはエントランスで『ねぇ、店長は!?』と、誰かに声をかけている。
絵里はエレベーターを降りたところで完全に硬直してしまっていた。
緊張した時は手のひらに人って三回書いて飲むんだよね?!
―――ちょうど三回目に人を書いた時、遥ちゃんが絵里に手招きした。
急いで飲み込んで遥ちゃんのあとに続く。
エントランスを通り過ぎ、廊下?を少し歩くとフロアが見える。
フロアにはソファーとテーブルがたくさんあって、間接照明が所々に設置されている。
フロアは広く、ソファーには80人くらいは座れそうだ。
だけど遥ちゃんいわく、ノアはそこまで大きいお店じゃないらしい。
遥ちゃんに案内され、フロアのはじのソファーに座る。
『これから店長の面接だよ。 そんな緊張しないで平気だからねっ。
頑張って!
またあとでね。』
遥ちゃんはどこかに行ってしまい、絵里は一人になってしまった。
男の人が絵里に履歴書らしき物を手渡し、お茶をテーブルに置いていく。
履歴書を見ると、普通の昼の社会とは違うのが明らかだった。
名前、住所、生年月日、本籍。 そこまでは一緒。
でも、学歴は一切書く場所がない。
昼間なら一番重視されるのに・・・。
その下に希望シフト、希望時給、他店経験などを書く欄があった。
あとは、撮影OKかNGかってゆうのと、身長体重や体のサイズ。
よくわかんないけど、とりあえずOKに○をつけてみる。
『書けましたか?』
男の人の声がした。
書類から目をあげると、三十歳くらいのスーツの人がいる。
『店長の酒井です。』
「咲坂絵里です。
お願いします。」
絵里は頭をさげた。